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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第三章:アリスティア国編
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ep.7 再び会う日まで

 かすかな物音でアシェルは目を覚ました。

 視界が徐々に明るくなり、寝ぼけ眼をこすりながらベッドを出ると、すでにイゼルが旅の支度をしていた。


「ああ、すみません。起こしてしまいましたか。まだ、時間にも余裕があるので寝ていても大丈夫ですよ」


 そうは言われても、すでに眠気は吹き飛んでしまった。

 窓の外を見るとぼんやりと白い靄がかかっており、太陽も完全には顔を出していなかった。

 

「師匠、少し散歩してきてもいい?」

「ええ、どうぞ。今日でアリスティアは最後ですからね。気をつけて行ってきてください」


 アシェルは頷くと、外へ出た。

 空気はうっすら冷たいが、胸の奥まで澄んでいく。

 アシェルは大きく息を吸い込み、肺いっぱいに新鮮な冷気で満たした。


 人々はまだ眠っているのか、街は静かだ。


 あてもなく歩き続けるうち、花が咲く丘にたどり着いた。

 その上には小さな墓石が並んでいる。

 朝靄の中、そこだけ時間が止まったように静かだった。




「アシェル?ここで何してるの?」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、そこにはリエルが立っていた。

 リエルの手には花が抱えられていた。


「ただの朝の散歩だよ」

「ふぅん、また散歩なんだ。会う時いつも散歩してるわね」


 リエルは目を細めた。

 そのままアシェルの前を通り過ぎ、墓石の前に花を置いた。


「そのお墓は?」


 アシェルが尋ねると、しばらく間を置いてリエルは口を開いた。


「私の母のお墓よ。顔は全く知らないけど……魔界の門が開いたあの日、この国は魔物に襲われたの。母は私を庇って命を落としたらしいわ。毎日ここに来ているの」

「そうなんだ……」


 リエルは立ち上がると、膝あたりについた土を払い、遠くを見つめた。

 穏やかで冷たい風がリエルの髪をさらった。


「お母様はアリシエル様に認められた正式な王だった……だけど、お母様亡き今、空いた席を埋めているのはお父様なの。お父様はアリシエル様に認められなかったわ。だから、私が早く一人前になって王にならないといけない」


 リエルは小さくため息をついた。


「はぁ、こういうの疲れるわ。ねぇ、アシェルは何か目的があって旅をしているの?私みたいに何か使命があるとか?」


 アシェルはどきりとした。


「なんで……?」

「なんとなくよ」


 リエルは柔らかく笑った。


「普通、外から来た人が“神に会いに行く”なんて言わないわよ。それに、アシェルは普通とは違いそう……直感でね」


 アシェルが黙り込むとリエルはアシェルの肩をポンと軽く叩いた。


「まぁ、別に言いたくないのなら言わなくてもいいわ。誰しも秘密はあるもの」


 アシェルは先行くリエルの後をついていった。


「そう言えば、アリシエル様に認められなかったんだって?」

「……うん、そうだよ」

「そう。……でも、そういうこともあるわ。お父様が認められず、私が認められた理由だって分からないもの。神は気まぐれなのよ」

「だけど、次に行く道を示してもらえたから」

「ゴルヴァンテ、でしょ? 守護神はゴルヴァン。あそこは頭の固い人が多いけど……。まあ、頑張りなさい」

「うん、ありがとう」


 リエルを友人と呼べるかはまだ分からない。

 けれど、慰めようとしてくれるリエルの温かさが伝わり、胸の奥が少し軽くなった。

 他愛のない話を交わしているうちに宿の前に着いた。


「じゃあまた後で」


 リエルはついでだと言ってアシェルを宿まで送ってくれた。

 二人は別れ、アシェルが部屋に戻るとすでにネリーがいた。


「アシェルどこまで行っていたの?遅かったわね」

「うん、たくさん歩いたからね」


 胸につかえていたものがほどけ、アシェルは晴れやかに微笑んだ。

 食事を済ませると、そのままテオラ王の元に向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「今日、本当に立たれるのですな」

「はい、短い間でしたがお世話になりました」

「ふむ、今回アリシエル様に認められなかったことはまことに残念だが、我が国へは気軽に遊びにきてくだされ」


 テオラ王は穏やかに笑っていた。


「そうですね。次来る時は再びアリシエル様のもとに行く時かもしれません」

「ほう?またアリシエル様のもとに行かれるのですか?」

「ええ、ゴルヴァンテへの道を示してもらえたことは、何かそこに我々に必要なものがあるということ。そこでの成長がアリシエル様の求めていることに繋がるかもしれません」


 テオラ王は髭をいじりながら何事かを考えているようであった。


「そうですか。あなた方の旅の目的……気になりますが、詮索はやめておきましょう」

「申し訳ありません、テオラ王」


 テオラ王は首を横に振った。


「よいのです。イゼル殿は昔と変わらず前を向いておられる。私は感心いたしました。我々も、ただ世界の行く末を眺めるのではなく、あなた方のお力になれるよう努めます。困ったときは頼ってくだされ……どうか道中、お気をつけて」

「感謝いたします」


 イゼルが深々と頭を下げ、アシェルとネリーもそれに倣う。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アリスティアの門の前まで来ると、リエルが走ってきた。


「これはリエル様」


 イゼルは丁寧にお辞儀をした。


「挨拶はいいわ。アリスティアを出る前に間に合ってよかった。私も個人的に挨拶をしておきたくて」


 リエルは息を整えるように、深呼吸を繰り返した。


「あなたたちと出会って本当にいろんなことが起きたわ。感謝半分、後悔半分っていったところかしらね。……まだあなたたちのことを完全に信頼したわけじゃないけど、またここにくるのであれば、その時はみんなで歓迎するわ」


 リエルは微笑んだ。


「あっ、それとアシェル!あんたにこれを渡しておきたくて」


 そう言い、リエルはポケットから緑の石でできた首飾りをアシェルに渡した。


「危なっかしいからアリシエル様の加護が施された首飾りをあげるわ」

「そんな大事な物いいの?」

「アリシエル様の加護って言っても、私の力を施したものだけど……でも、私の力はアリシエル様の力でもあるから。これから危険な旅に出るのなら持っておいて損はないわ。あんたは放っておけないし、これに守られてたほうがいいわ。ほら」


 素直ではないが、身を案じてくれるリエルの優しさを感じ、ありがたくいただいた。


「リエルにはいつも世話になってばかりだね。次は僕が何かできるように頑張るよ」

「期待してるわ」


 リエルはアシェルたちの姿が見えなくなるまで門の前に立っていた。

 アシェルたちはゴルヴァンテに向けて再び旅に出た。

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