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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第三章:アリスティア国編
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ep.6 心の決心

 アリシエルの祭壇を後にし、二人は静かな風を背にアリスティアへ戻っていた。


 ネリーになんと説明しようかと頭を悩ませながら、塔の階段を降りていると、下の方が何やら騒がしかった。


 下を覗くと、アリスティアの住民たちが武装して集まっていた。

 テオラ王も重装備であり、アシェルとイゼルは何事かと急いで階段を降りていった。


「テオラ王!?どうなされたのですか?」


 イゼルはテオラ王の方へ走って行った。

 こちらに気づいたテオラ王は重臣たちを押し退け、イゼルのもとまで行くと、肩を掴んだ。


「どうもこうもありませんぞ!魔物が現れたと聞き、急いでやってきたのです!イゼル殿たちが入った試練の間から魔物が現れたと聞いていたのですが……怪我はないのですか?」


 テオラ王は、イゼルとアシェルの体をまるで何度も確かめるように、くまなく見ていた。

 イゼルは穏やかに微笑み、そっと王の手を叩く。

 その瞬間、テオラ王はハッと我に返り、ゆっくりとイゼルの肩から手を離した。


「特に大きな怪我はありません。……そのお話は誰からお聞きになったのですか?」

「我が娘、リエルからだ」


 テオラ王がそう言うと、後ろからリエルとネリーが現れた。


 リエルは安堵の表情をみせ、ネリーは一目散にアシェルのもとに駆け寄った。


「よかった!アシェルが無事で!怪我は……ないみたいね」


 ネリーはアシェルの体を隅々まで見た。

 大きな怪我がないとわかるとホッと息を吐いた。


 テオラ王はその一連の流れが終わるのを確認すると、イゼルに質問をした。


「して、アリシエル様にはお会いすることはできましたかな?あなたの望む結果にはなりましたか?」


 テオラ王の質問にイゼルは首を横に振った。


「いえ、今回はアリシエル様からお力を頂くことは叶いませんでした。しかし、西の国のゴルヴァンテに向かえという助言をいただきました。我々は次にゴルヴァンテに向かおうと思います」

「ゴルヴァンテですか……アリシエル様がそうおっしゃるのであれば、そこにあなた方が求める何かがあるのでしょう。我々も何か助けられることがあれば、あなた方のご支援をいたします」

「ありがとうございます」


 イゼルは深々とお辞儀をした。

 テオラ王は手を挙げ、制した。


「よいのです。今日は宿屋にお泊りください。明日、また私のもとに来て、どうするのかお話をお聞かせください」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 試練の塔に集まった者たちはぞろぞろと国へ帰っていった。

 アシェルたちもその集団とともに国へ戻り、昨日と同じ宿屋に泊まった。

 


 夜は深くなり、アシェルは夕飯を済ませるとすぐに部屋へ戻った。

 ベッドに寝転がり、自身の手をぼーっと見つめた。


「……僕には、全く力がないのか」


 言葉が漏れた瞬間、胸の奥がじんと痛んだ。


 今までずっと聖域で生活をし、幼き頃より守人たちから守られ、魔法を教わってきた。

 自身の力がどれほどのものなのか、まったくわかっていなかったのだ。


 だからこそ、今回イゼルと魔族の戦いを前にし、自身の力のなさを実感してしまった。

 

「僕は世間を知らなすぎた……」


 そんなことを呟いていると、扉が開く音が聞こえた。


「アシェル、まだ起きていたのですか?」


 イゼルは明日旅立つため、その支度をしていた。

 手には薬草と、日持ちのする食べ物を持っていた。

 

「店が閉まるところでした。これでゴルヴァンテまで安心していけそうです」


 イゼルは機嫌が良さそうだ。


「ねぇ、師匠……」

「はい?」

「……僕に魔法の特訓をつけてほしいんだ」


 イゼルは荷造りする手を止めた。


「……そうですね。アシェルもそろそろ特訓を始めましょうか。それに、私が聖域に来た理由はそれですからね」


 イゼルはにこりと微笑んだ。

 アシェルはベッドから体を起こした。


「アシェルから言ってくれて嬉しいです。私から言ってしまうのは、少し無理強いになるかもしれないと思っていました。……魔法を嫌いになってしまう可能性もありますからね。しかしなぜ急に?今回のことがあったからですか?」


 イゼルの質問にアシェルは頷いた。


「今日、ヴァルクレアっていう魔物に出会って、僕の力のなさを痛感したんだ。これじゃあ僕は誰も守れない、ただのお荷物になる……それは嫌だから」


 イゼルは静かに頷いた。


「誰かのために、と思える気持ちは人を強くします。人は無限の可能性を秘めている。強くなろうと思えばどこまでも強くなり、何にでもなれる。これは生まれてからこの世界のルールに完全に縛られていない人の特性だと思っています」


 イゼルは立ち上がり腰を伸ばした。


「そうですね、ゴルヴァンテまでは長い道のりです。道中、魔法の特訓でもしながら行きましょうか」


 アシェルは頷いた。


「そうと決まれば、今日は明日に備えてもう寝ましょう。朝も早いですし」


 イゼルは部屋の明かりを消し、寝床についた。


「おやすみ、師匠」

「おやすみなさい、アシェル」


 二人の言葉を包むように、夜風が静かにカーテンを揺らした。

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