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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第三章:アリスティア国編
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ep.5 拒否

 アシェルとイゼルは頂上まで続く長い螺旋階段を登り、ついに外へ出た。

 

 二人は息を弾ませながら、額に滲む汗を拭い、あたりを見回した。

 目の前には石の台を挟み、大きな燭台がある。

 その台の上には緑の玉が浮いていた。

 玉の中は透明でありながら、何か力を帯びているのかオーラが揺らめいていた。


「ここに、アリシエル様が?」

 

 アシェルはあたりを見渡した。

 雲一つない青空の下、遥か眼下にはアリスティアの街並みが広がっているだけで、緑の玉以外はこれといったものは何も見当たらなかった。


「この玉が何かの手掛かりでしょうか。…… 触れても……大丈夫だろうか」


 イゼルはそう言い、恐る恐る緑の玉に手を触れた。


 すると突如、風が吹き荒れた。

 アシェルたちは風に押され、足に踏ん張りを効かせたが、強風に耐えきれず壁に背中をぶつけた。

 目の前には大きな竜巻が現れ、逃げ場などない。

 

 アシェルたちは竜巻に巻き込まれないように、体勢を低くした。

 しかし、その竜巻がアシェルたちを巻き込むことはなかった。


 竜巻の風が人の姿を型取り、女性の姿が浮かび上がった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ふぅん、このあたしを呼んだのはあなたたちね」


 その姿は頭のサイズだけで人一人分の大きさである。

 アシェルたちよりも圧倒的に大きい。


 白い肌に白銀の長い髪は軽やかに風のようにゆらめいている。

 すぐにその存在がアリシエルであると理解した。


 アリスティアの住民の服装の特徴である渦巻きの模様が施された純白のドレスを身につけていた。


 アリシエルはアシェルたちを見定めるかのように目を細め、見つめていた。


「何やら、ずっと風が落ち着かなかったわね。まぁ、ここに漂う魔族の臭いと私の守護者がやられている時点で一波乱あったのかしら」


 アリシエルは前屈みになりアシェルたちに顔を寄せた。


「聖導師……何百年ぶりかしら。だけどずいぶんと、か弱い聖導師ね……まぁ、ここまできたんだから話しくらいは聞いてあげてもいいわ。望みは?」


 アリシエルは手を前に出し、アシェルの要望を聞く姿勢を見せた。

 アシェルは意を決してアリシエルを見つめ、膝をつき礼をとった。


「風の守護神アリシエル様、僕たちは貴方のお力をお分けいただきたく参上いたしました」


 アリシエルはアシェルを見つめ、「うーん」と唸り、しばらく間を置いた。

 沈黙でアシェルの不安は募る一方であった。

 心臓の鼓動が全身に響き、吐きそうな気分に見舞われる。


「残念だけど、それはできないわ」

「えっ……」


 その一言にアシェルは驚きを隠せなかった。


「なぜって、あなたがその力を得る価値がないと思っているからよ」


 アシェルはショックに何も言い返すことができなかった。

 しかし、自分の今までの力不足なところを思えば、アリシエルが自分を拒否した理由もわかる気がした。


 全身の血液が下に降りていき、体から熱を失っていくのがわかる。

 しばらくすると、イゼルが何か言いたげに前に出た。


「アリシエル様、貴方様の気持ちなど人間の我々には到底理解ができるものではないのは承知の上です。しかし、我々は魔王の力に対抗すべく貴方様のお力が必要なのです。ご存知かもしれませんが今、大樹の力が弱まり、勇者を生み出す力がないほどです……」 


「ええ、そうね賢者イゼル。この世界は闇に蝕まれつつあるわ。(わたしたち)が大樹へ力を送ることすら、もうままならないわ。それに封印が解けるのも時間の問題……だけど、私には人間を助ける義理なんてものはないわ。それでこの世界が終わるのならば、私はこの世界の流れに身を任せるだけよ。私は世界と共にあるから」


「それはアリスティアの民も含めなのですか?」


 余裕のあったアリシエルの表情が微かに歪んだ。


「確かにアリスティアの子達は少し気にかけてあげてもいいかもしれないわね。あの子たちの望む結果にしてあげてもいい……だけどこれはこれよ。私は今の聖導師に力は与えない」


 アリシエルはきっぱりとそう言い、腕を組むとそっぽを向いてしまった。

 アシェルは絶望し、下を向いた。


「いったい僕には何が足りないのですか……」


 アシェルの言葉に反応したアリシエルは青い瞳をアシェルに向けた。


「そんなの全てよ。今のあなたには何もかもが足りない。力なき者に、(わたしたち)が力を与える道理などないわ」

「……」


 何も言い返せなかった。

 その言葉は、塔に吹く風よりも冷たく、胸を貫いた。

 しばらく、時間が止まったように沈黙が流れた。


「……ここから西の国、石の王国ゴルヴァンテに向かいなさい。そこでの経験があなたを強くするかもしれないわ……」


 ボソリと呟いたアリシエルの言葉に、アシェルは上を向いた。


「私からのありがたい助言よ。まぁ、これくらいは与えてあげてもいいわ。そこでの経験で成長したのならまた私の元においで……」


 アリシエルの体は徐々に透明になり、大気に溶けていった。


 そして、その場にアシェルとイゼル、二人だけとなった。

 しばらくして、イゼルは気持ちを切り替えるかのように力強く立ち上がり、アシェルに手を差し伸べた。


「アシェル……今回は残念ですが、全く収穫がなかったわけではありません。さぁ、次に進みましょう。次は西の大国ゴルヴァンテに向かいます」


 アシェルも気持ちを切り替えようと頭を横に振った。

 そして力強く頷き、イゼルの手を取った。


 風が静まり、残されたのは青空と胸に残る痛みだけであった。

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