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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第三章:アリスティア国編
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ep.4 ヴァルクレア

 ヴァルクレアとアシェルたちの睨み合いは続いていた。


「なぜここに魔族がいるのですか?ここはアリシエル様の試練の場ですよ」


 イゼルはヴァルクレアに杖を向け、睨みつけた。

 

「ん〜、そんなの聞いたところででしょう?あなたに何の関係があるのかしら?そんなことより私はあなたたちとも手合わせ願いたいわ」


 ヴァルクレアは黒い霧を出したかと思うと、その手には大きな黒い槍が握られていた。

 イゼルはあたりを見回した。


「……守護者が喰われたせいで、結界ごとこの層が綻んでいるのか……?魔族の侵入はこれか……」


 イゼルが一瞬、目を離した隙にヴァルクレアは姿を消し、アシェルの目の前に現れた。


「いただきます♡」


 ヴァルクレアの突きはアシェルの思考よりも早かった。

 瞬時のところでイゼルの防御壁によって助けられたが、ヴァルクレアのひと突きでそれはすぐに砕け散った。


「すごいわ!私よりも早く動けるなんて。あなたはあそこの守護者よりもやりがいがありそうですわ」


 ヴァルクレアは興奮気味にイゼルを見た。


「アシェル、あなたは後ろに下がっていてください。ここは私がやります」


 アシェルは頷き、ヴァルクレアに警戒しながら後ろに下がった。


「残念ですわね。だけど、私には後ろに下がろうが関係ありませんわ。だって魔法使いは魔法発動まで時間がかかりますもの!」


 ヴァルクレアはイゼルを無視し、アシェルに向かってきた。

 来る衝撃を覚悟し、アシェルは身構えた。

 しかし、次の瞬間――


「う゛っ!!」


 ヴァルクレアの呻き声が聞こえ、血が床にこぼれ落ちる音がした。


 目を開けるとヴァルクレアの胸に大きな穴が開き、その体は力無く倒れていた。


「えっ……」

「アシェル、大丈夫ですか?」


 イゼルはアシェルを心配する様子で駆け寄ってきた。


「これは師匠がやったの?」

「ええ、まぁこれで魔物が息絶えたことを望むのですが……」


 イゼルは倒れたヴァルクレアを見た。

 するとヴァルクレアの体は小刻みに震え出し、くつくつと笑い始めた。


「あはははは!残念ね、私たちはこれだけでは死なないわ。だけど、私の核が傷つけられたのはなかなかにきついわね……ぐっ」


 ヴァルクレアは立ち上がると口から溢れ出る血を拭いながらイゼルを見た。


「この攻撃……思い出したわ。あなた、オルフェンの仲間だった賢者ね。ふふふ、またこうして出会えるなんて、運命の赤い糸かしら……?」


 ヴァルクレアが傷元に手を持っていくと、傷口の修復を計っているのか、胸の肉が唸りだし、肉と肉が繋がり始めた。


「……守護者を食べただけではなかなか力にならないものね。今日はここまでにしてあげるわ。次会った時はあなたたちをいただくことにしましょう」


 ヴァルクレアの背中から黒い翼が生えた。


 しかし、次の瞬間、荒々しい風が吹き、ヴァルクレアの体表に細かな裂傷が一斉に走った。

 風は瞬く間に刃へと変わり、黒い翼を裂く。

 飛翔に必要な形は、もうどこにも残っていない。


風刃(ふうが)……!)


 イゼルは、あれがドレインの術だと悟った。


「がはっ!これは……?一体どういうことなのかしら」


 ヴァルクレアも状況を理解できていないようであった。

 部屋の奥で黒い靄が揺らいだ。

 そこから現れたのは、復讐の炎を宿した男――

 ドレインだった。


「やっと、お前に復讐ができる」


 ドレインの姿を見たヴァルクレアは笑みを浮かべた。


「ああ、ドレインこれをやったのは君か……」

「……ああ、お前に隙ができるのをずっと待っていた。お前を殺せる機会をな」

「ははは、もしや幼い頃からそんなことを考えていたのか?可愛いやつだな。君の両親は魔物になることを望んでいた。だから私は望みを叶えてあげたと言うのに……おかげで永遠の命を得られただろう?」


 その言葉にドレインは怒りをあらわにした。


「俺はそんなことを望んでいない……!魔物として生きていくぐらいなら死んだほうがマシだ!」


 ドレインの声は震えていた。

 怒りか、悲しみか、もはや判別がつかないほどに。


「そうか、だが今の君には私に抗える力などないのだよ。死ぬこともできない」


 ヴァルクレアは腕を動かした。


 ドレインの額の黒紋が脈打つ。

 膝が折れ、見えない糸に引かれるように体が前へ進んだ。

 ドレインの歯を食いしばる音が洞に響く――

 それでも彼は、一歩、また一歩と、命令に逆らえず進んでいく。


「私のドレイン。おいで、君は永遠に私には逆らえない。だけど、いつか君は私を超えて、私たちは一つになる」


 ドレインは暴走した時のように低い呻き声を上げはじめた。

 口からは涎が垂れている。


 何かに抗っているようではあるが、その目はすでに魔物に近い。


「人が闇の力に対抗することなどできるはずがない。ふふ、あなたを最初の完全体にするために、早く私の忠実な下僕になることを楽しみにしているわ……」


 ドレインは力無く項垂れると、倒れるヴァルクレアの前に歩みを進め、そして先ほどとは変わってヴァルクレアを大事そうに抱えた。


「それではお二人とも今日はここまでで残念ですが、またの機会にしましょう。次会う時は、そうねどうしましょう……?」

 

 ヴァルクレアはしばらく考え、そして続けた。


「そうね、あそこの守護者のように私たちの糧となるか、魔王様に忠誠を誓うか考えておいてもらえると助かるわ。じゃあね〜」


 ヴァルクレアはそう言うとアシェルたちに手を振った。


 ドレインの背中から、黒い翼が生えた。

 止めようと踏み出したイゼルを突風で吹き飛ばすと、次に目を向けた時には、二人の姿はすでに闇に溶けていた。


「逃しましたか…… 。彼は、まだ縛られているのですね」


 イゼルは悔しそうに天井を仰ぎ見た。


◆◇◆◇上空◆◇◆◇


「ねぇ、ドレイン?あの小さな男の子、香りが特別ね。記憶しておきましょう」

「ぐるるるるる……」

「ええ、そうよね。魔王様にも報告しておいた方がいいわね」


 ヴァルクレアはドレインの腕の中で下を見た。


「あら、あんなところに可愛らしいお嬢さんが二人、こちらを見てるわね。残念、核が傷つけられていなかったら美味しくいただきたかったのに……」


 ヴァルクレアは悔しそうに唇を噛み、姿を消した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あれは、魔物……?なぜアリシエル様の祭壇がある場所から」


 リエルは顔を青くし、ヴァルクレアたちが現れた場所を見つめた。


「あそこは、試練の場所……」

「試練の場所ってアシェルたちがいるところよね?」


 リエルはネリーの質問に無言で頷いた。

 ネリーが試練の場所へ向かおうとしたところを見逃さず、急いで止めた。


「待って、まずは王に報告をするわ。まだ中に魔物が残ってる可能性がある。私たちだけで行っても全員がやられたら意味がないわ」

「でも!」

「今はこれしかないの、許して」


 リエルは試練に向かおうとするネリーの腕を引っ張りアリスティアに戻っていった。

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