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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第三章:アリスティア国編
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ep.1 密会

「全く、突然の訪れに何事かと思いきやアリシエル様に会わせて欲しいなど、イゼル殿は何を言い出すのかわからないお方ですな」


 テオラ王はふくよかな体を揺らし豪快に笑っていた。


「して、今回は何をなさるおつもりですか?勇者オルフェンは消えました。あなた方は役目を果たされた。それでもまだ、この世界に留まるおつもりですかな?」


 テオラ王はにこやかであるが、その目は何か面白いものを探るような鋭い好奇心があった。

 イゼルは表情を変えずに頷いた。


「私にはまだやるべきことがあります。この世界にはまだ魔王に勝てる可能性が残っています。その可能性を大きくするために、私はその芽を、光に届くまで育てたいと思っているのです」


 テオラ王は残念とでも言うかのように落胆した様子を見せ、自身の髭を撫でた。


「その芽というのはどのようなものなのですかな?」

「まだ言えません」

「ふむ、本当のことを言ってしまえばいいものを……イゼル殿はいつも自身で抱えるのですな。それとも何か言えない理由……そちらのお弟子さんが関係しているのですかな?」


 テオラ王はアシェルたちに目を向けた。

 アシェルたちは突然、自分たちに話が向いたことに驚き、背筋を伸ばした。


「まぁ、いろいろあるのです」

「……そうですか。まぁいいでしょう。私はあなたにご恩がある。もちろんご協力します。今日はゆっくり休み、明日アリシエル様のもとに向かってください。案内役にはリエルをつけましょう」


 テオラ王はそういうとリエルに目を向けた。


「リエル、お客様を宿までご案内して差し上げなさい。私のお客人だと宿屋の女将に伝えてくれ」

「わかりました」


 リエルは頷き、外へ出ていった。


「ではイゼル殿、今日はゆっくりとお休みください。また明日、お会いしましょう」


 イゼルたちは深くお辞儀をし、その場を後にした。

 外に出るとリエルが護衛と思しき人と話していた。

 アシェルたちに気づくとこちらに向かって歩いてきた。


「こちらです。ついてきてください」


 リエルに対し、道ゆく人たちは親しみを持って挨拶をしていた。


「お父様からの命なので、アリシエル様に会う前の注意事項を話します」

「注意事項?」


 アシェルの質問にリエルは頷いた。


「祭壇に向かうまではかなり険しい道となります。私たちの中では試練と呼ばれ、祭壇に着くまでに多くの人が命を落としています。ひとつ言っておきますが、神はとても気まぐれです。苦労して行ってもあしらわれる可能性は大いにあります。それでも……?」

「大丈夫です。我々は今後もそういったところに行きます。それに神に認めてもらうことが大前提、断られても何度も神の前に向かいます」

「そうですか……さぁ、ここが宿屋です」


 アシェルたちの目の前には大きな宿屋があった。

 中に入り、リエルが女将に事情を説明すると女将は頷き、アシェルたちを部屋まで案内した。

 リエルは役目を終えるとすぐに帰ってしまった。


 扉が静かに閉まる音がした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「はぁ、緊張した」


 アシェルはベッドに倒れ込んだ。


「お疲れ様です。今日はしっかりと休んでください。すみません、私は少し外に出てきます」


 そう言うとイゼルはそそくさと出て行ってしまった。


「わかった……」


 アシェルは素直に頷いたが、正直目が冴えていた。

 しばらくごろごろと横になっていたが、イゼルが戻ってくる気配がなく、アシェルはしだいに心配になり始めた。


 イゼルの心配など不要だろうが、テオラ王との会話中のイゼルの表情が気になった。

 最近わかってきたことだが、イゼルはこの旅で何度か遠くを見るかのように考え事をしている。


 自然とアシェルの体は玄関に向かっていた。

 外は家につく灯りだけであたりは暗く、冷たい夜風が吹いていた。


 少し歩けば眠気も来るだろう。

 もしかするとイゼルを見つけられるかもしれないと思い、アシェルはこの辺りを少し散策することにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 住宅から少し離れた崖までやってきた。

 下を見ると真っ暗だが水の流れる音がするため、川があるのだと理解した。

 アシェルはごくりとつばを飲み、ゆっくりと後退りした。


 ふと崖下に人がいるような気がした。

 目を凝らしてみると、崖下の出っ張り――人が立てるほどの足場に、イゼルがいた。




「何してるの?」


 背後から突然声が聞こえ、驚いた勢いで体が前に倒れてしまった。

 重心は前に持っていかれたままだった。


「しまった!」


 なんとか体勢を立て直そうと体を反るが、身体がふわりと浮く感覚に、背筋が凍った。


(落ちっ……!)


 突然、首根っこを掴まれ後ろに引き寄せられた。

 尻もちをつきアシェルは荒ぶる心拍を抑えるため、ほっと息を吐いた。


「バカじゃない?」


 そこにいたのはリエルであった。

 アシェルはムッとした表情でリエルを見た。


「リエルさんがいるとは思わなくてびっくりしたんです」

「あ、そうだったの。で、あなたは何をしているの?」


 リエルは年も近いからかアシェルに対しては砕けた口調であった。

 アシェルは口元に人差し指を持っていき、それを察したリエルはしゃがんでアシェルの近くまでやってきた。


「それで、何しているの?」

「リエルさんこそ何しているのですか?」

「なに、質問を質問で返すの?」


 沈黙が続いた。

 耐えきれず口を開いたのはアシェルであった。


「僕は寝られないので夜の散歩です。そしたらほら、あそこに師匠の姿があって……」


 リエルはアシェルの指差す方向を見た。


「ほんとね、あんなところで何をしているのかしら?少し近づいてみない?」

「どうやって?」

「あそこ、階段で繋がっていて、その道を通れば行けるのよ。来て」


 リエルはそう言うとアシェルの手を引っ張った。

 辿り着いた目の前には大きな岩があった。


 蔦が幾重にも絡まり、まるで意図的に入口を隠しているかのようだった。

 かき分けると、冷たい風が吹き上がり、闇へ続く階段が現れた。


 暗く長い階段を降りると、広い空間が口を開けていた。

 暗くてよく見えないが、壁には何やら模様のようなものが入っていた。

 目を凝らしてみると、かすれた絵である。

 そこには、角を持つ影が風の神と対峙しているように描かれていた。


 そして洞窟の大きな穴の先にはイゼルが立っていた。

 アシェルは声を掛けようとしたが、リエルがそれを制し、そして身を隠すよう合図した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 風が凍るように止んだ。


「ドレイン、魔界の様子はどうですか?」

「可もなく不可もなく。オルフェンはこちらに来ています」


 イゼルが話していたのは人のような姿でありながら人とは違っていた。

 

 肌の色は青白く、人のような血の通った色をしていない。

 癖のある黒い髪からは2つの黒い角が覗いている。

 感じたことのない禍々しい雰囲気を持った青年であった。


「あれは……魔族!?なぜっ……!?なぜ!あなたのお師匠様は魔界の魔物といるの?」


 リエルは衝撃を受けたように目を見開きアシェルを見た。

 その表情には、怯えと、疑いが滲んでいた。


「もしかしてあなたも……」

「……えっ?違う、僕は何も知らないよ!」


 リエルの目には動揺の色が浮かんでいた。

 アシェルは違うと首を横に振りながらも、イゼルが対面している相手が魔物であると知ると一気に緊張が走った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ここで何をしている」

 

 突然、後ろからどすの利いた声が響き、振り向くと同時に引っ張られ、気づけばアシェルの体は宙に浮いていた。

 地面に叩きつけられ、痛みに耐えながら体を起こすと目の前にはイゼルがいた。


 暗くて表情はよく見えないが、まじまじと見ている暇はなかった。

 後ろから体を突き刺すような鋭い殺気を感じるのだ。


「貴様ら……見られたならばここから逃すわけにはいかない」


 後ろから先程の魔物の声が聞こえた。

 さっきまでアシェルたちの前にいた魔物は気づけばアシェルたちの後ろにいたのだ。


 全身の毛が逆立つ――

 早く逃げろ、と頭の奥で警鐘が鳴っている。

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