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理を越えし担い手たち  作者: いがらしつきみ
第ニ章:新天地
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ep.4 アリスティア国へ

 レイナス地方


 北の山岳地帯――吹き荒ぶ風が岩肌を削るこの地に、風の国アリスティアはあった。

 この地は、風の守護神アリシエルの加護により、常に風が巡り続けている。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「イゼル師匠……こんなところ通るの?」


 ネリーは崖の下を見ないようにゆっくりと歩みを進めていた。

 アシェルたちが今いる場所は急な斜面であった。

 ロープをたどりながら、上へと進んでいく。


「頑張ってください。あと少しでなだらかな場所に着きます。日も暮れてきましたし、今日はそこで休みましょう」


 アシェルたちは風に煽られながらもなんとか平らな場所までやってきた。


「私高いところ苦手かも……もうダメかと思ったわ」


 ネリーは膝から崩れるように座り込み、汗を拭っていた。

 ネリーはしばらく動けないため、イゼルとアシェルだけで野宿の支度をした。


「師匠、とりあえず枝は見つけた分だけ持ってきたけど、これだけしかなかったよ」


 アシェルが持ってきたのは数本の細い枝であった。


「仕方ありませんね」


 イゼルはアシェルから枝をもらうと、指先を鳴らし、枝に小さな火を灯した。


「この火が消えてしまっても魔法があるのでなんとかなるのですが、いつまでもつけていられるわけではありませんのでね……」


 アシェルたちは火を囲み、夕飯のパンを食べた。

 パンには少し飽きていたが、ここには食料がないためわがままは言っていられなかった。


「ねぇ、あんたたちどこから来たの?」


 突然、頭上から少女の声がした。  

 アシェルたちは警戒して、声のした方へ振り向いた。

 しかし、そこには高い岩肌があるだけだった。


「違うわ!上よ」


 言われて初めて視線を上げると、緑の髪の少女がそこにいた。


「もしかして、遭難してるの?ちょっと待って助けてあげるわ」


 少女は笑みを浮かべ、高い場所からためらいもなく飛び降りた。

 アシェルたちは少女の行動に驚き、心臓が縮みそうになったが、少女の体は風に乗って、ふわりと降りてきた。

 大きな衝撃もなく、少女は無事に着地した。


 少女は風になびく緑の髪を揺らし、渦巻き模様の民族調の衣装を着ていた。


「いえ、降りてきた後に言うのも申し訳ないのですが、我々はこの先にあるアリスティアに向かっていたのです」

「ああ、そうなの?私そこの住人なの。ちょうどいいわ送ってあげましょうか?」


 アシェルたちは都合のいい話に目を輝かせた。

 しかし、この少女がどのようにアシェルたちを送るのかが疑問であった。


「送る?どうやってですか」

「まぁ、見てなさい」


 少女は目を閉じ、両手を広げた。

 すると足元から風が起こり、少女の体が浮遊した。


 そのままアシェルたちの方へ手を差し伸べると、風はアシェルたちを包み込み、その体をふわりと持ち上げた。


「なに!?これ」


 ネリーは突然体が浮いたことにパニックになっていた。


「あなたもしかして高いところ嫌い?なら目を閉じていた方がいいわよ。今から空を飛ぶんだから」


 ネリーは顔を青くし、震える指でアシェルの袖をつかむ。

 そして、必死に息を整えながら、固く目を閉じた。


 アシェルたちの体は空へと舞い上がった。

 少女を先頭にアシェルたちはそのあとをついて行く。

 ネリーにしがみつかれたアシェルの腕は、痺れて感覚がなくなっていた。


「あなたもしかして、アリスティアの継承者ですか」

「そうよ」


 イゼルの言葉に少女は頷いた。


「……継承者?」


 アシェルの質問に少女は驚いた表情を見せた。


「あなた継承者を知らないの?この世界では有名な話じゃない?もしかして、遠くの村の出身なの?」


 アシェルは少女の言葉にムッとした。


「我々はレイナス地方の守護神アリシエル様にお伝えしたいことがあって参りました」


 少女はイゼルの言葉にピクリと反応し、突然その場で止まった。

 そしてアシェルたちの方へ振り向いた。


「アリシエル様にお会いするなんて一般人ができるわけない。どんな目的かは知らないけど、外部の者を聖地へ近づけることはできないわ。それとも神にご対面できるほどの特別な方たちなの?あなたたちは何者?」


 少女は完全に警戒していた。

 イゼルは咳払いをし、態度を改めると口を開いた。


「私はエルヴァレンの賢者イゼルです。こちらのお二人は弟子のアシェルとネリーです」


 イゼルの紹介を聞くと少女の表情は一変した。


「イゼル……もしかして勇者一行の?」

「はい」

「……そうだったのね。失礼、自己紹介が遅れました。私はアリスティアの継承者リエルです。賢者イゼル様が守護神の元に向かわれるのであれば、何かそれなりの理由があるのね。お父様が判断なさるから、まずはお父様のもとへ」


 リエルの態度は先ほどとは一変して、動作一つ一つが丁寧であった。


「ありがとうございます」


 イゼルは深くお辞儀をした。

 アシェルはイゼルから外の世界で有名なことは聞いていたが、ここまで厚い信頼があるとは思っていなかった。


「アシェルと言ったわね。継承者っていうのは国の次の王になる者のことよ。アリスティアではアリシエル様に認められた人がこの国の次の継承者になるの。たぶん、各地の土着神を信仰する国は、だいたい同じ仕組みよ」


 リエルの上からの態度は少し癪に触るが、丁寧に説明をしてくれるところを見ると、悪い子ではないことはわかった。


 しかし、横にいるネリーは目を閉じたまま、口元を引きつらせていた。

 森の精はルールに厳しいため、聖導師であるアシェルに対するリエルの生意気な態度が許せないのであろう。

 しかし、ここでは正体を隠すことをイゼルと約束しているため抑えていた。


 そして、リエルがネリーの態度を不信がらないかと心配したが、幸いリエルはネリーが高いところを苦手としていることを理解している。


(怖がって顔を歪めているだけに見えているはずだ……)


 アシェルは自身に言い聞かせるように心の中で呟いた。


 しばらくして、巨大な風車が見えた。

 巨大な風車を通り過ぎると、その向こうには街が広がっていた。


 リエルはゆっくりと降下した。 

 全員が地面に足をついたのを確認すると「こっち」と言い、アシェルたちを誘導した。


 リエルの案内のもと、しばらく歩くと一際大きな家があった。

 城というほど大きいわけではないが、周りの家と比べると、この家の主がこの国を束ねているのだと分かる。


「お父様、ただいま帰りました」

「よく無事に戻ったな。うむ?その後ろの方々は」


 中央の大きな椅子には、リエルと同じ色の髪と髭を持つ、穏やかそうな男が座っていた。


「おお!これはイゼル殿ではありませんか。お久しぶりですな」

「テオラ王お久しぶりです。お元気でしたか?」


 二人はしばらく他愛もない話をし、テオラ王はアシェルたちに目を向けた。


「その子たちはお弟子さんですかな?」

「そうです。アシェルとネリーといいます」


 アシェルたちはお辞儀をした。


「そうですか、あなたが弟子を取るとは思いもしませんでした。よろしくお願いいたします。……さて、イゼル殿。本日は、いかなるご用向きで?」


 テオラ王は、朗らかで温和な雰囲気を纏っていたが、その瞳の奥には治める者の厳しさが垣間見えた。


「本日は、この地の守護神アリシエル様へ謁見の許可を頂きたく参りました」


 テオラ王は驚いたように目を見開いていた。


「ふむ、詳しいお話を伺いましょう」

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