セブンス・フラグメント~魔法少女よ成り上がれ~
アタシは目を覚ました。
周りにはゴミの山が広がっていた。
荒廃した空中スラム街。添いの一角のスクラップ処理場で、うんと背伸びをする。
富裕都市の最下層に位置するこの場所は、ゴミと悪臭と人間のクズにまみれた汚い世界だ。
アタシの名はナナ。最初に目を覚ましてあった所に書かれていた数字が7だった。
だからナナ。その名付け親は遠く高い天井にぶら下がったモニターに映っている。
「みんなー! 今日は来てくれて、ありがとー!」
煌めく舞台に華やかな衣装で、歌って踊って歓声を送られている。
カグヤ。アタシに全てを与えて、アタシの全てを奪い去っていった女。
魔法式バイクにまたがって、魔法という名の動力を送ってエンジンを回転させる。
ゴミ山を下りたそのままの勢いで滑車に乗り上げ、空高くジャンプする。
バイクの下に魔法の道ができ、空中を駆け抜けてドーム状の施設に滑り込む。
『さあ、入場しますはチャレンジャー、魔法少女ナナ!」
ブーイングと供にアタシはバイクから飛び降り、星型のブレードを展開させる。
対面には鉄の兜と供を纏った筋肉ダルマのデカブツ 。
「ぐはははは! ゴミ山の魔法少女ぉ! 今日こそ俺が勝あああつ‼」
「うっせ」
アタシは小指で耳をほじり、取れた垢をふっと散らした。
デカブツが鎖を怒らせながら突進してくる。
攻撃は単調、流れに合わせて刃を沿ってやればいい。
敵の人工筋肉が大根のようにすっぱりと切れて、機械仕掛けの断面を作った。
ガリガリと地面を削りながら、偽物の筋肉を引きずって壁に激突する。
『あーっと、今日も圧勝! つまらないほどの幕引きです。魔法少女ナナ、自分より1周りも2周りもでかい相手を一刀両断でスクラップにしてしまいましたぁ!』
観客席からは「金返せ!」とか「死ね!」とかの罵詈雑言とゴミが降り注ぐ。
アタシはボロい接客用ロボットから賞金だけ受けとって、魔法バイクに乗ってその場から立ち去った。
1000万。それがこのゴミ山から抜け出すためのパスポートの金額だ。
コロシアムと賞金稼ぎとスクラップ改造でそこそこたまった。残りあと3分の1くらい。
空ではカグヤが1000万の観客を相手に、その金額を秒で稼いでいることだろう。
「待ってろよ。ぜってえ成り上がってやる」
そのきれいな顔面に向かって拳を突き出す。
アタシの胸は、復讐の炎で真っ赤に燃えていた。
◇◇◇
3年前、ゴミとして捨てられたアタシはカグヤに拾われた。
「7。あなたの名前はナナね!」
天使のような笑顔であいつはアタシにそう言った。
その日からあいつの相棒になって、このアンダーグラウンドの世界を駆け抜けた。
『大勝利! 今日も魔法少女シスターズは最強です!』
観客席が沸いている。火山が噴火したような熱気が、会場を包んでいる。
中心にいるのはカグヤ。アタシはその引き立て役にすぎなかった。
ざく切りにした黒髪をたなびかせ、魔法と美貌で敵を翻弄し、操り倒す。
それだけではなく、あいつにはエンターテインメント性があった。
「ナナはさ、もう少しピンチを演出した方がいいよ」
ある日そう言われたことがある。
「いつも圧勝しちゃうんじゃ観客が飽きちゃうでしょう。だからもしかしたら負けるかもって思わせて、逆転するのが一番盛り上がるんだよ」
「はっ、何でアタシがそんなめんどくせぇ事しなきゃいけねーんだよ」
「全くもー。お子様なんだから」
そんなことを言って笑いあっていた。あの日までは。
「カグヤ様、スカウトに参りました」
いきなり現れた黒ずくめの男はそう言って、キャッシュケース一杯の現金を見せびらかした。
「これで私たちを上に招待しようってわけ?」
「いいえ。たち、ではなくあなただけです。カグヤ様」
アタシはお呼びではなかった。
空に住む上級国民たちにとって、粗暴で品性のないアタシに需要は無かった。
カグヤのカリスマ性とスター性、それに目を付けたのだ。
「話にならないわ。ナナも一緒じゃなきゃ、どこに行っても同じよ」
その時のあいつはそう言っていた。
アタシは別に上に行ってくれても良かったのだが、それでも安心した。
ずっと友達だって、そう思っていた。
なのに。
カグヤは次の日、アタシの前から姿を消した。
◇◇◇
そして現在、アタシは錆びまみれの鉄板を挟んで、怪し気なおっさんと対面している。
「おい、あんまり勝ちすぎるな。次の相手がいなくなるぞ」
「誰にもの言ってんだよ。次の相手を見つけてくるのがてめーの仕事だろ
「あのなあ、カグヤがいた時には散々手を焼いてやったが、物には限度ってもんがあるんだよ」
「いいから早くしてくんない? アタシはとっとと上に行かなきゃいけねーんだ」
おっさんはため息をついて、ビラを渡してきた。
対戦相手はただのロボット犬。額も1000万どころか、そのわずか塵にも満たない。
「調子に乗るなよ。もうお前の相手してくれるのはこのくらいしかいねえんだよ」
「ちっ、つっかえ」
アタシはそのワンちゃんの書かれた紙をビリビリに引き裂いて、席を立った。
「おい、どこへ行く?」
「賞金稼ぎ。ヤクザとかマフィア含めてこの辺一帯の悪党どもはあらかた刈りつくしたけど、少しくらい残党がその辺に残ってんだろ」
おっさんは「はぁ」とため息をついて、バッテリーが膨張してパンパンになったタブレットを取り出した。
「上手い話がある。危険は伴うがな」
画面に映し出されたのは国家的テロ組織「天使の落日」の隠れ家、その見取り図。報酬は300万。
丁度ぴったり1000万の数字に成り上がる数字。
「なんだよ、あんじゃねえか」
「うかつに手を出したら火傷する案件だ。紹介した俺の身もあぶねえ」
おっさんはその見取り図を、アタシの携帯端末型ステッキに送ると、荷物を整理し始めた。
「紹介料はもらったし、俺はとっとと逃げる。悪いが、先に上へ行かさしてもらうぜ」
「あ、ずりー! 一人だけ溜めてたのかよ!」
「バーカ。胴元が儲かるのは当然だろうが。じゃあ、達者でな」
そう言っておっさんはアタシの前から姿を消した。
アタシは魔法バイクに乗って、薄汚いゴミの道を抜けた。
目的地のビルに到着する。
この辺ではまだきれいな方の外装をしていた。
やることは決まっている。
正面突破だ。
「コードセブン、フルチャージ」
端末を開き、アクセスコードを入力すれば、魔法の核がエネルギーを開放する。
「チェンジ・フラグメント」
その掛け声と同時にアタシの体に機械仕掛けのドレスが纏われる。
純黒の装甲を輝かせ、心臓に埋め込まれた魔核が赤く光り輝く。
「侵入者発見。侵入者発見」
クモの形をした自立走行型護衛ロボットが、扉を蹴破ったアタシの元へわらわらと押し寄せて来る。
襲ってくる敵に合わせて、逆手に展開したブレードを添わせ、真っ二つに切り裂いてゆく。
霰のように降り注ぐ重火器の類は、ドレスが貼るバリアが自動的に防ぐ。
それだけでなく反射した銃弾が敵を貫いて、向こうが勝手に寿命を縮めていく。
敵を殲滅した後エレベーターに駆け寄り、扉を破壊する。
それをこじ開けて中に入り、壁をけりながら上へ上へと跳躍。
エレベーターの箱の下側を切り落として内部に侵入。
中にいた護衛ロボットを全て地上に叩き落とす。
「ピー、ピピピ。侵入者、危険。危険」
そのままエレベーターの天井を突き破り、さらに上へ昇る。
最上階らしき場所に到着して、その扉を蹴破る。
「お邪魔しまーすっと」
「だ、誰だ!」
銃が向けられるが、そんなものはアタシにとっては豆鉄砲と同じだ。
魔法の弾丸をバリアで跳ね返しながら歩いた。
ボスと思われる白スーツのハゲ頭の襟を引っ掴んで持ち上げる。
「お前、悪い奴だろ?」
「な、何を」
アタシは禿げ頭を目の前に差しだして盾にした。
すると銃弾の雨がピタリと止んだ。
「やっぱ悪い組織の偉いやつって感じだな」
「待て! 話を聞け! 我々の目的は連邦政府に正義の鉄槌を……」
「んなもんどーでもいいよ!」
目的はこいつを倒すことじゃなくて、こいつの首にかかっている賞金だ。
窓ガラスを背中で破って後ろに飛び降りると、自動操縦モードになった魔法バイクがアタシを迎えに飛んでくる。
ハゲ頭を荷台に乗せて、エンジンをふかし、空中に魔法の道を作って走り去る。
割った窓からは無数のドローンが湧いて出て来る。追いかけっこの始まりだ。
魔力を流し込み亜光速に乗って、ドローンを引き離す。
そのままターンして魔核のエネルギーを増幅させ、リミッター上限を開放する。
胸の中心がパックリ開き、チャージした魔法の電力を一気に放出する。
「サテライト・バースト」
蒼く光るプラズマがビームとなって敵を一網打尽に粉砕し、そのままビルを倒壊させた。
あっけにとられているハゲ頭をバイクに縛り付け、その場を離れる。
引き渡し場となっているゴミ山、つってもゴミの山しかないんだが。
その一角に降り立つと、そこで待っていたのは無数の銃口だった。
「ターゲット確認。射殺を開始します」
「おいおい、依頼通り持ってきてやったってのに、随分ご挨拶じゃねえか」
「fire」
パァンと放たれた一撃がハゲ頭のこめかみを貫通して、絶命した。
そして置いてあったトラックの荷台からアタッシュケースを持った女が出てきて、言った。
「任務完了。そいつをこちらに引き渡せ。約束の金だ」
ケースを開くとそこには敷き詰められた現金の束が眠っていた。
アタシが死体を放り投げると、女はそれを虫けらでも見るように一瞥だけする。
「顔認証完了。魔法少女ナナ、かつてカグヤ様とタッグを組んでいた女」
「どーも」
「その金をもってどうするつもりだ? まさか、空に行くつもりか?」
「だったらなんだよ。上級のための保安官様にはカンケ―ねーだろ」
アタシに向いた無数の銃口は依然よそ見をしていない。
「無駄だ。羽虫が空に行ったところで太陽に焼かれて焼け落ちるだけ」
「そーかな? 案外しぶとく生き残るかもしれねーぜ」
「警告だ。ゴミムシはゴミ溜めの中からでてくるな」
「うっざ」
アタシがケースを拾って数歩下がっても、銃口は下りない。
用心深さと臆病者は紙一重ってところか。
バイクに乗ってその場を離れても、こちらに向いた殺意の視線は拭われなかった。
隠れ家のゴミ山の下に埋めてあった袋に、ケースの中身を全てぶちまける。
これで1000万。
端末を開いて購入すれば、自動的に電子チケットのデータが保存される。
コツコツ溜めた金は転移魔法により一瞬で消滅し、後には穴ぼこだけが残っている。
アタシはバイクを駆って中央の転移台に赴き、ワープゲートを起動させた。
チケットが消費され、空中に浮遊する街へのワームホールが形成される。
ゲートを抜けて、向こう側に降り立った私を待ち受けていたのは、さっき見たサングラス女と無数の銃口だった。
「出て来るなと警告したはずだが?」
「うぜー。ついてくんじゃねえよ!」
こちらがブレードを展開すると同時に、無数の銃口から火が放たれる。
それら全てをバリアで跳ね返し、切りかかった。
が、サングラス女の背後から魔銃が出現し、弾丸を放ってきた。
切り落とすと、今度は別方向から弾丸が飛んでくる。
次は背後から、次は斜め上から、真下から、次々とアタシを狙って魔銃の弾丸が襲い掛かって来る。
転移魔法によって魔獣を呼び出し、好きなところから発砲してくる戦い方。
陰湿で保守的ないかにもいい子ちゃんな戦い方だ。
「サテライト・バースト」
振れたものを電子崩壊させるプラズマ砲を放出する。
後ろには人の住む建築物があるから、向こうは避けることができない。
「ゲートオープン」
得意の転移魔法で別の空間に移動したその隙に懐へ入り込む。
ブレードをしたから振り上げると、上半身をアーチ状にそらせて逃げられた。
が、サングラスを真っ二つに叩き割り素顔をさらさせた。
その目は義眼でできている。
「へえ、盲目だったのか。どーりで精密なわけだ」
埋め込まれた人工の目は、一般人のそれよりはるかに高性能で高視力だろう。
怒りに満ちた表情の義眼女は、割れた額から血を垂れ流しながら魔法式を展開した。
「虫けらが! 捻り潰す! ゲートフルオープン」
空間を埋め尽くすほど転移の扉が開き、その穴全てから銃口が覗いた。
アタシはブレードを構えて、背部に装備された燃えるように赤い光の翼を展開させる。
「知らねーのか? 虫ってのは踏まれても叩き潰されてもしぶとく向かっていくんだよ」
「fire‼」
弾丸が一斉に放たれた、先から次々と切れて地に落ちる。
アタシはその場から動いていない、ように相手からは見えており、残像一つ残していない。
義眼女は自分が何をされたのか分からないまま、切られた首を落として絶命した。
「サテライト・ウィング」
音が遅れてやってくる。
アタシのやったことは簡単。真正面から全て叩き切っただけ。
ただし亜光速のスピードで。
人間は目に見えた視覚情報から脳が情報処理して、その映像を見ている。
向こうさんはその視覚情報が正確すぎるがゆえに、アタシの姿をとらえたまま離さなかった。
義眼が亜光速の速度に対応できずそのままの情報を脳に流したのだ。
人間であれば不完全だから一瞬消えたり、残像が残ったかもしれないが、そんなことは向こうさんの知る由もないだろう。
空を見るとカメラ付きのドローンがコバエのように飛んでいる。
天高くに付属されたテレビモニターには先の戦闘映像が映し出されていた。
ご丁寧にスローモーション処理されて、解説付きで配信されている。
アタシはバイクにまたがり、中央のコロシアムに向かった。
「神殿円蓋へようこそ。ナナ」
そこに待ち受けていたのは、天使のような微笑みを浮かべたアタシの復讐相手。
「……カグヤ」
「久しぶり。元気そうね」
あの日から何も変わらない、何一つ変化していない美貌を惜しげもなく披露する。
白銀の装甲ドレスに包まれ青い魔核を光らせ、観客の声援を欲しいままにする。
「ナナ、さっきの戦闘がちょっとバズってるわよ。たまたまインフルエンサーのドローンが近くに居合わせて、動画を拡散してくれたようね」
「……
「過去の映像とか出自とか、あなたの全てが包み隠さずネットの海にさらされているわ。私には遠く及ばないけど」
「……てめえは、誰だ?」
カグヤはほほ笑む。
同じ顔で、同じ口調で、同じようなことを言いながら本物の笑みを湛える。
「私はカグヤよ。絶対無敵のアイドル魔法少女、極天のカグヤ」
「カグヤを、返せ!」
アタシはブレードの切っ先を向けた。
奴は笑みを崩さない。
「それはどっちの意味かしら? 人格、それとも肉体?」
アタシは知っていた。あいつが私を裏切るわけがない。
脳と体をめちゃくちゃにされて、思考と人格を上書きされて、偶像に祭り上げられた。
アタシを置いていったのは、外の世界を見せたくなかったから。
この腐って薄汚れた空を見せたくなかったからなのだ。
「両方」
「いいでしょう。チャレンジャーの挑戦を受け入れます」
文字がドーム中央のモニターに映し出される。
『宿命の対決 チャンピオン魔法少女カグヤVSチャレンジャー魔法少女ナナ』
この戦いと、それに至る過程の全てが、空に住む上級国民にとっての娯楽でしかない。
全く、反吐が出る。
「エンジェリング・プライムフォース!」
純白の翼を広げ滑空し拳を叩きつける以前カグヤが使っていた技。
アタシは当然、真正面から受け止める。
「サテライト・ドレス・フルオープン」
光の翼を広げバリアを正面に集中させる。
反重力のエネルギーが圧倒的な質量の拳を受け止め、ガッシリと手を組み合わせる。
「聞こえるかカグヤ! 目ぇ覚ませ‼」
「とっくに目覚めてるわよ。おバカなナナちゃん」
嘲るように距離をとって魔力エネルギーを溜めている。
こちらも魔核に魔力を注ぎ込む。
「エンジェリング・ジャッジメント・ノヴァ!」
「サテライト・フルバースト!」
二つの閃光が混じり合い、衝撃波が空間を裂く。
ドーム内を嵐が起きたように書き乱し、巨大モニターをカチ割って天井に穴をあけた。
「やるじゃないナナ! あははははははは!」
まるで踊るように舞うように、四方を駆け巡って舞台を沸かせる。
誰もいない客席からは、無限の声援が飛び交っている。
小型のカメラがアタシたちの戦いを観戦して、小型マイクがその音を拾って発信する。
壊れたモニターにスーパーチャットで多量の投げ銭が振り込まれるさまが映し出される。
数字だけが青天井にどこまでも昇っていく。
アタシにはここにある全てが、虚構の偶像にしか見えなかった。
「サテライト・ウイング・フルオープン」
「亜光速? 私に対応できないと思ているのかしらぁ?」
向こうも更に速度を上げる。
バリアを貫通して攻撃がこちらに通り、擦り傷や切り傷が増えていく。
でも全く痛くない。
「これで終わりよ! エンジェリング・プライムフォース・ノヴァ!」
「……もう、いいんだ」
アタシはカグヤを抱きしめていた。
その攻撃をドレスで受け止めてバリアが全て剝がれて全身を焼き尽くすような痛みが襲った。
それでも、カグヤをぎゅっとこの両手で抱擁した。
「な、なぜ……」
「アタシたちは二人で一つの魔法少女だ。死ぬときも、生きるときもずっと一緒だ」
胸の魔核にエネルギーを溜める。
抜け出そうともがくカグヤを今度は絶対離さない。
「やめ」
「サテライト・バースト」
超至近距離のプラズマ砲が青い魔核を貫いた。
物質を粒子状に分解して消し飛ばし、カグヤの纏っていた衣装が剥がれ落ちる。
生身の身体となって意識を失ったカグヤをそっと地面に置く。
モニターには『勝者 チャレンジャー魔法少女ナナ』と映し出された。
無人の観客席からは、新しい偶像の誕生に歓喜の狂乱が起きている。
底辺から成りあがったドラマ性と友人同士が殺しあうエモーショナルな展開。
劇的なクライマックスのエンターテイメント性が高評価を欲しいままにしている。
投げ銭の額は0が多すぎてもはや見えない。
ここで起きたことの全てが娯楽として昇華され、消耗品として使い捨てられていく。
もはやカグヤを覚えている人はもういない。
新しい刺激であるアタシの存在も、奴らは一瞬で消費して食い尽くしてしまうのだろう。
そのモニターの中央に向かって、アタシはブレードを投げつけた。
画面を叩き割り、ブラックアウトさせて、煩い拡声器を沈黙させる。
「上等だ。そんなに娯楽が欲しいならくれてやるよ」
アタシはカグヤを抱き起し、焦げ付いた魔核を引き抜いた。
そしてバイクから取り出したスペアの赤い魔核を、無理やりはめ込んだ。
ビクンと体が跳ね上がって、カグヤはその大きな瞳を開けた。
「ナ、ナ……?」
「おはよ、カグヤ」
その光景は無数のドローンが空中で映像に収め、ライブ配信で全宇宙に拡散される。
「ごめんね……。私……」
「いいんだ。何も言わなくていい。アタシたちは二人で一緒の魔法少女だ」
アタシは果てしない空に広がる、青い作り物の天井をにらんだ。
突き破っても打ち破っても、どこまでもそれは上に在って自由を抑圧する。
天に向かって唾を吐く。
行きつく先が天国か地獄か、それは誰にも分からない。
ただアタシにできることは決まっている。
正面突破だ。
「またやろう。一緒に、この世界を成り上がってやろうぜ」
アタシが差し伸べた手をカグヤが握る。
最強タッグの誕生に虚構の観客が湧いている。
例えどこまでも続く果てしない天井が付き纏ってくるとしても、二人で全部ぶっ壊してどこまでも高みへ這い上ってやる。
アタシたちはどこまでも自由だ。