6.まさかの、追放
ナビゲーションの矢印に従ってさらに進むと、薄暗い通路に誘い込まれ、一人の老人が営む露店に出会った。
「こんばんは」
「ワシの店に何ぞようか?」
ナビゲーションが行けと示しただけなのだが。
「露店巡りをしていたらここまで来てしまいました。失礼します」
「いやいや待たれよ、ここで会ったのも何かの縁じゃ。どうじゃ? 何か買って行きなされ。どれもこれも全部100シェルじゃ」
「100シェルないんで」
「なんだと?」
「100シェルないです」
シワシワの老人がカッと目を見開く。
「ミュスの討伐報酬を貰っただろ!」
「あー、串焼き買いました」
正確には初期分は本に消えている。
「ワシの露店は、ギルドと提携していて、ゲートからきた冒険者見習いたちに格安で良い品物を売ってやる店なのに……まさか、ここに来るまでにもう露店で買い食いをするとは! どいつもこいつも」
そんな意図があったとは申し訳ない。だが、みんなやってるようだ。
「まあ、手持ちがないので諦めます。それでは……」
「もうよい! 有り金全部置いて行け!」
追い剥ぎか?
たぶんだが、なにか買わないと進まないタイプのチュートリアルなのだ。
ということで露店のラインナップを見学する。
基本ポーションや食べ物のようだ。
宝珠とつくものもあった。例えば、こと座の宝珠と、星座の名前を冠するものが多い。
「お、かみのけ座の宝珠」
ちょっと気になるかみのけ座。
「ほう……そなたも髪の毛に囚われし者か……」
囚われし者?
「それは大切なものだ。常に持っておきなさい」
……いつの間にか取引が終了しているだと!? 露店の売買チュートリアルじゃなかったのか!?
そして、顔を上げると露店は消え失せていた。
とんだ追い剥ぎだ……。
『ソーダ、宝珠ってやつはどんな意味があるんだ?』
『宝珠はそれぞれ微妙に加護がついてるんだ。持っていたらその役割に準じたプラス効果がある。十二神の宝珠はどれもわりと優秀だから持ってて損はないね。他の属神たちはそんなに強くはないけど面白い効果があるものも多いし、集めてる好事家もいるよ』
まあとっとくか。髪の毛に効果がある……なんだろうな。
と、ナビゲーションがまた伸びていた。
こうやって初心者はチュートリアルをこなしていくんだろう。
しかし、今回は次はどこへ〜というアドバイスがなかったなぁ、と思ったら路地を出たところで声をかけられた。
「ねぇ、あんた。5歳くらいの迷子の子どもを見かけなかったかい? 近所の子なんだけど、母親がちょっと目を離した隙に消えてしまったんだよ」
「見てませんが、どんな服装ですか? 見つけたらどこに知らせればいいですか?」
明らかチュートリアルなので乗ることにした。
「ありがとうね。茶色の髪に水色のシャツと濃い青のズボンだ。名前はトム。見かけたらどこのギルドでもいいから近場のギルドに連れて行っておくれ。兵士に話してもらってもいいよ」
「わかりました」
あとはたぶんこのナビゲーションについていけばわかる。
だいぶ日もくれてきて、夕焼けから星空へと変化した空が綺麗だった。真夜中にはなっていないらしく、人通りも多い。
と、ナビゲーションが途切れ、道の端に黒い小さな塊があった。
「トムくんかい?」
俺が呼ぶと塊はビクンと飛び上がって立つ。
「お兄ちゃん誰?」
「通りすがりの見習いだけど、みんな探してたよ?」
ポツポツと灯っている街灯の下に来ると、茶色い髪の毛に水色のシャツと濃い青いズボンだ。
「ごめんなさい、ちっちゃいミュスがいてつい追いかけちゃって」
うん、ここで俺が全部始末したらイベント終わりそうなやつだ。
少年の影から見えた尻尾が、下水へと消えていく。
「兵士さんか、ギルドに行けば大人が知らせてくれるってさ」
手を差し出すと、トムは案外素直に握り直してきた。
わぁぁ、子どもの手だ! え、てことはアンジェリーナさんと手を繋いだらそれもこんなリアルな感触を得られるってこと!?
大人のエライ妄想の横で子どもは無邪気にミュスについて語る。
「最近ミュスが増えてるんだ! 街なかで子どもも見つけるし」
「ミュスが好きなのか?」
「……お母さんはご飯をかじられちゃうし、びょうげんきんを振りまくからって見つけたらすごく怒ってる」
まあ、かなりでかいから恐怖しかないだろうな。チワワくらいの大きさだ。なんなら子どもも齧りそうだ。
「でも、大きな耳も可愛いし、長い尻尾がぷるんってなって可愛いし……」
「うーん。ネズミ型を可愛いなと思うのはわかるが、ミュスはモンスターだあまりむやみに近づくのはオススメしないなぁ」
「わかってる、わかってるけど……」
目に涙をためだしたので、慌ててなだめようとしたところに声がかかる。
「人攫いめっ!」
なに!? どこだ!!
と思っているうちに拘束され、街を叩き出された。
は?
「はぁ!?」
「おや、冒険者さんかい? これから隣町まで荷物を送り届けるんだが、一緒にどうかね? 街道を行く安全な道なんだが、話し相手が欲しくてねぇ」
「お気遣い有難うございます。ですが、この街に用があるので」
「そうかいそうかい。行きたくなったら声をかけてくれればいいよ。出発準備にあと少しかかるからね」
呆然としていた俺を見かねてか、優しそうなおじさんが声をかけてくれた。が、俺にはこの街に入らなければならない用がある。アンジェリーナさんと離れるなんて嫌だ。
セツナ:
街を追い出されたらどうしたらいいですか?
八海山:
セツナ君なにしたの??
セツナ:
何がなんだか……人攫いと間違えられて、拘束して牢屋行きならまだわかるし弁解も出来るんですが、強制街退出を……
八海山:
もしかしてチュートリアルのレアルート引いてる?
セツナ:
チュートリアルで迷子の子ども探しをして……
八海山:
レアルート確定。一週間くらいしたら始まりの草原に息子と親と兵士が探しに来て謝罪してくるから、それまで別の街に行くのがいいね。おじさんに声かけられたでしょ。乗せてもらったら安全に移動できて、あちらでチュートリアルの続きやれるよ。
セツナ:
は?
八海山:
セツナ君おこですね……たまにいるんだよ、子ども泣かしただろ。初心者がそれで路頭に迷ってる。おじいさん怪しい人じゃないしついてけばいいよ? 一週間くらいしたら帰りも誘ってくれるし。今なら暇だから俺が護衛してもいいけど。
セツナ:
いえ、お気遣い有難うございます。
あんのクソガキがぁぁぁぁぁ!!! お前の大好きなミュス根絶やしにしてくれるわぁ!!
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怒りの矛先がミュスへw