5.本の効果?
草原にて、確かにミュスを見つける確率が上がっている気がする。本に書いてあった、ミュスの好みそうな場所を見つけたり、通り道を発見したり。今まで見落としていたヒントを拾い上げる事ができる。ためになるな、本。
せっかくだから1時間で測ってみると、実に1.5倍の16匹。これはなかなかのものだ。ハナハヤ草の数は減った。これは多分ミュスを見つけるまでの間のつなぎに取っていたからだ。しかし、ミュスの方が断然金銭的効率が良いので、ハナハヤ草はまあいいだろう。
さらにもう1時間粘り、33匹とハナハヤ草20セットの納品となった。あたりはだいぶ薄暗くなってきているので、早々に街へ戻る。
夜のモンスターはまた変わるのだ。今の俺では手に負えないだろうモンスターがいるので、夜時間は本を読むに限る。
「また来てしまいました、アンジェリーナさん」
「本当に本が好きなのね」
笑う彼女に尋ねる。
「『索敵の基本』で効率が上がりました。他になにかためになりそうなものはありませんか?」
手持ちは2100シェル。4冊読める。
「選んでおいたわよ。『足運びの基本』『獲物の捌き方』『石つぶての魅力』ここらへんなんかどうかしら」
「アンジェリーナさんが選んでくださったものですから、読みます! 3冊一度にお借りしても?」
「この中で読むならいいわよ。店から持って出るのは1冊だけ」
もちろんアンジェリーナさんと同じ空間にいられる方を選ぶに決まっている。
3冊同時に借りて、読み耽る。なかなかに面白い。ゲーム内の読書はなんらかの報酬が得られるのだろうか? そこら辺はわからないが、確実にミュスを捕まえる効率はアップした。リアルの読書もこんなものなのか? せっかくだから次は全く関係のない物を読んでみるか?
足運びはこれまた草原、沼地、森林、砂漠などのバイオームに対してどのような動きが身体への負担を減らし、素早く移動できるかということを語ったものだ。捌き方は、学ぶことによってよりよい素材を得る方法が書かれていた。皮の貴重なモンスターの、皮を第一にした捌き方や、全ての素材を最高の状態で得るための方法だ。
石つぶての魅力は、石つぶてに己の人生をかけた男の石つぶての極意だった。確かに、アサシンダガーは右手装備で左手が空いている。盾を持たなければならないようなモンスターを相手するようなことはないので、常に石つぶて用の石を持ち、そばに潜んでいるミュスにぶつければ、奴らは自分からやってくる。検討の余地ありだ。
「どれも興味深くためになるものでした」
「熱心に読書しているわね。他にもオススメする?」
「いえ、次は少し違うものを。自分で本棚も眺めたいので」
アンジェリーナはニッコリと笑った。
俺は少し読書の面白さというものに目覚めていた。
そして目に留まったのが、『星廻りと神殿』。星廻りというのは多分最初に決めた星座の話だ。これは現実世界の12星座をそのまま踏襲してる。生まれで何かは把握していないが。この世界の神様はこの星座そのものなのだ。牡牛座は牛の神様、かに座はカニの神様。変な神様だと思っていた。
「あら、面白い本に興味を持ったのね」
《血圧心拍が急上昇しました。直ちにログアウトしてください》
落ち着け俺!
突然真横にアンジェリーナがいた。全く気づいていなかった。
なんかいい匂いがする。
「神殿の神様の話ですよね」
「そうね。実用書ばかりじゃなくてそういった本にも興味があるのね」
「ありますね!」
ということで借りるのだ。
それぞれの神には象徴的な意味があった。例えば牡牛座。もちろん牛の神様で、繁栄や富の象徴らしい。あとは男性という意味もある。反面、荒々しい、粗野なといった部分もあった。
これはたぶんギリシャ神話からだろう。牡牛座の牡牛は、ゼウスが女性をさらうために化けた姿だったはずだ。たしかたぶん。男性、というのはそこからきているのかと思う。
牡羊座 農夫、農業の神、犠牲、生贄
牡牛座 繁栄や富の象徴、男性、荒れ狂う
双子座 平和、支え合う、執着、粘着
蟹座 勇気、友情、縁切り、餌食
獅子座 勇猛、強さ、獰猛、直情的
乙女座 美、女性、嫉妬、精神的不安
天秤座 正義、公平、観測
蠍座 一撃、危険、毒、奥の手
射手座 弓、馬、音楽、軽率
山羊座 母、海、恐慌
水瓶座 豊穣の雨、不死、酒、洪水、溺れる
魚座 助け、助力、不動
これが主神らしい。他にも神の名が細々書いてあるが、とうてい覚えきれない。かみのけ座とか。
ちなみに、俺は双子座になっていた。多分最初に設定した誕生日が双子座の日なのだろう。
と、目の端が点滅している。
知識という謎のアイコンが増えていて、見てみると本で読んだ内容が書かれていた。読んだ判定が来るとこうなるのか。あとで見返すことができるようだ。
「この世界の神々について書かれていたんですね、あとで神殿にも行ってみようと思います」
「アランブレは獅子の神を祀っているわ。戦士なら一度は行ってみるべきね!」
「僕は双子座なのですが、アンジェリーナさんは何座ですか?」
「うふふ、ナイショ」
ぐぬぅ、親密度が足りないのか! 通うぞ!
店を出るとまだ夜だった。
実はチュートリアルを終えていないのだ。
狩りには出られないし、終了まで1時間ほどあるのでせっかくだから進めることにした。本を読むには金が無い。
チュートリアルのナビゲーションをオンにすると、地面に矢印が現れる。
これは冒険者ギルドで、街には露店もたくさんあるから行ってみろと声をかけられたときに発生している。つまり、露店利用のイロハを教えてくれるのだろう。
露店は今後利用するかもしれないし、知っておいても問題ないだろう。
と、いい匂いがした。
串焼きの店だ。醤油の焦げるいい匂いがする。
ふらふらと吸い寄せられるようにそちらへ行くと、露店のオヤジはニヤリと笑う。
「いらっしゃい! 串焼き一本50シェルだよ」
手持ち100シェルの俺の足元を見られている……!
「まいどあり〜」
買ってしまった……。
普段はやらない食べ歩きもここでならできると、ガイダンスに導かれながら串焼きを頬張る。これはツノウサギの肉だそうだ。なかなかだな。うん。
食べ終わった串はポケットに突っ込んでおく。
初期装備の着ていないものや使っていない物もこの【持ち物】に収納されている。しかし、【持ち物】も持てる限界がある。
全ての冒険者に貸し出されてるストレージはアクセスする場所が決まっているし量も決まっている。クランに入ってクランハウスがあれば、リーダーの権限で決められた分のストレージをクランハウスで得られる。
ソーダが何か言ってたが、しばらくはクランハウスに行く気がないのでまあよい。というか、クランハウスあるのか?
ゴミはゴミ箱へ、なのだが、持ち物の中で串焼きのタレが他のアイテムにつくわけじゃないのでそのままにしておいた。
持ち物制限が来たら考えよう。
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