426.ヴァージルといっしょに湧き水亭
ファンルーアには昼過ぎに着いた。そこから騎獣に乗って移動だ。
ローレンガには夕方到着になるだろう。
『夜になっちゃうから、あんまり遅いと悪いし、店に行くのは俺が寝て起きてからにするよ?』
『ああ。承知してる。ローレンガは初めてなんだ。観光しているさ』
『一日半、ほとんど丸二日だけど……さてどうしようかな。宿とか知らないんだよね』
ローレンガで寝ることってほっとんどないからなあ。
「すみません、ほどほどのお宿ってどこら辺になりますか?」
門兵さんに聞くのが一番かなと思いました。
門兵さん、俺を見た後にちらっと後ろのヴァージル見てちらってもっかい見てしてる。
いやうん、周囲の来訪者とNPCもチラッチラってさ……。
「そうですね、お二人ならこのあたりはいかがでしょうか」
懐から地図を取り出して指し示してくれた。
「ありがとうございます。行ってみますね」
丁寧にお礼を言って二人で宿を目指す……前に。
「ヴァージル、ご飯まだ食べられる?」
「ああ。さっき丼一つだけだったし問題ないよ」
「オススメのお店があるから行こう!」
渡し船を捕まえようとすると、ちょうどアキヒトさんがやってきた。
「よう! セツナ、久しぶりだな。べっぴんさんを連れてるなあ」
べっぴんさんのヴァージル隊長ですよ、ええ。
「今日は友人と来ました」
「こんばんは」
にこりとヴァージル。アキヒトさんは気風のいい兄ちゃんなので、乗れ乗れと船を出してくれた。
「ご飯を食べに行こうと思って」
「飯だけはうめえからなっ! ローレンガいちの定食屋だぜ」
そう、お久しぶりの湧き水亭だ。
「このお兄さんのお父さんがやってる定食屋さんなんだけど、とっても美味しいんだよ。案山子のご飯で米は好きになってるし、何がいいかな」
「米が食えるなら、俺のオススメは生姜焼きだな」
「美味しいですね~。チキン南蛮も好きですけどね」
「アレもいいな。まあ、何食っても美味い! 保証するよっ!」
俺とアキヒトさんの勢いにヴァージルが口を開けて笑う。
「楽しみだな」
夕暮れ時の渡し船はとても風情があった。
ローレンガは江戸風だからちょっと情緒が爆盛りされるんだよね。日本人の血のせい?
アキヒトさんは立ったまま棒でちょいちょいっと船を操り、俺とヴァージルは座って波立つ川面を眺める。
ゆったりとした船旅はすぐ終わる。うん、腕がよすぎる!
「ほら、到着だよ」
俺はちゃんとお金を払った。もうさすがにいらないとは言われなくなった。
「またお願いします」
「任せとけ!」
岸に上がればすぐそこが湧き水亭だった。
「こっちだよ。あんまりこういったお店は入らない?」
「ローレンガの店自体が初めてだ」
がらがらっと引き戸を開けると元気な声が聞こえてくる。
「らっしゃい! おう、久しぶりだな。ずいぶんなべっぴんさんを連れて……」
「ローレンガで一番美味しいご飯を食べに、友人を連れてきました」
そりゃ間違いないとあちこちで声が上がる。店内はそれほど広くなく、今日も常連で一杯だった。
空いていた席に座ると壁のお品書きを一つ一つ説明する。
「俺のオススメは唐揚げ定食。火傷しそうな油がじゅわっとなって、しっかり味のついたトリ肉のうまみが口の中に広がるぜ」
「なんたってヒレカツ定食だよ。ごまの風味あふれる濃厚ソースにつけてもいいし、大根おろしとしそのポン酢だれにつけるもよし!」
「男は黙って焼き魚定食だ。魚はその日とれた新鮮なものばかり。付け合わせの惣菜も絶品だ」
さあどうすると迫る常連客たち。
みんな推し定食がある模様。
「えーと、まあ好きなのを食べればいいよ。魚はまあ、魚。唐揚げは鶏肉だね。ニンニクきいてて美味い。ヒレカツ定食はよく食べるカツ丼のお肉がヒレ肉っていう脂身の少ないところだね。あとアキヒトさんがすすめてた生姜焼きは、豚肉のスライスだね。ショウガの風味が甘塩っぱさの中に広がって俺も好きだな」
「うーん。セツナが言ってたのは? なんばん?」
「ああ。チキン南蛮ね。鶏肉を揚げたものに、甘酢タレと卵とマヨネーズで作ったタルタルソースをかけて食べるんだ。あれも美味しい」
「一日ではとうてい食べ切れそうにないなあ」
「俺が寝てる間に通うか?」
「それもいいね。どうせこの後朝まで狩りでもするんだろう? 身体を動かして、セツナが寝たあと朝に来て……」
「朝は握り飯に味噌汁、焼き魚だな!」
結局悩んだあげく、チキン南蛮を選んでいて、大満足のようだ。
「あ、ご飯屋さんで食べ物出すのは反則だと思うんですけど、ちょっと美味しいらしい素材が手に入って……みんなさんにつまんでもらってもいいですか?」
さっきヴァージルにあげるのわすれちゃってたんだよね。
「構わねえよ! 来訪者さんは面白いもん持ってることが多いからな」
ということで、シャトーブリアンのシャトーブリアン!! しかも焼いちゃったやつ……。スキルで焼いちゃうと、塩コショウで食べるくらいしかできなくなるし、味もちょっと落ちちゃうそうだ。落ちるというか、せっかくの料理人による底上げがなくなる。
「火魔法で焼いちゃったから高級素材がタダの焼肉になっちゃったヤツです」
そう言って切り分けてあったものを一切れずつお店にいた人たちにふるまった。
「今俺は、肉を口に入れたはずなんだが?」
「……口の中で溶けたぞ?」
「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 俺は、箸で確かに肉を口に入れた……」
いや、びっくりのとろけっぷり。焼き加減は案山子が後からなんか一生懸命やってくれたんだ。半分こしておいた。
「なんかごめんなさい……営業妨害……」
ホント。すみません。
「いや、いいもん喰わせてもらったな。こんな肉とうてい手が出ねえ」
スケさんが唸っていた。
「セツナ、これはどこで」
「あー、ちょうどいいから今から狩りに行く? ローレンガからウロブルに向かう道中にあるから」
そしてちょっとローレンガよりなのでそんなに時間はないけどひと狩りできると思う。ヴァージルと一緒にいけばきっと専用チャンネルで独占になるだろう。そしてドロップ率がアップする!
燃えてないシャトーブリアンのシャトーブリアンを案山子に届けられるかもっ!!
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誤字脱字報告も助かります。
ちゃんと書いたでしょう、私。
案山子編ってさ……
次回、牛さんご愁傷様の巻。




