狼の夜 -出題編-
「たまにはこうやって、田舎の喧騒を忘れて山でゆったりするのも良いですな。」
「そうですね、和田さん。心が癒されます。」
「やはり二ヶ月に1回はこうやって静寂と自然に包まれないと、探偵業というものは続けられませんよ。精神的にも。」
探偵の和田と助手の宮崎がしばらくの間のどかな会話をしていると、同じ山荘に来ていた20代後半と思われる若者たちが釣りをしてはしゃぎ始めた。
「ああいうのはどうなんですかね。静寂を壊されるというのは風情がない。」
「まあまあ山﨑くん。いいじゃないか。若いうちはああしてる方が楽しいもんだ。」
「和田さんがそうおっしゃるなら。」
どうやらその若者たちは大学以来の友人といった感じであった。
「最近、競馬の方はどうよ?」
「まあまあかな。トントンって感じよ。」
「なんだそれつまんねえ。もっと大勝ちとか大負けとかしろよー。」
「冗談じゃねえって!」
下卑た笑いがこだました。
「和田さん、そろそろ山小屋へ戻りますか。」
「そうですな。」
「いや、それにしてもこの山小屋は実に広いですな。部屋が6つもある。我々2人だけでは少し寂しい気もしますね。」
「まあ、同じ山小屋をいくつも作った結果でしょう。」
「おい!女子達!お前ら足音うるせえよ!部屋の直下に部屋があるみたいだからよ!もっと上品にしてくれよ!」
「はいはーい!あんた達も、窓の上に窓が真上にあるからって、窓からよじ登ってのぞいたりしないでよねー!」
「てか、俺の部屋湖に面してるじゃん!部屋から釣りできんじゃん!すげえ!」
夜が更け、山間に建てられたその山小屋は部屋の灯りを除くと暗闇に包まれた。
ワオーン
何処からか狼の鳴き声がした。
それも一匹ではない。鳴き声は次第に大きくなっていき、すぐ近くにいるのではないかという不安を若者たちを襲う。
「これやべえんじゃねえの?」
「扉の鍵閉めろよ!絶対開けるなよ!それから、明かりも消せ!」
「わかってるって!」
そんなスリルを少し楽しみながら、若者6人は眠りについた。
翌朝
「おい!いつまで寝てんだ!おい!扉開けるぞ!…ってあれ?誰もいない?」
騒ぎになった。
すぐに捜索をしようと扉を開けて外に出ると、男の死体があった。」
「やれやれ。まさかこんな長閑な山で仕事になるとは。」
「まあまあ。人が死んでいるのですから、そんな野暮なことは言わないで。」
和田と宮崎による聞き込み調査によると、女子3名は2階で、被害者含む男子3名は1階におり、狼を警戒して寝ずに起きていた男によると、扉を開けて外に出た音はしなかったと言う。さらに、動機として痴情のもつれがあるのではとの疑いも出てきた。
以下、宮崎によるメモ
山﨑(男)(28):腹部をナイフのようなもので何度も刺され死亡
田村(男)(29):山﨑とは仲が良かったようだ
宮本(男)(30):この中で最年長、山﨑の彼女の事が好きだったため逆恨みの可能性有
佐々木(女)(28):山﨑の彼女
長嶋(女)(29):山﨑に何か弱みを握られていた?
若田(女)(28):田村の彼女
部屋図
1階:池に面した部屋に宮本、その東の部屋に山﨑、その南の入り口の近くの部屋に田村が宿泊
2階:宮本の上に当たる場所に佐々木、山﨑の上が長嶋、田村の上が若田
なお彼らはA大学旅行サークルで出会い、それ以来の仲であることが判明
和田による調査
山小屋の近くの木の中にBluetoothスピーカー、狼の被り物を発見