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捜査本部2

 報告を耳にしながら久慈は、小ぢんまりとした造りの室内に置かれた応接セットで向き合った大津久仁彦(おおつくにひこ)とのやり取りを回想していた。

時間を割いてくれた事に対し久慈は礼を述べ白川と二人頭を下げると、大津は柔和な笑みを浮かべて、「いえいえ。気になさらないで下さい。最近は警察の方々もお忙しいでしょう」と労わる口調で言い、先月から何度か井出の件で事情聴取を受けましたよ、と続けた。

「早速お訊きしたいのですが、他のビルは内装撤去などの作業以外は厳重に封鎖してらっしゃるのに、喜楽ビルヂングは誰でも自由に出入りできるように放置されていたのですか?」

「それはですね。不動産事業担当の小塚から説明があったと思いますが、一つ自由に出入りできるビルを設けることで、周辺の建物への侵入を防ごうという事です」

 僅かに身を乗り出した久慈からの問い掛けに、大津は明快に答えた。

「既に解体されていますが何軒か木造の店舗もありましてね。あそこもここもと侵入されるより、目立つ場所に誘導したらいいのではと考えたのです」

 喜楽ビルヂングの北側で目にした、重機や資材が置かれた空き地を思い出しながら、「何カ所か重機が停めてある空き地が、先行して解体された木造店舗の跡ですな」と白川が口を挟む。

「喜楽ビルは御祖父様が建設された、大津家にとってシンボル的な存在だと思うのですが。大津さん御自身の考えで決定されたのですか?」

 銀縁丸眼鏡の奥で細い目をいっそう細めた白川からの問い掛けに、

「決めたのは私ですが、考案したのは服部君です」

「服部というのは、服部総業の服部ですか」

「そうです。彼とは幼馴染ですし、家同士の付き合いは祖父の代からですから」

問う口調に僅かな剣を含ませた白川と柔和な表情のまま応えた大津を、久慈は記憶に刻みつけた。



「大津久仁彦は提案を素直に受け入れる程、服部と深く親密な仲なのか?」

「管理官は御存じでなくて当然ですが、大津家と服部家は古くから密接な関係を持っていますから、深い信頼関係が築かれていたとしても、おかしくは有りません」

 東京から出向してきた若い管理官が発した問い掛けに、並んで座る柴田課長が耳打ちで手短に説明する。

「服部からも事情を訊きに行くんだろ?」

管理官の頷きを確認すると、柴田は白川と久慈に交互に顔を向けて問い掛けた。

「今日は県外に滞在中とのことです。明日午後に服部総業本社にて聴取の予定です」


署敷地内の物陰に設けられた、コンビニエンスストアで見かける円筒形の灰皿が置かれている喫煙スペースで、白川は柴田と並んでベンチに腰掛け一服していた。側面の壁に取り付けられた照明に蛾や羽虫が集まり、周囲を(せわ)しなく飛び交っている。

「素直に聞いてくれる管理官で、良かったやないですか」

 疲れを滲ませた表情で煙草を咥える柴田を宥めるように、白川は言った。

 言葉の代わりに低い唸り声で応え、咥えた煙草を摘まむと灰皿に押し付け、水の張られた内部へ落とす。

「この件どう見る?」

 シャツの胸ポケットのソフトパックを取り出し、新たな紙巻煙草を咥えて白川に問うともなく独り言のようにボソリと呟いた。

 防犯カメラ映像の収集と現場周辺に、喜楽町内の木造建築を解体していた業者にも聞き込みが行われているが、芳しい情報は得られていない。

 県内の家出人捜索願に該当する特徴のある人物は居らず、被害者の身元は特定されていない。

「ヤクザの井出が撃たれるのは理解できるが。あの女は、なぜ撃ち殺されたのか」

 白川が差し出したライターの火で煙草を点けると、軽く片手を上げて謝意を示す。

 深く吸い込んだ煙を一息に吐き出して、

「あーあ。井出の銃弾と線条痕が一致していたら、合同捜査本部になって進展が早かったかもしれないのによ」

 煙と共に吐き出された愚痴に、「それは口にしたらアカンやつ」と白川は思ったが口に出さず、自らも勢いよく煙を吹き出した。


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