芽が出て膨らんで、花が咲く前の大きさで
ばぁちゃんは言った。
あんさんが持てるのはここまでやって。
ばぁちゃんは手を添えた。
ほんまはここまで開くけど、普段はもう少し窄めておくんやでって。
わたしにはわからない。
なぜ限界まで手を広げておかないのか。
わたしは聞いた。
もっといっぱい持てる。なんでこんなけしか無理とか言うん?
ばぁちゃんは、微笑んだ。
──無理とは言うとらん。けどな……。
あの時、ばぁちゃんは何を教えてくれたんだっけ。
ばぁちゃんはどうやって、泣いてるわたしを笑顔にしてくれたんだっけ。
考えても考えても思い出せない。
あの言葉の意味も、あの強さの源も。
ただ漠然と、ばぁちゃんはすごい人だなって思う。
八十ちかくまで生きたらわたしもそうなるのかな。
いいや、想像できないな。
途中で座り込んで、干からびてそう。
だから時々、抱きしめてほしくなる。
まったく優しくない。
強すぎるその手で、胸に埋まりたい。
泣き止めば、強くなりって背中を叩かれる。
そうしたら、ばぁちゃんはもう何も言わなくなる。
わたしはお礼を言って、また走り出す。
案内板のない、分岐点ばかりの人生を。
──手を窄めておけば限界を超えることはない。
──ほんの少しだけ、溢れるより前で抑えておく。
あんさんのお腹と一緒や。
窄めた手の意味はなんとなくしか思い出せないけれど。いつも食べ過ぎる自分の腹をぷにりと掴んで、最後に笑いを運んでくれる。可愛いばぁちゃんだった。