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この命果てるまで  作者: エビス
3章

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過ぎる日々と近づく足音

 蝶舞さん、そして彼女の祖母、シズさんに拾われてから約一月ほどが経とうとしていた。


 「風音さーん!そっちお願いー!」


 「はい」


 今日は、待ちに待った春キャベツの収穫日だ。


 蝶舞さんやシズさん、彰影くんだけでなく手の空いている村人も手を貸して収穫している。


 「怪我せんようにな。特に風音は片手ねーんだがら気をつけろ」


 「はい」


 村人の一人、小原のおじさんに心配されながら、俺は黙々とキャベツを収穫していく。


 そして、キャベツを入れていた籠が一杯になった頃、一台のトラックが畑の前で止まった。


 ドアを開けると村長の細矢さんが降りてきて、俺達へ声を掛けてきた。


 「お疲れ様です。積み込みにきましたけど作業はどんな感じですか?」


 「まぁまぁさ。納品には足りる。私らが食う分も多少は残るだろう」


 シズさんがそう答えると細矢さんはホッとしたような表情を浮かべた。


 「それは良かった。最近は、また納品量が増えてますから」


 「植えたら勝手に出来るとでも思ってんのさ。連中は」


 シズさんは吐き捨てるように呟いた。


 ここで作られた野菜は、半分以上がライオウ達『統治軍』に税金で取られる。


 取り立ては容赦なく、さらに今は九州攻略が上手くいっていないのか、より多くの食料を求められるようになってしまったらしい。


 「・・・言っても仕方ね。積み込んでしまうべ」


 小原のおじさんが呟くと集まっていた村人達は諦めたように同意し、収穫したキャベツをトラックに積んでいく。


 そうして荷台を一杯にすると皆で休憩をとった。


 俺もその場に座り水の入った水筒に口をつける。


 じいちゃんの"能力"のおかげで餓えも渇きも疲れも大して感じない俺ではあるが、それでも久しぶりに喉を通る水は身体を目覚めさせるようであった。


 そんな感覚に身を任せていると蝶舞さんがやってきて俺の隣に腰を下ろした。


 「お疲れ様、風音さん。どうだった?初めての収穫は?」


 「神経を使いました。出来るだけ傷つけないように気をつけたつもりですが自信はないですね」


 「うん。まぁ、仕方ないよ。初めてだし。それに片手だし。むしろ私はよくやるなぁと感心してるよ。両手があっても大変なのに」


 「村の皆さんやシズさん、蝶舞さんが気遣ってくれるおかげですよ。ありがとうございます」


 「言い過ぎだよ。風音さんこそ覚えが良いからどんどん仕事が出来るようになってるし。私達の方こそ助かってるよ」


 蝶舞さんが、照れたように笑いながらそう言った。


 その後、彼女は小さく欠伸をした。


 「眠いですか?」


 俺が尋ねると蝶舞さんは、少し困ったように答える。


 「ちょっとね。お腹もすぐ減るし・・・なんなんだろ?」


 俺を拾う少し前から蝶舞さんはよくお腹が空くようになったらしい。


 それに加えて最近は、日中に強烈な眠気に襲われているそうだ。


 「成長期でしょうか?それとも"能力"の使い過ぎ?」


 俺が考えられる原因を述べてみると蝶舞さんは微妙そうな声を上げた。


 「身長は止まってると思うんだけど。『糸』作りだって無理はしてないし・・・」


 蝶舞さんは、自分の"能力"を使って頑丈で肌触りの良い『糸』を作っている。


 そしてそれは、細矢さんを通して山を越えた先にある、ここら辺で一番大きな街の商人に卸されていて中々評判も良いらしい。


 度々、街の方から生産量を増やせないか打診がくるそうだが、蝶舞さんの体調を第一に考えるシズさんや細矢さんが断っており、来たばかりの俺から見ても彼女が無理させられているようにはとても思えなかった。


 蝶舞さんは、さらにもう一度小さく欠伸をした。


 それを見た俺は彼女へと言う。


 「今日は、少しでも早く寝て下さい。食器の片付けや明日の準備はやっておきますから」


 「えっ・・・いや、でも」


 蝶舞さんは、申し訳なさそうにするが俺はさらに続けて言った。


 「生活にも慣れてきましたし、多少やる事が増えても問題ありません。それより蝶舞さんの体調の方が俺にとっては大事ですから」


 ただの寝不足ならいいが、もし何らかの病気であったり、"能力"の副作用であるなら打つ手がない。


(・・・いや、打つ手がないというのは嘘か)


 俺の"能力"ならどうにか出来るのかもしれない。



 ただ俺は――



 「・・・じゃあお言葉に甘えようかな。でも大変ならちゃんと言ってよね」


 「はい」


 その後、俺達が取り留めのない会話を続けていると途中で彰影くんがやってきた。


 最初に蝶舞さんから庇うよいな真似をしたせいかこの一月で随分と懐かれてしまった。


 彰影くんは、この一月で成長した自分の"能力"を見せ、前は持ち上げるのが精一杯だった鍬をまったく揺らぐ事なく持ち上げ、自分の手と同じくらい、いやそれより器用に扱って見せた。


 「すごいじゃん!」


 「ええ」


 俺と蝶舞さんが褒めると彰影くんは嬉しそうに顔を綻ばせた。


 「これだけじゃないよ!最近、『手』を大きく出来ないか試してて、それでね・・・」


 彰影くんの話を聞きながら、時間は穏やかに過ぎていく。


 やがて休憩は終わり、また日が暮れるまで畑仕事をして、彰影くん達村人と別れ、蝶舞さんとシズさんと共に家路につく。


 この村に来てから変わらない、日常になりつつある日々。


 だけどこの日々は、長く続かない。


 その足音は、直ぐそこまで迫っていた。



 ◆◆◆



 どこかの山中。


 リュックを背負った二人の少女が、互いに身を寄せあいながら道無き道を進んでいた。


 少女の内の一人は、まだ小学生にもならない年頃で、もう一人も小学校中学年になるかならないかといった様子であった。


 二人は固く手を握り進んでいたが、まだ幼い子の方が急に地面にへたり込んでしまった。


 「未来ちゃん!?」


 「ご、ごめんね・・・ううっ・・・うえっ・・・」


 未来と呼ばれた子は懸命に立ち上がろうとするが、まだ小さい彼女の足は言うことを聞かず、それどころか目からは涙が溢れてきていた。


 それを見たもう一人の少女は、彼女を抱えて大きな木の下までいくと自身も腰を下ろした。


 「ちょっと休もっか・・・」


 「うん・・・」


 二人は、木の幹に寄りかかるとリュックから水筒を取り出す。


 「みんな、だいじょうぶかな・・・あずさおばちゃんともはぐれちゃったし・・・」


 不意に未来がそんな事を呟いた。


 それを聞いたもう一人の少女は励ますように彼女の頭を撫でて言った。


 「大丈夫。みんな大人だし、強いし、頭も良い。きっとなんとかしているよ。だからこっちも頑張ろう?キミが『視た』その人を見つける為に」


 自分で言っていて「嘘だ」と彼女は思った。


 本当に大丈夫なら大人達が自分達にこんな山道をむかわせる訳ないし、亜寿沙おばさんも直ぐに合流してくれてる筈だ。


 それが出来ないという事は、つまり――


 「・・・どうしたの?」


 「っ・・・!ううん、何でもないよ。それよりリュック重いよね?私が持つよ」


 「いいの!?ありがとう、()()ちゃん!」

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