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この命果てるまで  作者: エビス
3章

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第一村人

翌朝、俺は日課の農作業へ出かける蝶舞さん達について朝日が差し込む山道を下っていた。


 この五年でライオウは東北地方を食糧や物資の生産拠点と定めたようで、元々住んでいた人は勿論、"能力"が戦闘向きでない人や反抗してきた人も無理矢理追いやり生産作業に従事させているらしい。


 蝶舞さん達もその影響で毎日のように農作業に勤しんでいるとの事だった。


 そんな話を聞いていると途中で蝶舞さんが心配そうに俺に尋ねてきた。


「・・・でも本当に手伝ってもらって良いの?病み上がりだし、今日位休んでいても・・・」


「いえ。お二人のおかげで体調は良くなりましたし、何もしないのは心苦しいので手伝わせて下さい」


 そう言って俺は背中に担いだリュックを背負い直す。


 右手がない上に農作業の経験がない俺では大して役に立たないだろうが、こうして彼女達の荷物持ち位は出来る。


 それに体調が良いのも本当だ。


 目覚めた当初こそ全身が酷く痛んだが、食って寝たらあっさり良くなった。


 もっと体力も筋力も衰えているものだと思っていたがそんな気配は微塵も感じない。


 それどころか生まれてこのかた一番と思えるくらいには体調が良い。


(明らかに何かの"能力"の影響だろうな。結衣以外の・・・)


 そもそも俺はこの五年間、一度も起きた覚えがない。


 誰かが蝶舞さん達のように面倒をみてくれたのでないならずっと飲まず食わずで過ごしていた筈だ。


 そんな事は人間としてあり得ない。


 そして、もしそんなあり得ない事を可能にするものがあるのなら、それは"能力"以外にないだろう。


(・・・ああ、そういえば、じいちゃんが《《今が一番体調が良い》》とか言ってたっけ)



「・・・」


「大丈夫?風音さん」


 下を向いて歩いていると蝶舞さんが俺を呼んだ。


 木彫りのお面の向こうから彼女の瞳がこちらを覗いてくる。


 俺はそんな彼女へと言った。


「大丈夫ですよ。久しぶりに外を歩いたので景色を眺めていただけです」


「そう?それなら良いんだけど・・・もし気分が悪くなったら言ってね」


「はい。ありがとうございます」


 俺は蝶舞さんへ頷き、感謝を述べた。


 そうして暫く歩いていくと山道の切れ目が見えた。

 さらにその先を抜けると今度は山の麓に広がった田畑が視界に入ってきた。


 どうやらこの時期は耕運期のようで幾つかの田んぼではトラクターが動いて土を耕している。


 その光景を見た俺は呟いた。


「機械、動くんですね」


 あの『太陽が輝いた日』からスマホや車といった機械は動かなくなっていた筈だ。


 そんな俺の呟きに蝶舞さんが応える。


「なんとかね。この村の村長さんが機械に強くて・・・」


 話しをしていると俺達の進む道の反対側から小さな人影がこっちへやってきた。


 それは小学生位の眠たそうな少年で、やってくるなり目を擦りながら蝶舞さん達へ話しかけた。


「おはよ、蝶舞姉ちゃん、おばあちゃん」


「おはよう、彰影あきかげくん」


「おはよう、彰影。ずいぶん眠そうだね」


 蝶舞さんと老婆が少年に挨拶を返す。

 すると少年は大きな欠伸をしながら言った。


「ふあぁ・・・"能力"を使ってたら夜中になっちゃってさぁ・・・もうめっちゃ眠いよ」


「自業自得じゃないか」


 老婆が少年の言葉に呆れた声を漏らす。

 だが少年はそんな老婆の様子は気にもせず続けた。


「でも練習して強くならないとここから出られないじゃん。俺、一生畑はしたくな・・・」


 そこで少年の眠そうな目が初めて俺を視界に入れた事で言葉が途切れる。

 そして驚いたような、困惑したような表情になると言った。


「だ、誰・・・?」


 彼の問いに蝶舞さんが応える。


「この人は風音鈴斗さんていってね。行き倒れていた所を助けたの。風音さん、この子は大道彰影おおみちあきかげくん。さっき話してたこの村の村長さんの子なんだ」


 蝶舞さんから説明を受けて俺は彰影くんに挨拶をする。


「初めまして。風音鈴斗と言います。蝶舞さん達にお世話になってます」


「ど、どうも・・・彰影です・・・」


 俺の挨拶に彰影くんはぎこちなく挨拶を返す。

 そして興味半分、警戒半分といった感じの様子で俺の事を見てくる。


「・・・取り敢えず私らは村長の方に顔を出してから作業へ行くよ。彰影もついてくるかい?」


 老婆がそう聞くと彰影くんは「うん・・・」と短く応えた。


 そうして俺達は、彰影くんと一緒に道を歩いて村長宅へと向かって行った。


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