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この命果てるまで  作者: エビス
3章

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五年

「ごちそうさま・・・でした・・・」


 食べ終わった俺は片手を合わせて蝶舞さんに頭を下げた。


「お粗末様でした。全然起きてくれなかったからちゃんと食べれて良かったよ」


 彼女は柔らかい口調でそう言うと、食べ終わったお椀をテーブルに戻す。


 そして同じ頃、食事を終えた老婆が俺にジロリと視線を向けて口を開いた。


「さて、それじゃあお前さんの素性を教えとくれ」


「ちょっとおばあちゃん・・・!この人は目を覚ましたばっかりなんだよ。いきなりそんな・・・」


 蝶舞さんが俺を庇うような言葉を発する。

 だが、老婆はそんな彼女へ言った。


「駄目だよ、蝶舞。ソイツは右手は切り落とされ、耳も抉れてる。おまけに閉じた左側の目も見えちゃいない。どう考えたって厄介者だ。なら早い内に事情位は知らないとね」


「でも・・・!」


 蝶舞さんが老婆へと突っかかるが、彼女の擁護より先に俺が口を開いた。


「あの、ありがとうございました・・・俺は風音鈴斗って言います。この身体は、家族と友達を探して東京へ行った時に色々あってこうなりました・・・正直、何があったのかはあんまり覚えてなくて・・・」


 俺は言葉を選んで伝える。


 すると老婆と蝶舞さんが顔を見合せた。

 なんだか反応が少しおかしい。


 端的に言えば二人からは「何言ってんだ?」という雰囲気を感じる。


 俺がその雰囲気に困惑していると蝶舞さんが言った。


「えっと・・・風音さんは東京へ行ってたの?」


「はい」


 蝶舞さんの言葉に頷くと今度は老婆が言った。


「東京は四年前から殆ど廃墟になっちまってる。人なんて残ってない筈だよ」


「えっ・・・」


「この事は、この国で生きてればみんな知ってるよ。その反応だとお前さんは知らないようだがね」


「・・・」


 老婆の言葉に黙ると、今度は蝶舞さんが聞いてきた。


「風音さん、今が何年か分かる?」


 俺は彼女の問いに少し考え、「20✕✕年・・・ですか?」と自信なく答える。


 すると蝶舞さんは首を横に振った。


「ううん。今は20○✕年で、あの『太陽が輝いた日』から、今年で丁度五年になるんだよ」



 ◆◆◆



 食事と話し合いを終え、少し身体を動かしてみる為に家の外に出た。


 周囲は既に暗くなっていて、空には星空が広がり、遠くからは波の音が微かに聞こえる。


(五年、か・・・)


 蝶舞さん達から五年の間にあった事を色々教えてもらった。


 まず、五年前からライオウが勢力を伸ばし東京一帯を制覇、それに抵抗する人達との間で大きな戦いが起こり、東京は崩壊した。


 だがライオウはそれでも勢力を伸ばし続け、東京を除く関東全域を制圧、さらに本州の殆どを支配下に置いた。


 最早この国でライオウの支配から逃れているのは、『反乱軍』がいる新潟、富山、長野の一部地域と九州、北海道の海を挟んだ場所だけだ。


 現在、ライオウは九州と『反乱軍』の制圧に力をいれていて、本人は九州制圧の為に中国地方にいるとの事だった。


 そしてここは、岩手県にあったO町という場所で、俺は近くの海岸に水で作られた繭のような物に包まれて打ち上げられていたそうだ。


「・・・」


 俺は見つめていた星空から、自分の左手へと視線を移した。


 そして意識を手へと集中させる。


 すると段々、身体の底からじんわりとした感覚がせり上がってきて掌から綺麗な水が湧き出してきた。


 さらに今度は球体を頭の中でイメージして意識を集中する。


 そうしたら垂れ流されていた水が徐々に集まり、イメージした球体となった。


「ああ、そうか・・・そうだったのか・・・」


 俺はまるで自分の足で歩き始めた子供のように、この時始めて自分の"能力"を理解していた。



 俺の"能力"は――



「風音さん、潮風は身体に悪いよ。布団も敷き直したから戻ろう?」


 後ろから声が掛けられた。

 そちらを見てみると家から蝶舞さんが出て来ていた。


 声色からこちらを心配しているのが分かる。


 俺は掌に作っていた水球を崩して消すと蝶舞さんに言った。


「すいません・・・何から何まで・・・」


「いいよ。困っている時はお互い様だからね。それじゃあ、早く戻ってね」


 そう告げると蝶舞さんは踵を返して家の中へと帰っていく。


 その後ろ姿が、背格好が、多分似てたのだろう。


 俺は手を伸ばしてその名前呟いた。


「・・・結衣・・・」


「・・・ん?何か言いった?」


 蝶舞さんが俺の声に足を止めて振り返る。

 重ねていた結衣の姿はそれで消えてしまった。


 俺は伸ばしていた手を下ろして、「何でもありません」と蝶舞さんに言った。


 彼女は少し不思議そうにしながらも特に何も言わずそのまま帰って行った。


 一人残された俺はまた星空を見つめ、それから家の中へと戻った。

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