監察課による取調記録 第■■■■号
取調および記録日時:2023年11月14日■■時■■分
取調および記録場所:オリジン 登場部監察課第二取調室
取調担当者:ガエル・レイノー(オリジン 登場部監察課)
ウィリアム・テイラー(同上)
記録担当者:マット・ショービン(同上)
記録目的:登場部特務課所属の安藤氏を取り調べるにあたり、監察課の法務執行で問題が無い事を証明するため。
記録時間:■■分■■秒
取調対象者:オリジン 登場部特務課 安藤 ■■■
取調内容:異世界『NGY1150』にて、紳士淑女規定違反「特定現地人致死罪」を起こした疑い。発生場所は「現地日本国東京都八王子駅南口交番」
取調方法:対面式の録音有り
弁護士のサミュエル・フォスター氏の同席有り
備考:本件の供述調書について、弁護士と被疑者は内容を十分に確認し、署名と拇印を行なった。
______________________________
ガエル・レイノー(以下「ガ」)「まずは当時の状況を説明してほしい」
サミュエル・フォスター(以下「サ」)「いや、その前に告知事項の述べるべきだ。依頼人のミズ安藤へ丁寧に一通り述べてください」
ウィリアム・テイラー(以下「ウ」)「……では私が言いましょう。安藤さん、あなたには黙秘権があり、供述内容によっては不利益になる可能性があります。それからその、法的には取調べを中断させる事もできます」
安藤(以下「安」)「はい、わかりました」
サ「いいでしょう。始めてください」
ガ「当時の状況を話してほしい」
安「……あの時はあの、私たちチームは差し迫った状況に置かれていました。警察が私たちに発砲を繰り返してて、弾がいつ当たってもおかしくありませんでした」
ガ「なぜ発砲されていたと思う?」
安「えっと、私たちがその、あそこで活動していたので」
ガ「活動とは具体的に?」
サ「あくまでも任務の範囲内。それ以上は話せませんよね、ミズ安藤?」
ウ「弁護士さん、我々監察課はあの任務の情報にアクセスできる権限を持っていて、内容は把握しています。……黒塗りされていない部分ですが」
ガ「その黒塗りを何とかするためには、アンタの言葉が頼りなんだよ。正直に話してほしい」
サ「ミズ安藤。さすがに嘘はまずいですが、不用意に不利なことを話す義務はありませんからね。覚えていないことだってあるでしょう?」
ガ「まったく、こっちもこういう弁護士を雇っておくべきだったな」
サ「それはどういう意味でしょうか?」
ウ「ガリア、余計な発言はやめてくれないか?」
ガ「ああ了解」
サ「どういう意味でしょうか?」
ガ「…………」(約一分間の沈黙)
ウ「フォスターさん、ガリアには熱意を少々こめ過ぎる点がありましてね。勘弁してやってください」
サ「いいでしょう。依頼人との話を続けてください」
安「マシンをあの、マイクロマシンをあの子の体から取り出すため、現場の安全確保に当たっていました」
ガ「違反を起こしたタイミングは、取り出す前か取り出した後か?」
サ「質問の訂正を。正しくは『違反と疑われる行為』です」
ガ「……違反と疑われる行為を起こしたタイミングを知りたい」
安「取り出した後です。マシンを回収した直後でした」
ガ「よし、ありがとう」
ウ「すると任務の性質上、ターゲットの子供はその時点で『用済み』だったと言えますか?」
安「えっと、そんな事は……」
サ「ミズ安藤、そのような質問に答える必要はありません」
安「…………」(約二分間の沈黙)
ウ「では、違う質問を。交番に近づいてくる警官へでなく、交番の警官へ発砲したのですか?」
安「問題の警官はまだ生きていて、私たちに危害を加えようとしたからです。取るべき行動です」
ガ「おっ、急にスラスラと言えたな」
安「……正当防衛です」
ウ「そこは否定できないさ。亜実だって仲間を守るためにいろいろ手を回しているようだからね。金を惜しまずに」
安「大事な仲間ですから」
サ「ええ、その通りです。ミズ安藤は必要な行為を取ったに過ぎません。あの悲劇は偶然起きたに過ぎないのです」
ガ「ああ涙が出そうだな。彼女の銃弾が一センチでもズレていれば避けられた悲劇だもの」
安「そうかもしれ……」
サ「結果論に過ぎません! ミズ安藤、黙秘権がある事をお忘れなく!」
安「は、はい」
ガ「アンタの依頼人は安藤じゃなくて亜実か?」
サ「ミスターレイノー、私への質問は不要です。ミズ安藤との話に戻ってください」
ガ「フンッ、三宅の方がまだ話しやすかったぜ」
ウ「違反と疑われる行為を起こした後に、その子供の応急処置を行なわなかったのはなぜですか? あなたも救護研修を受けており、銃創患者に対応できたはずです」
サ「訂正してください。その子供に致命傷を与えた物は銃弾でなく、モバイルバッテリーの破片です」
安「え、ええ、そうですよ! その子が持っていた、隠し持っていたモバイルバッテリーに銃弾が、跳弾した弾が当たったんです!」
ガ「運命って残酷だよな」
サ「いいですか、監察官さん。これは事件でなく事故ですよ。ミズ安藤が今尋問を受けている事自体がおかしな話です」
ウ「いや、弁護士さん。ご存知でしょうが、紳士淑女規定の『特定現地人致死罪』に故意過失は無関係です。なにしろ、過失を理由にしようとする件が続出することが予想されたものですから」
ガ「他のエージェントに応急処置を頼むとか、現地消防に一報入れるなりできただろう?」
安「豊川さんは負傷、久保さんはマシンのアタッシュケースを安全に輸送せなばならない状況でした。亜実さんや岡崎さんと同じく護衛および脱出経路の確保に努めていました」
ウ「事態をややこしくさせた点は、亜実があなたへ車の運転を指示していた事だね。救急車を奪って足にしろと」
安「ええ、その通りです。任務のために運転を任されました」
ガ「しかし、キーを差したままにしなかった点は落ち度だよな? アンタがキーを所持していなければ、他のメンバーが運転を代行しただろう」
安「…………」(約三十秒間の沈黙)
サ「そこは落ち度ではなく、普段の日常生活におけるクセが出てしまったと考える方が適切です。車から降りる際にキーを抜くクセが偶然出てしまったに過ぎません」
ウ「交番の監視カメラの映像によれば、当時あなたが取った対応は、負傷した子供のそばにいたその、……子供にAEDの設置場所を教えた程度ですよね? 十分な行動を取ったと言えますか?」
安「……せ、精一杯努めた次第です」
サ「AEDの設置場所を指示した事実は、ミズ安藤に救護意識があった証です。敵が迫る危機的状況において、適切な手段を第三者に委ねた判断には合理性があります。ミズ安藤あるいは同僚が応急処置についた場合、状況がさらに悪化していた可能性を考慮すべきです」
ガ「現地警察の銃器対策部隊は着いていなかった。亜実たちが相手したのはピストルとお古の防弾チョッキを着た警官たちで、苦戦していたとは思えないね」
サ「敵の弾が頭上を通ったという証言があります。そして、正確には『銃器対策部隊はまだ着いていなかった』です。現場からの脱出があと三分遅れていれば、ミズ安藤たちは彼らとの戦闘を余儀なくされた事でしょう。それが何を意味するのか、あなた方はご存知のはず」
ガ「ああ、犠牲者がさらに出たはずと言いたいんだな」
ウ「そばにいた子供も死んだかもしれない、そういう事でしょ?」
サ「……被疑者の心情に関わるため、回答は控えます」
ウ「安藤さん、あの日あの交番であなたたちが取った行動に、何かしらミスがあったとは思っていませんか?」
安「いいえ、私たちは適切な行動を取っていました。仮にミスがあったとしても、任務は達成できているため許容されうるものと考えています」
サ「まさにその通りです」
ウ「ええ、まさにお手本通りですね」
ガ「それじゃ、交番を離れてから脱出地点までの道中でミスは? スピード違反ぐらいは別として」
サ「本件の取調べは交番で起きた事に関するものでしょう! 道中で起きたとされる事は別件です!」
ガ「同じ任務で同じ日に起こした交通事故で、子供をはねて逃げたんだぞコイツらは!」
ウ「すまないガエル、その子供の件は調べている途中だ。少なくとも今は話せる時じゃない」
安「し、死んだと決まったわけでは」
サ「大丈夫、何も答える必要はありませんよ。その子は今も行方不明ですので、彼らは逮捕も起訴もできません」
安「…………」(約四十秒間の黙秘)
ウ「いつまで行方不明のままかはわかりませんよ?」
安「…………」(約三分間の黙秘)
サ「話を本件へ戻すべきかと。長時間に渡る取調べは被疑者の心身に関わります」
ウ「仕方ない。では当時、交番でのあなたの行動に、リーダーや仲間の関与はありましたか? 自分の意志と異なる行動を迫られたとか、運転を急かされたとか」
サ「無理に答える必要はありません。黙秘しましょう」
安「…………」(約二分間の黙秘)
ガ「時間のムダだ。ムダでしかない。三宅のときはお喋りが弾んだよな、ウィリアム?」
ウ「ああ、否定しないよ」
サ「時間の無駄という点は否定しません。本件に関し弁護士として述べられる事は」
ウ「取調べはここまでにしましょう! マット、調書を印刷し持ってきてくれ! それにペンとインクパッドも」
サ「私も確認しますが、調書の内容に気になる点があれば、遠慮なくおっしゃってください。不十分な供述調書に署名や拇印をする義務はありません」
安「……ハイ」
取調は以上




