監察課による法務執行の音声記録 第■■■■号
執行および記録日時:2023年11月13日■■時■■分
執行および記録場所:オリジン 登場部専用居住区■■■■エリア
執行責任者:ガエル・レイノー(オリジン 登場部監察課)
記録担当者:ウィリアム・テイラー(同上)
記録目的:登場部特務課所属の三宅氏を逮捕するにあたり、監察課の法務執行で問題が無い事を証明するため。
記録時間:10分19秒
備考:特になし
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文字起こし日時:2024年11月■■日■■時■■分
担当者:■■■(■■■■■■)
形式:逐語形式の文字起こし
備考:不適切とも受け取れる音声が一部含まれていますが、正確性を重視し、そのまま文字起こしを行ないました。
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(通路を行進する音。十数人の靴音が絶え間なく聞こえてくる。足音に乱れはないものの、不穏当さを聞き取れる。)
ガエル・レイノー(以下「ガ」)「それでよ。オレとしちゃ、あのときに野郎を捕まえとけばよかったと、正直に言い返すしかなかったわけさ」
ウィリアム・テイラー(以下「ウ」)「正直なのは悪くないが、いつも良いとはキミも思っていないだろ?」
ガ「そこは認めるよ。しかし、ああ言ってやるしか」
ウ「まあね。だけど、彼女はとても納得してるように見えなかったから、後でまたボクら詰められるよ?」
ガ「ハア、まったく。ホント嫌な役回りのお仕事だ」
ウ「おいおい、録音し始めてるの忘れてないだろうね?」
ガ「おっと、そうだった。……しかしまあ、見合った給料はちゃんと貰えてるし、この仕事を辞める気は無い!」
ウ「そう、その通り! この歳でもう子供の世話になるとは、恥ずかしいからね!」
ガ「アンタもそんなの恥ずかしいと思うよな?」
(ここで、銃器によるものらしき金属音が鳴った。ウィリアムとガエル両名のすぐ後ろにいた、異世界兵隊の分隊長が立てた音だと推測できる。)
異世界兵隊の分隊長(氏名不詳)「えっ? ええ、恥ずかしく思うことは何もおかしくありません。むしろそれは、自然なことかと」
ウ「……自然、か。『普通』と同じく、便利な言葉だ」
ガ「ああ便利も便利。いつどこでも使いやすいから、今のオレらに取ってもありがたい言葉だ」
分隊長「…………」(無言だった。)
ウ「さてと、奴の部屋はそこだ」
ガ「ドアを見た途端、空気が臭くなった」
ウ「ああ、奴の薄汚さがドアに現れてるように見えるよ。ささっと済ませよう」
(ウィリアムとガエルがホルスターからピストルを抜き、銃の安全装置を解除する。)
ガ「管理人、部屋の合鍵は大丈夫か? 野郎が鍵を変えてるなんて話は無いよな?」
居住区■■■■エリアの管理人(氏名不詳)「ハイ、技師にも確認済みで、この合鍵で開けられます」
ウ「よし、すぐやってほしい。奴に先手を打ちたくてね」
管理人「ハイハイ、ただいま!」
(早い調子かつ少しうるさい音を立て、革靴が通路の床を叩く。)
ガ「静かに頼む」
管理人「ハイ」
ガ「あと気をつけてな」
管理人「…………」(言葉に窮したと推測できる。当時の状況を鑑みれば、ガエルなりの優しさだろう。)
(管理人が合い鍵を、三宅氏の部屋の鍵穴へ差しこむ。数秒後、三宅氏の部屋の鍵が開錠された。不審な音は無し。)
管理人「鍵を解除しました」
ガ「えー、このエリアを担当する管理人により、登場部特務課所属の三宅の、三宅氏の部屋のドアは開錠されました」
ウ「では、管理人さん。悪いけど、ドアをゆっくりと開けてほしい。事が済むまで、ドアの陰に隠れてても構わないから」
管理人「わ、わかりました。では……」
(管理人が部屋のドアノブを握る。そして、ドアノブを慎重に捻り、外開きのドアをゆっくりと開いた。ドアチェーンはかかっていなかった模様)
管理人「あの、どうですか? あ、あの人はいます?」(振り絞る小声)
(ドアが半分ほど開いた時から、現場は静まり返っていた。部屋からも何も聞こえない。)
ガ「……明るい。リビングのほうが明るい」
ウ「在室は確かだから、電気点けたまま寝てるんだろうね」
ガ「ああ、それも酔い潰れてな」
ウ「起きていられたほうが厄介だし、先手を打てそうだ」
ガ「ヘタすりゃ撃ってくるさ」
(まず、ドアホンが二回鳴らされる。それから、ピストルと思われる金属物で、ドアを叩く音が二回。しかし、三宅氏の部屋からの反応は無し。)
ウ「分隊長。ここに三人残し、他はボクらと入ろう」
分隊長「了解しました。セブンからナインまではここで待機し、警戒せよ」
異世界兵隊の隊員(氏名不詳)「了解」(他の隊員二人も続いて返す。)
ガ「これ以上の問題はゴメンだから、もし野郎のお仲間が来ても追い返せよ?」
先ほどの隊員「ハイ、わかりました」
ウ「では、分隊長以下七人は室内の制圧を。無論、ボクらが後に続くけど、油断せずよろしく」
分隊長「りょ、了解しました」
(直後、複数人分の靴音が小刻み。そして、ウィリアムとガエル両名の靴音。突入した隊員たちによるやり取りが一分ほど続きました。当然ですが、音声から彼らの慣れた所作を伺えました。)
ガ「えー、今回の、本件の容疑者である三宅氏を発見。本人への伝達を行なう。……ここまで合ってるよな?」
ウ「ああ、問題ないよ。今のところは」
(突入から約一分後に上記の会話。それから約二十秒間の静寂。)
分隊長「これはもう、起こすしかないですよね?」
ガ「ベッドごと運びたいか?」
分隊長「い、いいえ」
ガ「なら、さっさと起こしな。話すのはそれからだ」
分隊長「了解」
ウ「そこ、そこの左上はまだ汚くないみたい」
分隊長「……ハイ」
(布を雑に引きずる音が七秒間。重い物が床に落ちた音。)
三宅「イッツツ! なんや!」
ガ「おっと、そのままでオーケー」
ウ「座ってて。今はそこに座ってて」
三宅「ハァ? なに? アンタらなんやの?」
ウ「突然すまないが、監察課だよ。ワタシと彼は監察官で、他は異世界兵隊」
ガ「下手に動かないほうがマシって事はわかるよな?」
(三宅氏が何度か咳こむ。埃が酷く舞っていた模様。)
三宅「……いったい、いったい何の用や?」
ガ「捕まえにきたんだよ。ついにお前さんをな」
三宅「な、なにを言うてんの!」
ウ「落ち着いて。詳しい話を今から彼が話すから、しっかり聞こう。ガエル、一通り読み上げてくれ」
ガ「ああ」
(執行責任者のガエルが、服のポケットから書類を取り出す音。大事な書類のはずですが、彼は何度か折り曲げていたようです。)
ガ「『紳士淑女規定』に違反した疑いで逮捕する。罪状は、えー、『特定現地人致死罪』だ」
三宅「ザイジョウ? その、特定なんやって?」
ガ「特定現地人致死罪の罪状だ。お前はあのNGY1150で、紳士淑女規定を破った。ショットガンで子供一人死なせちゃっただろ?」
三宅「……し、死なせた言うても、あのガキは刀持ってたんやぞ?」
ガ「当時の状況は知ってる。ただ、死なせる必要まではなかった、というのが見解だ」
ウ「ガエル、取り調べは後でするから。今は逮捕だけにしよう」
三宅「逮捕? 取り調べやと?」
ウ「落ち着いてくれ」
ガ「暴れたり逃げたりすれば、他の罪も足すぞ?」
三宅「人が寝てるとこに、いきなりきといて何をゆうてんの?」
ガ「ベルを鳴らしても出てこなかったからだ」
三宅「こっちは疲れて寝とったんや!」
ウ「ミスター三宅、頼むから落ちついてほしい」
ガ「もう一度だけ言うぞ。『特定現地人致死罪』の疑いで逮捕する」
三宅「ふざけとるんか? ドッキリやろ?」
ウ「残念だろうが違う」
ガ「えー、お前にも黙秘権がある。今後の言葉は、えー、裁判で不利になるかもしれないから気をつけるように」
三宅「こんなんありか……」
ガ「それから、自費か経費で弁護士を付ける権利もある。自分で雇う金あるか?」
(三宅氏が立ち上がったと思われる音。ほぼ同時に、銃を構える音が複数有り。)
ガ「オイ、まだ言わなきゃいけない事がある」
三宅「に、任務中に起きた事やから、経費で雇うに決まっとるやろ」
ウ「わかった。弁護士を忘れずに呼ぶから、今は座っててほしい。あと少しで済む話だ。穏便にいこう」
(三宅氏が床に腰を下ろす。銃をしまう音は聞こえず。)
ガ「あと、今後の言葉は本件だけでなく、その他の事柄で使用される可能性があるから気をつけるように。……えー、以上。これでいいよな?」
ウ「うん、以上でいいよ」
ガ「なら良かった。そんじゃ三宅、立っていいぞ」
ウ「ゆっくりでいいからね。ゆっくりでね」
(三宅氏が再び立ち上がる。落ち着かない息遣いが聞こえる。)
ウ「手錠はガエルが持ってる?」
分隊長「あっ、今は私が持っています」
ガ「かけるの任せた」
(ガエルが溜め息をつく。早くもお疲れの様子。分隊長が自分の尻ポケットから、手錠とその鍵を取り出す金属音。)
ウ「いや、監察官が手錠をかける決まりになってるんだ。そこまでは頼むよ」
ガ「……まったく」
三宅「嫌そうやな? 手錠かけられんで済むなら、それでもかまへんぞ?」
ガ「黙れ。……少し雑になるかもだけど、手錠かけてやるよ。オイ、早くよこせ」
分隊長「ハイ、鍵も一緒です」
ウ「では、ミスター三宅。回れ右で背中を向けてください」
三宅「あーあー、ヘイヘイ」
(三宅氏が気だるそうに動いた様子。逮捕現場の雰囲気の更なる悪化が、音声から感じ取れる。)
ガ「大物気取りだな。ええ?」
ウ「ガエル、気にせず手錠を」
三宅「アンタら「事務屋」こそ大物なのか? 現場の苦労を知らないか忘れてるかだろ?」
ガ「……まあ少なくとも、お前より大物だよ。オレもコイツもな」
ウ「頼むから手錠を早く」
ガ「わかったわかった」
(ガエルが三宅氏に手錠をかける。よほど雑だったらしく、三宅氏が痛そうに愚痴をこぼす。)
ウ「手錠よし。分隊長、彼を私たちのオフィスまで連行してほしい。その際の混乱は多少水に流せるから、よろしく頼む」
分隊長「……あっ、了解しました」
三宅「混乱? あの時こそ混乱そのものやったぞ?」
ウ「当時の話は後で聞く。今は彼らと歩く時だ」
三宅「ハイハイ」
※録音は逮捕時までという規則のはずですが、この後もしばらく録音状態が続いていました。そのため、文字起こしも継続します。
(逮捕した三宅氏を連行する異世界兵隊と、彼らに付き添うウィリアムとガエル。登場部の通路を歩く彼らを、人々が様子を伺っている。複数人分の足音に混じる形で、その喧騒は確かに聞き取れた。)
三宅「亜実んところのはどうなってるんや? まさか、俺だけ悪者扱いか?」
ガ「歩け歩け。それから納得しろ。彼女のほうの件も大事になってて、お前と同じ罪で逮捕だ。……罰は違うことになるだがな」
三宅「クソッ、俺とは性別が違うもんな」
ガ「男女だけの問題じゃない。お前とあっちの件は、いろいろ違うからな」
ウ「おいガエル、余計なお喋りも今は無しだ。彼ら兵隊はともかく、部外者にはまだ周知されてないから」
ガ「ああ、そうだったな」
三宅「まだ周知されないって? 俺のも亜実んところのも、みんなもう知ってて、どんなワケがあるかもわかってるわ!」
ウ「声がうるさい」
ガ「ああ、そうかい。けどお前の場合、理解まではしてもらえないと思うぞ?」
ウ「ガエルもうる、少しうるさいよ」
三宅「弁護士さん、はよう連れてきてくれや」
ウ「向こうに着いてから呼ぶ」
三宅「ハァ? 今すぐ呼べや!」
(三宅氏は立ち止まり、隊員の制止を振り払う。場に緊張が走り、人々の喧騒は途端に止む。代わりに、三宅を連行する異世界兵隊が狼狽える始末。)
ガ「オイ、見苦しいぞ!」
三宅「一々うるさいんじゃ!」
(ガエルが再びピストルを構え、三宅氏に照準を合わせた模様。ウィリアムや異世界兵隊もそれに続いた様子。)
ウ「これ以上の面倒事を避けたい。お互いにそう、そうでしょう?」
三宅「おう、当たり前や。今すぐこの場に弁護士さん呼んでくれたら、おとなしくしたるわ」
ガ「クソッ、ホント困るヤツだな。呼んでやろう」
ウ「今連絡する。コレで弁護士を、……うん?」
(録音端末とスマホが擦れ合う音。)
以上
※この時に、録音担当者のウィリアムが録音中だと気づき、録音を停止した模様です。




