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「これ」 望美

 最悪の結果をうんだ三宅は、タチが悪くバカな男である。責任転嫁じゃないが、元々そんな手合のクソ野郎だ。

 まず三宅本人が、やらかした事実を受け入れようとしなかった。無意識でもあるものの、彼は典型的な保身に走った。置かれた状況を考えれば、一秒でも早く解決すべきだとわかったはず。

 彼は車から降りはしたものの、最初に注視した点はボンネットやバンパーや凹みのほうだ……。故意じゃないとはいえ、自分が跳ね飛ばした二人へはそれからだった。一人は即死だが、もう一人は生きている。救護研修を忘れていなければ、彼は応急処置に動けたはず。

「まったくよ! 避けれたやろ!」

その罵声はバンドエイド代わりなのか? 研修で学んだ応急処置を忘れているらしい。彼に「AEDは何の道具か?」と聞けば、「女に使わない道具」と答えそうだ。

 とにかく、その交通事故は悲劇の一つだった。死んだり死にかけた二人だけじゃなく、車の所有者および保険会社が気の毒だ。請求すべき相手の三宅は、その世界では書類上の存在でしかない。

 無論、複合体たるオリジンは謝罪や賠償をまず行なわない。望美たちが自腹を切っても、それが必要経費として通らない点は知っている。応急処置の研修内容を忘れている三宅でさえ、その点は忘れていない。


 ……異世界の人畜に外道を働く者は、この三宅に限った話じゃない。彼のチームリーダーの望美だって、今の『紳士淑女規定』なら罰せられる行動を過去取ってきた。この世界NGY1150へ入界したばかりのとき、スピード違反から警官二人を殺した件でも、任務外で行なっていれば、きっと罰されている。

 まあ正直いうと、三宅や望美のような「一部」が、あの規定を順守するとは今も思えていない。それでも堂々と問題を起こされるのはマズい。世知辛い世の中だからな。


「ああっ、いちい、いちいい……」

死ななかったほうの中年女性こと倉本は、あまりの激痛に声が絞り出している。子供でも一目見れば彼女は、ただちに助けるべき有り様だった。結局一命を取り留めたものの、当時のその姿は凄まじい。

「ちょっとオイ! アンタまたやらかしたね! 今度はなに!」

声の主は望美だった。彼女が矢崎宅の玄関ドアを開け放ち、石床を踏み鳴らしながらやってくる。東京の狭苦しい住宅街で奏でる、耳障りなメロディだ。

 そして、粗雑な口調も彼女らしい。チームリーダーを任せる以前もそんな態度だったし、部下の扱い方も進歩していない。何か問題が起きた場合に、「なぜ、三宅一人に見張りや人払いを任せたんだ?」などと追求されると、彼女はあまり考えないようだ……。

「じ、事故、ちょっとした事故ッスよ!」

「ああそんな、クソッ! ちょっとの事故に見えない! どうやればこうなるん?」

震えも混じる、彼女の荒い声。まあ状況や立場を考えれば仕方ない。

 いくら薄情な東京人でも、夜の住宅街でこれだけの交通事故を起こせば、ご近所や暇人の興味をひくに決まっている。もちろん、人々はスマホを忘れずに持参していた……。お決まりの野次馬だ。

 事故を起こした三宅だけじゃなく、望美も被写体と化す。我々の協力者によれば、彼女が左脇下に潜ませたピストルのホルスターが写り込む画像まで、SNSに流れていたそう……。また、プロボックス内のガンケースも写り込んでおり、現地の公的機関の関心を招いたのは言うまでもない。

「アンタ、この場をさっさと治めなさいよ!」

望美は三宅に命じたものの、彼に「どうやって?」というジェスチャーで返される……。

「こいつらを集めた原因はアンタ! お得意の脅し文句を並べるとかして、もうさっさと追い払って!」

任務中じゃなければ、望美自身が乱射するなりしただろうな。彼女お得意のナイフ捌きも見られたはず。

 その夜集った野次馬やご近所は幸運だ。流血沙汰や、地価が下がるといった不運を避けられたのだから。


 野次馬。無責任な大衆。普段は無関心。

 彼らは車道も塞ぎ、眼前の交通事故を非日常として楽しんでいる。日本が第二次世界大戦に勝利した世界においても、彼らは同等だった。まあ、我々の世界における「戦勝国」の民度を踏まえれば妥当か。

 鳴り響くシャッター音には多様性を感じ取れた。カシャカシャ、パシャリパシャリ、ピコーンピコーン。当時望美に起きた幸運は二つある。

 まず、野次馬がSNSに流した画像が元で、通報無しでも救急車やパトカーが来てくれた。しかし、その救急車は東京都内の平均より到着や搬送に時間がかかったし(野次馬のせいでもある)、実質二人分の労働力を失わせてしまった。……いや、彼らも神様じゃないし責めてはいけない。それに、もう一つの幸運に繋がる。

 逃走する時間を望美たちに与えてくれたからだ。三宅がプロボックスを再び走らせ、さらに何人かひき逃げさせる余裕までうんでくれた。最初のパトカーが現着した時点で、望美たちは離散し始めており、銃撃戦はひとまず回避される。


 ただその夜、肝心のマイクロマシン回収はこなせなかった。少年矢崎の帰還を、彼の家でのうのうと待つ余裕はない。集う野次馬だけでも、矢崎がいつも通り帰宅できない理由になる。自分で警察に通報し任せる流れのほうが自然だ。

 ただ彼は臆病者じゃないようで、家族の身を案じ、警戒しながら帰宅した。ピストルを抜いた警官たちと共に、大和魂的な勇気を振り絞って。

 野次馬がSNSに流した画像の数々は、現地警察を奮い立たせた。テレビでまだ報じられていなかったが、望美たちが交通違反取締りの警官二人を殺した件は、警視庁管内で共有され、金喰い虫なNシステムでのナンバー照合も済まされていた。人手不足でもやるべき事はやるわけだ。

 件の二人は交通課らしいが、警察官は警察官だ。「仲間が殺された」という事実は単純だが、現地警察を当時本気にさせてしまった……。


 そして、任務継続のため、現地の公的機関の憤りを抑える手間に、オリジンがどれほどリソースを割かれたと思う? 管理者が、何人もの協力者に頭を下げたり金をせびられたりした苦労を、当の望美たちは労うべきだ。

 そして、失敗含む結果を活かし、良い具合に成長してほしい。それこそ小学生やAIにもできることだ。


 ……まあ、その夜の結果を望美たちが活かせなかった事実は、今さら覆せない。期待し過ぎた私がバカなのかもな。

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