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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第一章 エルの森編
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初任務

 ユウキとククルは荷台から降り、ロイは馬を木の側へ繋いだ。

 そこへ、先に到着していた十軍のメンバーが近づき、ある人物がククル目掛けて飛んできた。


「ククル君っ!」

「ふぎゅっ......!」


 森の中から勢いよくククルに突進してきた人物は、朝っぱらから酒の匂いをまき散らしていた。

 見た目は長い黒髪を下ろし、オレンジ色の目。

 清楚なお姉さんっぽいが酒の匂いが酷い。


「あぁ......またか」


 ロイは呆れて溜め息をついている。


「姉さんっ!」


 森から女性がもう一人走って来た。

 褐色の肌、ショートヘアでボーイッシュな見た目。

 こちらもオレンジ色の目だ。


「姉さん、今日は遊びに来たわけじゃないんだよ」


 少し怒りながら、ククルにしがみつく女性を引きはがそうとしている。

 ぎゃーぎゃーとうるさくなりユウキもロイもその場に立ったまま、困り果てていた。


「止めなくて良いの?」

「もうそろそろテラさんが来るから放っておいて良いんじゃないかな」


 がっしりとしがみつくお姉さんは、引き剥がそうとしても抵抗し、ククルはもうぐったりとしている。


「おい、お前らうるさいぞ」


 しばらく騒いでいると、テラの声が聞こえ、ロイとユウキはそちらへ視線を移した。

 鋭い目は相変わらず怖かったが、二人はやっと事態が収まると思い、ほっと安堵した。


「テラさん! 姉さんがまた!」

「むぎゅう......」


 テラはごちゃごちゃとしている三人を見て溜め息を吐く。


「おいルーミ、あんまり迷惑かけるなら帰ってもらうぞ」


 その言葉でお姉さんはビクッと体を震わせ動きが止まる。

 力が弱まったことでいとも簡単に引き剥がされ、ククルはやっと解放された。


「ごめんねぇ......ククル君......」

「大丈夫ですよ」


 ククルはルーミと呼ばれた女性に微笑んだ。

 子供らしい、純粋で澄んだ笑顔に、ルーミはキュンと心臓を掴まれた。

 目もハートになり、傍から見ても分かりやすかった。


「まったく......」

「ほら、姉さん立って」


 妹と思わしき女性は、ルーミの身に着けているマントから土などを払い落し、世話を焼かれているルーミはありがとう~などとにやけている。


「お前ら、新人がいるんだから自己紹介しておけ」


 ひと段落した後、テラは顎を使って二人に指示した。


「初めまして、ユキです」

「ユキの姉のルーミで~す。よろしくね~」


 ボーイッシュな子は、微笑みハキハキとした口調でそう言った。

 一方でお姉さんっぽい方はふにゃふにゃと眠そうな声で答えた。

 酔っているのかふらふらとしている。

 ククルの頭に顎を乗せ、ぎゅっと抱きしめていた。


「初めまして、ユウキです。よろしくおねがいします」


 ペコリと頭を下げた。

 気のせいかもしれないが武器をジロジロと見られたような気がする。


「じゃあ早速だがお前らにこれをやる」


 テラから渡されたものはリストバンドに薄い板が付いたものだった。

 一瞬時計に見えたが、針なんてない。


「何ですかこれは......?」

「これは遠くの人と会話するための機械だ」

「遠くの人と......?」


 テラの言葉に全員が驚いた。

 その反応にテラは薄く笑い、説明を始める。


「そうだ、その機械に表示された人物が範囲内にいればいつでも連絡可能だ」


 ただの板に見えたものは腕に装着すると光り、名前が表示された。

 その一覧をユウキは、眺める。

 ロイ、ククル、ユキ、ルーミ、テラ。

 それぞれの名前に触れると会話が開始されるとテラは説明してくれた。


「二手に分かれながら討伐を行う。何か問題があれば連絡するように」

「了解です」

「らじゃ~」


 二手に分かれると言うので軍ごとかと思ったがルーミはククルの側から離れない。

 断固として動かないという意志を皆に見せつけている。


「姉さん行くよ」

「やだやだ~ククル君と一緒に行く!」


 またもぎゃーぎゃーと騒ぎ始めたのでテラが口を挟む。


「ククルと一緒で良いから早く行くぞ」

「良いんですか!やった」

「ただし私も一緒だ、変なことしたら分かってるな?」


 テラの鋭い目が一層鋭くなった。

 喜んだルーミもすぐに絶望のどん底へ突き落とされる。

 巻き込まれたククルはずっと苦笑したまま、されるがままだ。


「ユキ、お前はロイとユウキについていけ」

「え......うーん、分かりました......」


 ユキはルーミの方をチラチラと見て心配そうであった。

 べったりとククルに抱きついているのを見ると更に不安を煽る。

 しかし総司令の命令には逆らえないのか、こちらへ歩み寄ってきた。


「討伐数はそれほど多くない、始めるぞ」

「は~い、行こ~ククル君」

「むぐぐ~」

「姉さんあんまり迷惑かけないでね!」


 とても不安な感じだがユウキ達は三人を見送る。

 引っ張られていくククルはやっぱり抵抗していない。

 あんな酒飲みに毎日絡まれていると、抵抗しても無駄だと判断したのだろうか。

 いや、あれだけ純粋な笑顔を返していたのだ、仲が良いということにしておこう。


「あの......姉がうるさくてすみません」


 困ったような、申し訳ないような顔でユキは頭を下げた。


「いやいや大丈夫ですよ、賑やかなのは良いことですから」


 ユウキは手を振り否定した。

 緊張する暇もないほど場が盛り上がり、ククルは困ってそうだが、こちらとしてはありがたいことだった。

 だから、本心からそう言った。


「ありがとう、お詫びに精一杯頑張るから!」


 ふんっと気合を入れたのが目に見え、ユウキは頼もしいなと思うのと同時に、元カノにも似た華やかさを感じていた。

 

 挨拶を終え、三人は静かな森へと入った。

 足音のみが木霊し、時々鳥のさえずりが聞こえる。

 ロイが先頭、ユキが真ん中、ユウキが最後尾で索敵をしていく。

 センサーに音は引っかかっていない。

 ずんずん進むうちに暗がりが広がっていった。


「......」

「......」

「......」


 何も言葉が出ず少し気まずい。

 同じ軍であるロイとも知り合って一日しかない。

 ユキという子も同い年だから威圧感はないものの話しづらい。


(任務中だから話すのも変かな......?)


 無言のまま時間は過ぎていく。

 時間が過ぎれば過ぎるほど、ユウキに余裕はなくなり、雰囲気を気にすることもなくなった。

 細かな雑音がセンサーに反応しているため、どれが重要なのかを見極めなければならない。


「動物の死体が多いな」

「そうですね......」


 鹿や熊の死体が転がり、木々もなぎ倒されている。

 暗かった森から一変し、陽の光が差し込んでいる場所へ出た。

 広範囲の木が倒され、大きな広場のようになっている。

 言うまでもなく目標であるイノシシがやったものだろう。


「近いかもな」

「油断しないようにね」


 三人は辺りを見渡し、目標を探す。

 これだけの被害を出しているなら目立つはずだが、それらしい生物はいない。


チカチカ


 後方から音の反応。


「後ろ!」


 ユウキの声に二人も続く。


「......!」


 三人の視線は上へと動き、見上げるほど巨大なイノシシがいた。

 二、三メートルを優に超えている。

 牙は天を突き抜けるほど反り、人の胴を簡単に貫けるほど太かった。


「ブルルル」


 興奮しているのか鼻息を鳴らしイノシシは首を振る。

 ギラつく目は三人を捉えて離さない。

 獲物を狩る目だ。


「でっかいなぁ」


 ユウキの前にロイとユキが出た。

 ロイは背中に収められていた両刃剣(ツインブレード)を取り出す。

 ユキは拳を前に出し隙のない構えでイノシシをにらみ返した。

 ユウキもボウガンを取り出しイノシシへ狙いを定める。


「グゥゥ......ブオォ!!」


 雄たけびと共にイノシシは突進を開始した。

 地面が傾くほどの地鳴りと共に、イノシシはこちらへ迫ってくる。


<幽玄:閃光の矢>


 ユウキから放たれた矢は高速でイノシシに接近し激しい閃光を放った。


「ブオォォ!!」


 大きくのけ反り地響きは止む。


「ブオォ......グゥゥ」


 フラフラと頭を揺らし方向感覚を失っている。


<絶夢:五月雨(さみだれ)


 ロイは右、ユキは左からその無防備な体に攻撃を加える。

 ロイの武器は真ん中の持ち手から両端に刃が伸びている。

 片方の刃を棒高跳びのように使って跳躍し空中で両方の刃を振るう。

 たなびくマントと相まってその攻撃は蝶を彷彿とさせた。

 瞬く間に五連撃を叩き込みイノシシの態勢は左へずれる。


 そこへ、待ち構えたようにユキが拳をめり込ませた。

 ユキの手には白い拳甲がはめられ、堅い装甲がメキメキと胴体に入っていく。

 素手の威力は何倍にも膨れ上がっていた。


「はぁぁぁ!!」


 イノシシは空中へと無残に飛ばされた。

 明らかに何百㎏もある巨体が宙を舞うのを見て、ユウキは驚きを隠せなかった。


(凄い......見えないくらい速い斬撃を出したロイも凄いけど......ユキのあの拳......)


 血が地面に滴り、脳震盪を起こしたイノシシは力なく倒れた。


ズズン


 倒れた地響きに森の中はパニックになっていた。

 鳥が一斉に羽ばたき、野生動物の鳴き声が一斉に遠ざかった。


「グゥゥ......ゴッ......」


「えぇ......まだ動けるの」

「見た目通りタフだな」


 会話をする余裕を見せるロイとユキを他所にユウキは武器を構える。

 瀕死とは言えまだ動いている敵に油断などできない。

 イノシシは四肢をバタバタと動かし、もがき苦しんでいる。


「殴り飛ばすって......相変わらず無茶なことをするな......」

「ん~?なにか言った?」

「何でもない」


「ブオォォォ!」


 まだ目も見えていないはずのイノシシが急に立ち上がり、闇雲に動き始めた。

 巨大な牙を振り回し、ロイとユキに迫りくる。


「危ない!」


<幽玄:三連焔の矢>


 いち早く反応したユウキの矢がイノシシを貫いた。

 三連続で放たれた矢はイノシシに刺さった瞬間に炎へと変化する。


「ブ......オォォ!!」


 次々と燃え広がり、皮膚すらも燃やし尽くす業火にイノシシは苦しみ、地面を転がり火を消そうとした。

 必死に転がりもだえ苦しみ悲痛な叫びが響く。


「ユウキ、助かった」


<絶夢:菜種梅雨(なたねづゆ)


 やっとの思いで鎮火したイノシシにロイは接近する。

 前方に大きく跳躍し頭上を越える。

 振りかぶった状態から回転し四連撃を叩き込んだ。


「グゴォォォ!」


 燃えてむき出しになった皮膚にロイの斬撃が刺さる。

 大量の血が噴き出しグラグラと地面が揺れる。

 ひとしきり暴れまわった後、力なく足が崩れた。


「ブモォォ......」


 すっかり衰弱し切ったイノシシは立つのもやっとに見えた。


「終わりだな」


 そう言うとロイは武器を収めた。

 その行動にユウキは驚いた。

 見て分かる通り、イノシシはまだ諦めていない。

 フラフラとしながら気合いを振り絞って牙を構え、突進の準備を始めている。

 

「あいつまだ動こうとしてるよ」

「大丈夫だ、あれを見ろ」


 慌てるユウキを制し、ロイは上空を指さした。

 つられて視線を動かしたユウキは目を疑った。

 武器を使って跳躍したロイよりも高い場所にユキはいた。

 太陽を背に急降下を始めている。


<闘魂:鬼火蓮花(おにびれんか)


 瞬きするよりも速く拳が動き、一撃、二撃.......七撃、八撃......ユウキに数えられたのはそこまでだった。


「やあぁぁぁ!!」


「......!!」


 イノシシは叫ぶ間もなく殴り続けられる。

 牙も折られ地面に打ち倒され、それでも尚続く連撃に耐えることが出来ずにいた。


「たぁっ!」


 溜め込んだ一撃を最後に叩き込み、ユキは軽やかに着地した。


「ふぅ......」


 あれだけの攻撃をした後なのに、ユキに疲れた様子は見えなかった。

 にこやかにこちらへ笑顔を向けてくる。

 背後にボコボコの地面とイノシシがなければ雑誌の表紙を飾るほど可憐だった。


「......」

「......」


 ロイもユウキも顔を見合わせて笑うしかなかった。

 恐ろしい。

 怒らせない方が良い。

 二人が思うことは一緒だった。


「ユウキ、ありがとうね。連携も上手く出来たし、本当に実践初めてなの?」

「ははぁ......!勿体ないお言葉です......!」


 ユウキとロイは土下座して、無抵抗の意思を見せた。


「えぇ!?なんで?!」


(怖いからです)

(怖いからだ)


 思ったが言わなかった。

 言えばピクリとも動かないイノシシのようになるのは明白。

 怯えている二人に困惑するユキ。


ピリリリ!


 そこへ、けたたましい音が腕から鳴った。


「は、はい!」


”ユキか、討伐数は稼げてるか?”


「はい、今ちょうど一体討伐しました」


 通信の相手はテラのようだ。

 ユキが相手をしている間、ロイとユウキはひそひそと会話を始めた。


「驚いた、本当に矢で戦えるなんてな」


 まじまじとボウガンを見つめ、本当に驚いている様子であった。


「魔法が付与されてるからね。普通の矢じゃ無理だよ」


 ユウキは矢の束を見せてみた。

 赤や青に光る矢には魔力が込められている。

 魔法の使えないユウキはテラが調達した矢を使っているだけ、だから褒められても困ってしまう。


「ロイこそ、その武器をあんなに速く振って、カッコよかったよ!」


 ロイの背中に収められた両刃剣は戦闘時よりもコンパクトな大きさになっていた。


「師匠のお陰だからな」

「師匠......?」

「あぁ」


 ロイの目はどこか誇らしげだった。


「特訓は厳しかったが、あの人のお陰で今こうやって戦えている」

「ロイの師匠かぁ.....いつか会ってみたいなぁ」

「ふ......驚くかもしれないぞ」

「えぇ!なに......そんなに怖い人なの......」

「さぁ、どうだろうな」

「テラさんより?」

「いや、あいつよりは怖くない」


 二人は笑い合った。

 テラの眼光と”あぁ?”という口癖が容易に思い浮かんだからだ。


「二人とも何楽しそうに笑ってるの」


 いつの間にか通信を終えたユキが立っていた。

 白く短いケープマントが肩で揺れている。

 近くで見ると涼しそうな装備、つい目のやり場に困ってしまう。

 所々見える腕の褐色、へそ、太もも。そんなことはつゆ知らずユキは話し始めた。


「うーん、まぁいっか。それよりも大事な話があるの」


 ユキは座り込んで腕の機器を見せた。


「今回のイノシシ変異。これは魔物化と考えて間違いないらしいの」


 合計四体のイノシシから微量な魔力を検知。

 危険度は下級クラス。

 次々と画面に映し出された文字を読みユキの言葉に耳を貸す。


「それで、ここからが重要で」


 ユキがスライドするとそこには地図が表示された。

 この森のポイントに二カ所。

 一カ所はこの付近、もう一カ所は反対側。


「何これ......?」

「これは魔力探知で引っ掛かった地点。言い換えれば魔物化の原因があるかもしれない場所」


 ロイとユウキの目つきがすぐに変わった。


「なるほど......」


 少ない説明ですぐに理解出来た。

 つまりこの地点の調査は危険を伴う。

 先ほどの下級クラス以上の魔物がいるかもしれないのだ。


「私達に課せられた任務は調査及び殲滅。ただし危険を伴う場合は撤退......そこは忘れないで」


 ユウキもロイも無言で頷いた。


「私達が行くのはすぐ近くのここ。テラさん達はこっちの反対側」


 ユキの指す指を追い、今一度場所を確認していく。

 距離にしてわずか数百メートル。


(そこに...何かいる)


 なんとなくざわざわとした嫌な予感がした。

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