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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
58/71

魔族の思惑

......


...........


.......................


様々な思いが入り混じる祭りの最中、帝国城に集結している人達がいた。


「ロイ~」

「なんですか、メルさんコアさん」

「こら。師匠と呼べと言ってるだろ」

「............師匠」

「よろしい」


廊下を歩くロイの隣には長身のすらりとした女性がいた。


師匠と呼ばれた女性はロイと同じ両刃剣を背負い、一つの体に二つの頭を持っている。胴体の部分から首が二つ伸び、人としての造形は保ちつつ頭が二つある。


片方は緑の目に黒いポニーテール、口元は隠されクールな印象をしている。目が見えるからメルと呼ばれている。


もう片方の頭は同じ髪型をしているが目が隠され不思議な印象をしている。声を出せるのはこちらなのでコアと呼ばれている。


「で?その神殿を開ければ君の大切な人に会えるのかい?」

「分からないです」

「そうかい。まぁ可愛い弟子の頼みだから手伝ってやろう」

「本当に良いんですか?」

「何を今更。助けたい人が見つかったんだろう?それ以上理由がいるのかい」

「............」


ニコニコと笑う師匠にロイは感心した。それと同時にいつもとは違うまともな発言に眉をひそめる。


「えーっと部屋はここかな」


しばらく歩いていた二人は扉の前で立ち止まる。躊躇なくノックし返答を待たずに入っていくメルとコアにロイも続く。


「やぁテラ~~久しぶりだね」

「まったく...お前はいつもうるさいな」

「本当よ~!!少しはシルクを見習いなさい!!!」

「お前もうるさいぞ」


部屋の中にはテラと見慣れない少女が一人。短い黒髪と青い目が特徴的であり、無表情で静かだ。だが彼女の持つ人形は高音の声でうるさい。


今更人形が喋るくらいでは驚かないロイは小さく会釈をして席に座る。


「君がロイ、ロイ君ね!!初めましてぇ!!私はアルル。この子はシルク!!」

「どうも」


人形はピーピーとした声で自己紹介を終えると小さな手を伸ばしてシルクの方を指す。先ほどから人形を抱きかかえていた少女は一言も発さずお辞儀をした。


「うるさいから手短に話すぞ」

「了解」

「良いわよぉ!!」

「........」


ロイとテラは顔を見合わせどちらも面倒くさそうにしている。限りなく真反対な性格をしている一同にうんざりしつつテラは説明を始めた。


「集まってもらったのは他でもない。神殿の解放に協力してもらうためだ」


テラが機器を操作すると大陸の地図が表示される。その中に強調表示されている部分が四つある。北半分に二つ、南半分に二つ。それぞれは帝国領から馬車でも数日から数十日かかるほど遠い。


「開け方が分かったのかい?」

「親切な奴がこれを置いていってな」


そう言ってテラは一冊の本をテーブルに置いた。開かれたページには神殿の位置と細かな情報が書かれている。


メルとコアは身を乗り出して興味深そうに読み、シルクは目線だけを動かして見ている。


「うーん...つまり四つ同時に起動すれば良いのかい...?」

「そういうことだ」

「こんなに遠いと通信機も使えないねぇ!!」

「その点については考えてある」

「流石ぁ!」

「.......」


テラが甲高い声を出すアルルを一睨みすると瞬時に黙り込む。うるさくてイライラしているのが分かるのでロイは成り行きを見守ることにした。


「別の問題として四部隊に分ける必要がある上に帰還にも時間がかかることだな」

「神殿に行く途中で魔族に合わないとも限らない」

「確かにぃ!!」


うるさいが理解は早く、呆れているテラも小さく頷く。


「帝国領を守りつつ最低限の戦力で神殿に向かう必要がある。出来るか?」

「任せなさぁい!」

「引き受けた」


魔族と相対する可能性が高い今、遠征に行くのがどれだけ危険なのかは火を見るよりも明らかなのだ。それにも拘らず返事は軽い。


「火は私かな」

「水はシルクねぇ!!」


まるで遠足にいくかのようなノリで自身の担当場所を確認している。


「残りの神殿は誰が?」

「風はルーミに任せる。護衛はキークが行ってくれるそうだ。地はQ単独で行ってもらう」

「単独ぅ?!」

「まぁQなら大丈夫だろうね」


メルとコアは足を組んでひらひらと手を動かす。アルルはテンション高めに笑うがシルクは全く表情が変わらない。


「総司令以外の人員は立候補で決めていく予定だ。もちろん誰でも良いわけではないが危険性が高い以上無理強いは出来ない」


テラの目はロイに向けられる。いつも通り威圧感のある目だが何を言いたいのかは分かる。


「師匠」

「言うと思ったよ。それじゃあ火は私とロイだな」

「二人で平気か?」


テラの問いに二人は頷く。にやにやと笑っているメルとコアに比べてロイは真剣な眼差しで本を眺める。


「お前らの付き添いは後日連絡する」

「分かりましたぁ!」


ビシリと手を挙げアルルは答える。終始うるさいが悪い人形ではなさそうだ。シルクもこちらを眺めて小さく頷いている。


「私から言うことは終わりだ。大体一週間を目処に準備しておいてくれ」


テラは本を片付け席を立つと各々の返事を聞き流してすぐに部屋を出た。


さて...一体どうなるか


ロイから神殿の話が出た時は驚いたが魔族と会ったのなら信憑性は高い。何百年も前から生き続けている存在なら本よりも確かな情報を持っているはずだ。


そんな魔族が神殿を開けさせようとしているのなら、カーラシティが関係していると見て間違いないだろう。


だが一つ引っ掛かることがある。何故今なのかが分からない。テラは顎に手をやり思考を張り巡らせる。


何百年と開かなかった神殿が開く。そしてカーラシティ、魔族。どうして魔族が人間の助けを必要としているのか。


神殿は人間の手じゃないと開けない...だがそれならここまで時間をかける必要はなかったはず.........まさか...


テラはピタリと足を止め、窓から差し込む月明かりに目を向けた。


「ノブナガか...?」


序列一 ノブナガ


多大な被害と犠牲を出した最強の魔族。数百年も昔の英雄達がやっとの思いで封印した魔族が蘇る。


その思考に辿り着いた瞬間、テラは身震いした。


「震えてる...この私がか...?」


自身の第七感覚で見た帝国領の襲撃、そして神殿の開放とノブナガの復活。全てが繋がったような気がした。


恐らく魔族としては封印が弱まっているタイミングでノブナガを復活させ、そのまま人間を惨殺していくのが目的なのだろう。


それには神殿の開放が必須だが人間の手でないと開くことは出来ない。だから人間を人質に交渉をしてきた。予想の範疇を超えていないが可能性は高いだろう。


そうなると帝国領に攻め込んでくるタイミングは四部隊が神殿に向かった時になる。


「くそ...」


暢気に光る星と月を睨み、テラは再び研究室へと歩み始めた。

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