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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
55/71

マキvs? 2

”さぁ第2ラウンドが始まったぁぁぁマキ選手が巻き返すのか。それともルナ選手がこのまま勝ち逃げるのかぁ?!!”


一本を取ったルナの声援は依然増すばかりである。完全にアウェーではあるがマキの目は諦めていない。


先ほどまでと同じ構えに左手の短剣が真っ直ぐにルナに向けられている。たったそれだけの変化のはずが途端に攻めづらくなっている。


あの炎...ただの炎じゃないね...


闇を纏っているかのように黒くて不気味な炎。ルナの予想通りマキの魔法は普通のものとは違う。


一般的な炎魔法は赤く、余程の魔力をぶつけなければ相手が燃え上がることはない。そのため火傷でダメージを狙ったり辺りにばら撒いて動きを封じる使い方が多い。


だがマキの炎はまるで意志を持ったかのように相手に絡みつき、鎮火されるまで相手を燃やし尽くすという性質を持っている。


近づくのは危険...


そう考えるのは当然であったがルナは臆することなく突進した。


「...!」


意外な行動にマキは少し驚くがすぐに集中し始める。ルナの脚力は恐ろしく、多方向からの攻撃に気をつけなくてはならない。


考えている内に二人の距離はどんどんと縮まっていく。ルナは刀を脇に構え左肩から入り込んでくる。


<死滅:霊魂の鎌>


大振りの攻撃を先ほど同様伏せて回避し一気に懐へと突進してくる。マキは回避されたことなんて気にも留めずそのまま回転する。


カウンターの短剣が空気中に炎を散らしながらルナを狙う。


「はぁっ...!」


<月光:不和の月>


ルナの刀は地面をえぐりながら斬り上げる。圧倒的な力で振り切ることで硬い石が無数に飛び散り、短剣を持つ手が弾かれた。


茨...!


がら空きの胴体を狙うもやはり茨に阻まれる。そこへ一周してきた鎌が頭上から襲いかかった。


「くっ...!」


思わず後ろに飛び退くルナにマキは追撃する。短剣をそのまま投擲し自身も一緒に突進する。


「...!!」


急接近する短剣を上に斬り弾いた瞬間、刀が音を立てて炎に包まれた。唸るように暴れる炎が顔をかすり、咄嗟に顔を避ける。


<死滅:霊魂の鎌>


その隙を逃すまいと鎌が大きく伸びてくる。


<月光:蒼天の月>


燃えたままの刀を半月を描くように回して鎌を受け止める。黒炎は鎌にも移り辺りは激しく発火した。


<炎魔法:黒炎の斬撃(フレイムブレイド)


マキは咄嗟に鎌を手放し、両手に短剣を生み出しルナの懐に潜り込む。


「やあぁ...!」


リーチの長さは逆転しむしろ刀の方が不利になった。そのためルナも刀を捨て刺突してきた腕を掴んだ。


「く...うぅぅ...!!」

「ぅぅぅ......!!」


両者の力比べはややルナの方が強い。組み合ったままほんの少しずつ押し合い、マキの腕が痺れていく。


だめ...このままじゃ...


きつく締めつけられて段々と指の感覚が弱くなり、遂には短剣が音を立てて消滅した。


「ふふ...マキさん。貴方...まだ本気出してないですよね?」

「...!」


組み合っていた手を振りほどき二人は一気に距離をとった。


「.......そんな......ことないです」


手元から離れた鎌は消え、マキの手元に戻る。ルナも刀を拾い両者は構えもせず会話を始める。


「嘘。私には分かる...まだ遠慮してるでしょ」


人差し指と親指で丸をつくりメガネのようにしてこちらを見てくる。なんでもお見通しとでも言いたそうな笑顔が無邪気で可愛らしい。


「私は本気を出した貴方と戦ってみたい」


言い方は優しいが切っ先はマキの喉を狙っている。その油断ならない態度と確かな実力にマキは小さく微笑んだ。


「本気...出しても...良いんですか...?」

「もちろん」


ルナの言葉を聞き終えた後マキは左手に短剣を作り出した。そして、両手を頭上で合わせ黒炎を鎌に纏わせる。


「はっ...!」


勢い良く手を下ろすと同時に茨が地面を這っていく。


「へぇ...凄いじゃん...」

「...」


茨の使用には膨大な魔力を消費する。それこそ全身を包む量だけで動けなくなるほど消耗してしまう。だが今の茨はフィールドの大半を覆うように張り巡らされている。


これは...魔力が吸われてる...?


ルナは自分の手のひらを眺めて辺りを見渡す。自分だけではない。この会場にいる全員の魔力がマキの元へ集められている。


「そんな第六感覚があるなんて」


マキの目は透明に変わり、左手に持つ短剣の魔力量も段違いに跳ね上がっていた。


観客も自分の魔力を取られていることに気づいているそうで、どよめきが広がっている。


一体どれだけの魔力が取られるのか分からないがあまり時間をかけることは出来ない。ルナは脚に力を込め、跳躍の準備に入る。


「いくよ...」


<月光:不和の...


「...!」


攻撃の動作に入ろうとしたその瞬間、地面にある茨が足に絡みつく。前傾姿勢のまま倒れるルナにマキは容赦ない攻撃を加える。


<月光:黄泉の月>


すんでの所で茨を全て斬り、なんとか鎌を回避することに成功する。が、燃えさかる黒炎は茨にも移り一気に燃え広がっていく。


「おぉ...なんてことじゃ...」

「そんな...」


黒炎の中に平然と立つマキの赤い目を見て、観客の声は恐怖に染まった。ルナも恐怖とまではいかないが笑う余裕がなくなっている。


あの茨...体から離れた分は強度が減ってる...でもあの炎があったら斬っても意味ないか...


なんとか突破口を探そうとするも隙がなさ過ぎて良い案が浮かばない。


「........」


マキは小さく息を吐くと追撃のためにゆらゆらと重心を動かす。炎が視界をちらつかせ、姿を見失いやすくなっている。


黒過ぎて見えにくい...


ルナは刀を振って黒炎を消すともう一度正眼の構えをとった。


<死滅:霊魂の鎌>


炎の中から突き抜けるように鎌が跳んでくる。見慣れた攻撃に同じ動作で伏せ、懐に潜り込んでいく。


「......!」


マキの姿がない。鎌だけを投げていたのだ。


いや、違う...!!


よく見ると鎌の持ち手に茨が巻き付けられている。ルナの頭上を通過した鎌は茨によって引っ張られ地面を這うように背後から迫りくる。


「くっ...!」


すぐさま背面跳びのように跳躍して回避する。長い髪に若干かするもそれ以上のダメージは受けていない。


だが、当たらなかった鎌は広範囲に炎をまき散らし更にフィールドが炎上していく。


「あつ...!」


着地した場所にも火の粉が襲い、ルナの左手は一気に燃えた。すぐさま腕を振るうことで鎮火を試みるがなかなか消えない。


<死滅:暗転の鎌>


その隙にマキは回転しながら突進してくる。もちろん鎌にも注意しなくてはいけないだが跳んでくる火玉も大きく全てが致命傷になりかねない。


消えない...それなら...!


左手から体に燃え移るまでに決着つける方が良い。その発想に至ったルナはむしろ左手で火玉を受けながら突進していく。


<月光:黄泉の月>


鎌が当たる瞬間、軽快なステップでルナは姿を消す。燃えさかる炎を高速で通過することで被害を最小限に抑えつつ、背後左右から一気に仕留めにかかる。


<炎魔法:黒炎の槍撃(フレイムスピア)


完全に背後をとったルナの目には軽く五十を超える魔法が作られていた。


「嘘...!」


放たれた槍はルナの残像を全て消し、本体にも深く突き刺さる。空中にいたルナは仰け反り大きな隙が生まれた。


<死滅:霊魂の鎌>


その体を横に大きく斬り、魔力体は音を立てて四散した。


「ルナ様...」

「嘘...」


”な...なんとぉぉぉ第2ラウンドを制したのはマキ選手だぁぁ!!!”


司会の声が響くものの観客の声は静かで戸惑いを隠せていないようだった。シンと静まりかえり、なんでお前が勝つんだよという視線が痛い。


「ははは!」


そんな空気を払拭するかのようにルナは笑った。燃えていたフィールドの炎は全て消え爽やかな夜風が二人の間を通る。


「強い!凄いよマキさん!」

「え...あ...ありがとうございま...す?」


拳を握り楽しそうにそう言ってくる。マキは少し戸惑いながら答えた。


「魔力消費を補う第六感覚...それにその鎌。ふふっ!こんなに楽しくなるなんて」


両手を目一杯広げて天を仰ぎ、全身で喜びを表現している。


”準備は良いかぁ!泣いても笑ってもこれが最後...第三ラウンド開始だぁぁ!!”


「ルナ様ぁぁ!」

「勝ってくれぇぇ!!」


開始の合図が鳴り、応援の声でまた騒がしくなる。


「マキさんの本気を見たからには私も本気..........出さなきゃね」


空を見上げていたルナはゆっくりと目線を下げて正眼の構えに移る。


「...!」

「何しても無駄だよ...」


ルナの目は透明に変わっていた。第六感覚だ。どんな能力なのかは分からないがマキの背筋に悪寒が走る。


<炎魔法:黒炎の斬撃(フレイムブレイド)


短剣で鎌を燃やし、地面には茨が巡らされていく。そして第六感覚を発動したところで違和感を覚えた。


魔力...吸えてない...!?


観客の魔力は集められるのにルナにはまったく効果がない。明らかにおかしい。


ジリ...


「ひっ...!」


ほんの少しの足の動きにマキは青ざめた。絶対に近づかせてはいけない。本能的に危険を察知したのだ。


<死滅:霊魂の..


振りかぶった鎌が空中でピタリと止まって動かなくなった。


<月光:不和の月>.


パキンッ!


瞬きをする暇もなくマキの体は一刀両断され、魔力体が音を立てて四散する。あまりにも呆気ない終わりにマキは目を見開いたまま崩れ落ちた。


「ありがとう。楽しかったよ」

「..........」


ルナを称える歓声に彩られ、今回の模擬戦は終了した。賑わう会場を他所にマキは自分の手を握ったり開いたりするのを繰り返していた。

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