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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
54/71

マキvs?

「無理じゃないですよ~」


ガタガタと震えているマキの頭をそっと撫で、ノノは笑顔でそう言った。


「うぅぅぅ...」

「よしよーし」


ノノの細身の体に抱きつき更に撫でられを所望している。期待に応えてあげるとマキは幸せと苦悩の狭間みたいな声を出した。


さらりとした黒髪を優しく撫でていると次第にノノの中にいたずら心が芽生えてしまう。


ふふ...


「ひゃっ...!」


髪を撫でる振りをして徐々に指を耳に絡める。裏から焦らすようにゆっくりと、そして耳たぶに触った辺りでマキは顔を上げた。


「ノ...ノノ...」

「........」

「な...なんで黙ってるの...!」


ノノは決して笑顔を崩さず淡々と手を動かす。左手は頬を包み、右手は耳をいじったままだ。


「だ...だめ...ノノ...!」


やられ放題のマキは顔を赤らめているものの抵抗はしない。恥ずかしさ半分嬉しさ半分の目線はノノの一挙手一投足を気にしている。


「ふふ...続きは終わってからです」


人差し指で唇をチョンとつつかれマキの力は抜ける。


「.........っっ!!」


いつものノノのやり口だ。良いところまでいったらその後はご褒美制度に切り替わる。しかもそのご褒美も魅力的でやる気を出させてくれる。


「で...でも...勝てるか...分からない」


不安で不安でたまらない。何故自分が選ばれたのか分からなくて本当に役目が務まるのか考えるだけで震えてしまう。


そんなマキの心境を察してかノノは耳元まで顔を近づけてきた。


「勝たなくても良いんですよ~。マキちゃんの戦う姿が見たいだけですから」


小声でそう言った後、マキの手をとりにっこりと笑ってみせる。


そして返答に困っているマキの人差し指を自分の口に運び、歯で噛む振りをした。


「血...終わったらマキちゃんの血...くださいね...?」

「.....!」


両手で掴まれそんなお願いをされては断れるはずもない。もちろんと答えようとしたその瞬間、部屋の中に聞こえるほど大音量の声が響いた。


”お待ちかねの諸君んんんんんっっっ!!そろそろ選手入場だぁぁぁ!!”


「おや~呼ばれちゃいましたね~」

「わ...あ...」


ノノのことで頭がいっぱいになって忘れていた。緊張が解けているのか分からない。いや、むしろさっきよりもドキドキしている。


「行きますよ~」


半ば強引に入場口へと連れられ、いつの間にか自分以外の準備が整っている状態になってしまった。


「は...はぁぁ...」


”それではぁぁぁぁぁ!!!選手入場ぉぉぉっっ!”


「マキちゃん~行ってらっしゃい」

「はわわ...」


衛兵に取り囲まれ、こちらへと促されるままにマキとノノは引き剥がされてしまう。満面の笑みで送られているのに嬉しくない。


うぅぅ...


”黒炎を纏いし異才の魔女..........マキぃぃぃぃプラウェルっっっっ!!!!”


自分の紹介と共にマキは一歩前に出る。訓練場はQの絵によって無数の席が作られ、コロシアムのような形に変貌していた。


だが、マキの登場と共に歓声は一気にトーンダウンした。明らかに勢いが減ってがっかりとした空気に包まれている。


やっぱり...私じゃ...


冷たい視線やぼそぼそと悪口を言ってそうな素振りにマキの足取りは止まる。


で...でも...


ちらりと背後を振り返るとノノだけはこちらを信じているような穏やかな笑顔を返してくれた。


その笑顔を背に受け、マキの歩みは強くなっていく。例え誰が敵になろうと関係ない。ノノさえいればそれでいい。


ノノに...カッコイイ所見せたい...


フィールドの中央に立つマキは姿勢こそおどおどとしているが目はしっかりと相手の出場口を見ていた。


”対するはぁぁぁ!月光を纏いて全てを照らす..........ウタワノぉぉぉぉルナぁぁぁっっ!!!”


紹介の名が出た途端会場は大いに盛り上がった。至る所から拍手、口笛、ルナ様と崇める声が聞こえてくる。


登場したルナは片手を高らかと上げて皆に手を振っている。その堂々たる歩みと一瞬にして会場の空気を掌握する人気さにマキは一気に不利になった。


「あわわ...」

「初めましてマキさん。今日はよろしくね」


爽やかな挨拶にマキは震えることしか出来ない。最早自分なんて必要ないほどの盛り上がりを見せている。やっぱり出なければ良かったと後悔してももう遅い。


”それじゃあルール説明と言いたい所だが...説明不要なほど簡単だ。このフィールド内にいる限り、実際に死ぬことは出来ない。つうことで手加減無用だぁ!”


マキとルナを覆うように広大な光が展開されていく。


「お~凄い...」


互いの体はうっすらと発光し霊体のような見た目になった。


”判定は魔力体が四散したら一本。三本勝負で先に二本とった方の勝利だぁぁ”


「なんかちょっと緊張しちゃうね」

「ひ...!は...はい。そう...ですね」


歓声も司会の声も遠くに聞こえる。二人だけの空間、相手の言葉も動きにも油断出来ない。


ル...ルナさんが相手だなんて...


初対面でもお互いにどんな人物なのかは聞いたことがある。マキは魔女と呼ばれ市民から距離を置かれている。


一方でルナは異なる世界からやって来た人物として最初は怪訝な表情で見られていたものの確かな実力と市民に寄り添う行動から徐々に人気を獲得していった。


「あくまでイベントって言われてたけど...負けるのは嫌だから全力で行くね」


ルナは腰に携えていた刀を抜いていく。揺れ動く長い髪も綺麗で和服がよく似合っている。それでいて刀は黒い刃に月の模様が描かれており、美麗な印象を与えてくる。


「う...うぅ...落ち着け私...落ち着け私...」


ぶつぶつと小さな声で集中モードに入る。手首に巻かれた赤いブレスレットに手を添え、しばらくすると完全に黙り込んで動かなくなった。


「......行きます」


勢いよく腕を振るうとブレスレットから武器が生成されていく。


「へぇ...」


武器を構えたマキの雰囲気は先ほどとはまるで違っていた。冷たい目線はまさに魔女というに相応しい。


特に歪な形をした巨大な大鎌、これが彼女の特徴でもあり恐れられる要因でもある。持ち手は赤い茨が巻き付いており痛々しい見た目をしている。


武器を抜いた二人を見て段々と会場は静かになっていく。


”準備は良いかぁ...レディィィィ...ゴォォ!!!!!”


開始の合図と共にどこからか鐘のような音が鳴り響いた。


ルナは下ろしていた腕を上げて正眼の構えに移行する。右足を前に左足を後ろにしてかかとを少し浮かせる。


ゆったりと力を抜き剣先はマキの喉元を捉える。


対してマキは武器を背中に回し自身の体で見えにくいようにしている。ロイもそうだが特殊な形状の武器を使う者は体で隠し間合いを測られないようにする傾向がある。


剣や拳と違って接近される前に一太刀浴びせなければその時点で不利になるからだ。マキの使う鎌は見た目通り横に伸びた刃が脅威ではあるものの接近されると対抗手段がなくなってしまう。


その点ルナの刀はリーチこそ短いが接近さえしてしまえば自分のペースに持って行ける。


故に勝負は一瞬の間合いが命取りになる。


緊張は映像を見ている街の人々にも伝わっていた。徐々に距離を詰めていくルナを前にマキは一歩も引かない。


あと少し...


あと一歩を踏み出せばマキの間合いに入る。お互いにそのことは分かっていた。


ジャリ...


今...!


<死滅:霊魂の鎌>


大きく右足を出し目一杯持ち手の端を持って振るう。自分の身長の二、三倍に到達する攻撃範囲に会場はどよめく。


「......ふふ」


重低音で空気を切り裂いてくる鎌を前にルナは笑った。それと同時に助走もなしに前方に大きく跳躍する。


体勢は天地逆になり、まるで体操選手のように体を捻って横に回転する。その状態でも姿勢はピンと伸ばされ優美さがある。


「はっ...!」


<月光:不和の月>


そのままの勢いでマキの首元を狙う。大振りの攻撃を外したマキは隙だらけになり次の動作に移行しても間に合わないのは目に見えていた。


「...!!」

「おい...あれ!」

「ま...魔女の呪いか...」


首まで伸びていた刃は予想だにしない方法で止められた。


「茨...」


鎌の持ち手に巻き付いていた赤色の茨が瞬時にして伸び、マキの体を守ったのだ。ルナは空中で体を回転させマキの体を踏み台にして再び跳躍する。


「逃がさない!」


距離を取ろうとしたルナはマキにとって恰好の的だった。


<死滅:暗転の鎌>


攻撃を止めずに鎌を振りきり、そのまま回転してルナを追尾する。コマのように連続で回ることで勢いを増し遠心力を活かした攻撃を叩きこむ。


「く...!!」

「あぁぁ...!!」

「ルナ様...?!」


なんとか防御出来たが空中では踏ん張りがきかずルナは遠方に吹き飛ばされてしまう。壁に思い切り叩きつけられ観客は軽く悲鳴を上げる。


「いてて~凄いなぁ...」


舞い上がる粉じんから現れたルナはケロッとしておりまるでダメージを受けていなかった。その代わり壁には無数の傷があり、斬撃で衝突を和らげたように見える。


「ルナ様ぁ頑張ってぇ!」

「あんな魔女やっつけてくれよっ!」


声援に手を振ってマキの元へと歩み寄っていく。やはりどれだけ有利をとっても会場の空気を変えるのは難しい。


うーん...あの茨...どうしよう


余裕そうな表情だがまた距離を詰めるところから始めなくてはいけなくなった。ルナの目線はマキの体に纏わりついている茨、鎌、そして目に移る。


...!


そしてあることに気がつく。マキの呼吸が少しだけ荒い。そんなに激しい動きはしていいないとなると考えられる原因は一つ。


あの茨...もしかして相当魔力を消費する...?


近づけば鎌、攻撃しても茨に防がれその隙に反撃される。普通なら厄介この上ないがルナは楽しそうに笑った。


「よし...いくよっ!」

「...!」


<死滅:霊魂の鎌>


今度はルナから仕掛ける。当然マキの鎌が先手を打ってくるが瞬時に伏せ、地面すれすれを縫うように突進する。


懐に入った瞬間に茨で攻撃箇所を防ぎ始める。だが、ルナの姿は一呼吸を置いた後に煙のように消えた。


「え...?!」


<月光:黄泉の月>


マキの第六感覚で捉えたルナの姿は後ろ、上、左右に数多く。あまりにも早い足さばきで分身しているかのように見え、観客は驚きの声を上げた。


的確に死角を突く攻撃にマキは全身を茨で包んで防御した。直接的なダメージはゼロだが状況はルナに傾きつつある。


「けほっ...」


茨を長時間維持するのは困難なようですぐに防御態勢は解除される。むき出しの本体にルナは再び攻撃を開始する。


すぐに反撃に移らなければいけないのだが茨を使った反動で体が思うように動かない。


<月光:不和の月>


「まずは一本目」

「くぅ...!」


刀は正確にマキの首を捉え、魔力体は音を立てて四散した。


”まずはルナ選手が一本を獲得ぅぅっっっっ!!!”


「ルナ様ぁぁぁ!」

「いいぞぉぉ!」


ぺたりと座り込むマキの周りにはルナを賞賛する声で溢れていた。それだけ彼女が人気なのは分かる。そして強いことも。


情けない...私は...


項垂れながら立ち上がったマキは天を仰いだ。綺麗な夜空、そして月。歓声も観客も全部が自分の真逆の位置にある。


だからなんだ。そんなの生まれた時から変わらない。呪われた茨を身に受けたときから自分の味方はノノだけなのだ。


「ごめんなさいルナさん...手加減しちゃって......」


<炎魔法:黒炎の斬撃(フレイムブレイド)


黒く揺れ動く炎が剣の形になりマキの左手に収まる。右手に大鎌、左手に短剣。これで大鎌の隙はなくなった。


「それは...ちょっと厄介だね...」


第2ラウンドの鐘は二人には聞こえていない。近づくだけで熱を感じる黒炎を前にしてもルナは笑っていた。

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