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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
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妖艶の凜々

北区は歌姫のライブによっていつもよりも人が増えている。溢れかえる人だかりで隙間を縫うように歩かなければならない。


「あれ?ユキ...とリンネさんとエリーさんもいる」


Qが召喚した人型の精霊と警備をしていたユウキは、不意に女子三人組を見つけた。


人が多くてはっきりとは見えなかったが、ユキは両側から拘束されているようだった。


エリーに関しては小さすぎて引っ付いている感じであったがユキは何も抵抗せずに連れて行かれていた。


仲が悪い感じでもないしユキなら腕力で飛ばせる。


異常なし...と


三人の姿を見送りユウキは再び仕事へと戻る。


警備をしている間は少しも気が抜けない。精霊達は話すことは出来ないものの身振り手振りで思いを伝えてくれる。


人混みの中には怪しい人物は見当たらないようで、迷子もいないらしい。


「分かった。ありがとう」


お礼を言うと精霊達も笑顔になりまた見回りに戻っていく。


軽快に空を漂い、鳥のような形のものもいる。子供達とじゃれ合いながら危険がないか監視している個体もいる。


ピピピピ


「ぅわ......!はい、テラさんどうしましたか?」

”周囲に怪しいやつはいないか?”

「問題ないです」


通信に応じながら脇道へとそっと移動する。


”そうか。ところでユキは見つかったか?”

「え~...」


ひそひそと小声で話していたユウキは言葉を濁らせた。そろそろユキと見張りを交代する時間なのだが当の本人は連れて行かれてしまった。


知ってはいるが忙しそうな感じであった。


かと言ってこのまま代わりがいないとぶっ続けで仕事をやらされる可能性が高い。


”いないのか?”

「...........はい」

「さっきから通信が繋がらん。お前もか」

「繋がりませんね」

”あいつはサボるような奴じゃないからな...誰かに捕まったか...。まぁ良い他の奴を呼ぶからそいつと交代してくれ”

「分かりました」


通信を切り、ほっと息を吐いた。とにかく長時間の仕事にならなくて良かった。


テラなら死ぬまで働けと平気で言いそうだ。


ピ...ピピ


機器に送られてきた情報によると代わりの人は南区から来るそうだ。リアルタイムで現在地が見えるが一向に広場から動く気配がない。


衛兵、及び軍兵なら転送装置のお陰ですぐにこちらに来ると思われる。


十秒、二十秒と経ちようやく点が移動し始めると全く違う方向に進んでいった。


これは...迷ってる...?


転送装置とは真逆に進んだかと思えば裏道に入り、右に左に滅茶苦茶に移動している。


「......」


見かねたユウキは空中を浮遊していた精霊を手招きで呼ぶ。四足歩行のスラリとした脚にウサギのような耳がついた可愛くてカッコイイ見た目をしている。


その上羽までついて神秘的と表現するに相応しい。


近づいて来た精霊は丸っとした目でこちらを見つめ首を傾げる。


「南区にいるこの人を迎えに行ってもらいたいんだけど...出来る?」


精霊は機器に顔を近づけ鼻をスンと鳴らした。しばらくすると空を見上げ羽をゆっくりと動かし始める。


そのまま空中に浮かび上がり、南区の方向に飛んでいった。


「大丈夫...かな?」


風船のように軽やかに駆けていく姿を見送り、ユウキはライブ会場へと歩み始めた。


「きゃ~~~!!!マヲ様ぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


会場に入れず映像を見るしかない人でもこれだけ白熱した声を上げている。


”精霊の歌姫”と呼ばれる彼女にはそれだけ魅力があるのだ。


この大陸において唯一の精霊種であり、誰もが魅了される歌声の持ち主でもある。


精霊と言うとQが描いたものが思いつくがあれはあくまでも絵である。


現存する本物の精霊はマヲ以外には確認されていない。


精霊の特徴として不眠不休での活動が可能となっており、生命を維持する力は自然のエネルギーだけとなっている。


そのため祭りが始まってから夜の部に入るまでの約四時間、ずっと歌い続けることだって出来るのだ。


最初は西区から始まり次に北区。それもあと二十分ほどで終わると東区に移って最後は南区で終わる。


凄いなぁ...


キャーキャーと声を上げ続ける体力なんてない。この人達が軍に入った方が強いんじゃないかと思うほど力が溢れている。


マヲの歌はゆっくりと悲しい歌から激しく楽しい歌までそつなくこなし、今は楽器の音だけで会場を虜にしている。


歌のない全く新しいスタイルに最初は戸惑いもしたが今は全員がノっている。


「本当に凄.......ん?」


ユウキも聞き入り足を止めた時、機器に反応があった。上空からこちらに迫り来る高速の物体。


淡く緑色に光るそれはユウキの真上に到達すると急降下を始め、目に見えて加速し続けている。


「ちょ...」


そのままぶつかってきそうな勢いに咄嗟にユウキは目を細める。


「や~こんにちはアル~ユウキ君は君アルか~?」


淡い緑色の正体は交代の人を探しに行った精霊、そして陽気に話しかけてきた彼女が代わりの人なのだろう。


黒い髪は丸くまとめられ全体的に短くすっきりとしている。子供のような無邪気さなのに不意に見せる表情はどこか妖美だ。


「初めまして三軍所属のユウキです」

「ワタシは四軍所属の凜々(りんりん)アルよ~」


やや言葉の強弱が激しい。ルンルンと上がる語尾に違和感を覚えるも悪い人でないのは確かだ。


その証拠に精霊はもう懐いており、凜々の足下を回っている。


「や~この子可愛いアルな~。よしよし~」


キュルルと小さく鳴く精霊を撫で回し、精霊も目を細めて気持ちよさそうにしている。


「.......?」



精霊を抱きかかえた凜々は立ち上がった勢いのまま顔を近づけてきた。


「え...え!?」


拳一つ分まで近づいて来た凜々が首を傾げると金色の髪飾りが揺れた。今まで見たことのない異様な雰囲気にユウキは一歩後退る。


「ん~?どうしたアルか~?」


凜々の黒と灰色混じりの目が透明に変わると引き寄せられるように目が離せなくなる。


威圧によって釘付けにされるものでも、驚きで引きつけられるものとも違う。


綺麗な花を見ているような感覚が一番近い。美しいものに心を奪われ目が離せない、そんな状態である。


そんなユウキの心を見透かしたかのように凜々はいたずらに笑った。


「や~効きにくいアルね~面白いアル」

「......?」


透明な目が戻ると不思議と違和感も消えた。


「今のは...第六感覚ですか?」

「そうアルよ~。因みに効果は人を魅了させることアル」

「魅了...?」


親指と人差し指で丸を作り右目だけがまた透明に変わる。メガネのようにして覗いてくるその仕草にユウキは咄嗟に目線を逸らした。


「でもおかしいアルね~魅了が効かないってことは...精神力があるか...」


思いっきり顔を近づけ、ニヤニヤと楽しそうに笑いかけてくる。背丈は同じくらいのはずなのにやけに下から覗き込んでくるのも困る。


後退りするユウキに追い打ちをかけるように凜々は言葉を続けた。


「それとも~好きな子でもいるアルか~?」

「......?!」


予想だにしない言葉にユウキの目は点になる。対象的に凜々は楽しそうに笑っている。


「いない...ですよ...?」

「ふーん、そうアルか~じゃあ今度リンネに聞いてみるアル」

「リンネさんも使えるんですか?」

「そうアルね~」

「どんな感じですか?」


なんとか話を逸らそうとユウキは次々と質問を続ける。


「リンネの第六感覚は人の感情が分かるというものアルよ」

「感情が...」

「そうアルよ~だからあの子の前では嘘はつけないアルよ」

「恐ろしい...」


苦笑しているユウキに反して凜々は得意げに笑った。


ユキやロイのものとはまたひと味違う能力に第六感覚の奥深さを感じずにはいられない。


そもそも相手に干渉出来るものがあるのにも驚きを隠せない。


極端な話相手の動きを止めたり操ったりすることも理論上は可能ということなのだ。


それだけでも恐ろしい能力なのに更に上がある。まだまだ出来ることは多いなと痛感するしかない。


ピピピピ


「....はいはい、どうしたアルか」


顔を近づけてきていた凜々の機器が鳴り、残念そうに離れて応答した。


距離感が近くて困っていたユウキはホッと安堵し通信が終わるのを待った。


「や〜待っててくれたアルか」

「はい。僕の方にも気になることがあって...」

「気づいてたアルね~?」


凜々は少し驚いたように口を開けた後目を細めてこちらに顔を近づけてきた。


「じゃあ君にも手伝ってもらうアル。ならず者達が集まって何か企んでるそうアルね」

「それを僕達で調査するってことですね」

「そうアル」


ユウキの目は反応のある裏通りの方へ向いた。釣られて凜々の視線も動く。


「あそこアルか?」

「多分...さっきから変な反応が集まってるんですよね」


音の感じから数は七、八とだんだん増えていっている。少し離れてはいるものの怪しいことに変わりはない。


「もしかしたら歌姫が危ないかもしれないアル。早めに行くアルよ~」

「は、はい!」


絶え間なく笑う人々の間をすり抜け二人は反応のある方向へと走りだした。

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