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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
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帝国祭の始まり

<帝国祭 当日>


子供たちは朝からそわそわと待ちきれない様子だった。広場を飾る装飾とQによって生み出された色鮮やかな絵が街を普段とは違う姿に変えていた。


楽しみにしていたのは子供だけではない。大人にとっても帝国祭は特別な行事なのだ。死者を弔い次に繋げる。


いつまでも暗い表情では子供にも示しがつかない。


様々な思いが渦巻き街中が一丸となって祭りを成功させようとしている。


昼を過ぎて少し経った頃、帝国領の空を覆いつくすほどの花火が打ち上げられた。


赤、青、緑。弾けて無数の粒子が散るものもあれば、鮮明なバラの形をとったものもある。たくさんの動物や神秘を目の当たりにし至る所から歓声が上がった。


「さぁさぁ、エルの果実で作ったスイーツはいかが~」

「わ~美味しそう~」

「辛いもの好きな方~激辛料理取り揃えてますよ~」

「おぉ~美味しそうアルね~」

「暑い日には最高のアイス、アイスですよ~」

「なにこれ、初めて見るアイスだ!」


花火が上がると同時に人々の活気はまた盛り上がる。新商品、クリアすれば景品など日頃の成果を生かしたアイディアが溢れ、楽しみは尽きなさそうだ。


子供が笑えば大人も笑い、大人も笑えば街も変わる。


避難民も衛兵も身分などを気にせず酒を酌み交わして歌っている。


肉を焼く音。タレをかけることで油が飛び、匂いが辺りに広がる。釣られるように人々は群がり、更に酒が進んでいく。


子供達も動物型のクッキーやわたあめを買い、Qの生み出した精霊と戯れている。


広場の他にも露店が並び、行き交う人で道は埋まっていた。普段は街の離れに住んでいる人も集まる中、フードを深く被ったマリーが間を縫う様に歩いていた。


「楽しそうじゃのう」


赤いマントで全身を覆い隠し、ちょこちょこと小さな歩幅で店舗を回っていく。


「お、お嬢ちゃん。お忍びで来たのかい?」

「まぁそんな感じじゃ」

「一つ食べてくかい?」

「何を作っているのじゃ?」

「カキ氷っていうやつでな。アイスに変わる新しいスイーツさ」


そう言った店主はカタカタと氷を崩し粉状に加工していく。カップに積もっていく氷をマリーはジッと見つめる。


「味はどうする?」

「む、味...そうじゃのう」


張り紙に書かれているのは、メロン、イチゴ、レモン、エルの果実の四種類である。


「イチゴにするのじゃ」

「あいよ」


ガラスの瓶に入れられた赤いシロップをかけると涼しげなカキ氷が出来上がる。


「ありがとうのう」

「おう、楽しんでな~」


カキ氷の人気は凄まじく、マリーが屋台から離れた途端子供達がぞろぞろと集まっていった。


「冷たくて美味しいのう」


アイスとはまた違った食感である。ただの氷だったものが柔らかくなり、イチゴの風味まで兼ね備えている。


「ママ~次あれ食べたい~」

「食べ過ぎないようにしないとダメよ」

「は~い」


「ここまで来るのに苦労しただろう?」

「いやいや、Qさんのお陰ですんなりと来られましたよ」

「あ~流石だなあの方は」


祭りをすると聞いた時は正気を疑ったが、この笑顔を見るとあながち間違いではないのかも知れない。


む...あやつらは...


「ねぇねぇカスミちゃん~次何食べようか~」

「食べるのも良いが見回りにも集中するんだぞ」

「分かってるよ~」


チョコバナナを食べるエリーのお世話をしながらカスミは周囲に気を配っている。


いくら気配を消しているとはいえ近づくとバレる可能性が高い。


裏道から行くかのう...



「ん...?」

「どうしたのカスミちゃん~?」

「いや...気のせいか...」



気づきかけておったのう...危なかったのじゃ


大通りとは違い道は暗く、入り組んでいた。カキ氷を食べながら適当に散策していくものの全く出口が見えない。


右へ左へ、灯りのない道を歩き続ける。


時には行き止まりで道を引き返さなければならなくなったりもした。




面倒じゃから屋根伝いに行こうかの...


「おい、そこの嬢ちゃん」

「ん?なんじゃ」


細い幅を塞ぐように大男と小柄な男がマリーの後ろに立っていた。


「その身なり貴族だろう」


男達の格好や態度は荒く、ならず者と呼ぶに相応しい。


声を掛けられてからほんの数秒、新たな男が数名マリーを挟むように現れた。


「まぁ、一応そんな肩書きもあったかのう」


取り囲まれたマリーはそんなことも気にせずカキ氷を食べ続ける。


「俺達はお嬢ちゃんに用があってよ。聞いてくれるかい」

「よいぞ。何でも妾に言うがよい」


取り囲んだならず者達は互いに顔を見合わせ目線で合図を送る。


「へぇそうかい、じゃあ...遠慮なく!!!」


正面、背後から同時に迫る男達の手には魔道具が握られていた。


普通はイノシシやオオカミへの対策として使われる護身用の道具である。


強力な電撃を与え相手を退けることを目的に作られたが、男たちが使っているものは明らかに出力が違う。


棒の先端がマリーに触れるとバチンという音と共に一瞬だけ光が走った。


「所で聞きたいことは何なのじゃ?」

「なっ...!」


電撃を食らわせた手ごたえはあるはずなのに、目の前にいる少女は何事もなかったかのようにカキ氷を食べている。


「妾を誘拐して上の者達を脅すつもりじゃったのか?」

「ぐ...く...」


フードの奥深くで光る赤い目にならず者達の動きは止まる。少しでも動けば首が飛ぶ、そんな気迫に圧倒されていた。


「お主らもこんなことをせずに祭りを楽しんだらどうじゃ」

「......」


しばらくの沈黙。カキ氷を食べる音が小さく聞こえるだけでならず者たちは冷や汗を流していた。


やがて立ち止まったままのならず者たちは魔道具を落とし、だらりと腕を下ろす。


「は...祭りを楽しめだ...?」

「ふざけやがって...てめぇみたいな貴族の生まれには理解できてねぇみたいだな!!」

「なにがじゃ...?」


戦う意思はないが反抗的な目をこちらに向けている。


「楽しんでる奴は元々帝国領にいた奴らばかりだろうが」

「俺らのように親のいない子供が笑っているのを見たことあるか?」

「ふむ...なるほどのう」


確かに帝国軍領の市民に被害はない。死亡者のほとんどが領外にいる村人や衛兵である。


なにも知らない子供達からすると、いつもの日常に突然祭りというお楽しみが出てきただけなのだ。


何の邪念もない笑顔もそのためだ。


ただ大人たちが悟られないように笑顔を作り、この祭りで士気を高めようとしている。


だが、そんなことは普段の光景をしらないマリーでもすぐに分かっていた。


「じゃから貴族を脅し、民の意見を聞けと言うつもりじゃな」

「そうだ。親を亡くした子がいる前で家族仲良くなんて見せつけるんじゃねぇ」

「................」

「..............」


力強く言い終えたならず者達は黙り、マリーも言葉を発さなかった。


自分がやったわけではないが同じ魔族として、これほどまでに問題を生じさせていることに憤りを感じた。


ならず者達の言うことも理解できるが人間同士で争っても解決するわけではない。


所詮自分たちの行いを正当化したいだけなのだ。


空を見上げるマリーにならず者たちは首を傾げる。


ピピ...ピピュ


「....?」

「なんだこの音は」


”皆~~盛り上がっていこう~~~~!!”

”おぉぉぉぉぉ”


屋根と屋根の間から見える空に映し出された映像。そしてどこからともなく奏でられる音楽に市民の声も乗っていく。


「お、おいこの声って」

「なんだよ」

「知らないのか。歌姫だよ。”精霊の歌姫”マヲ・クランタイムズを知らないのかっ!!」


屈強な体をしているならず者たちの中で比較的小さな男は熱が入ったように話し始める。


「公演のチケットを取るだけでも大変な上に開催数も少ない。あの歌姫が...!!」

「お...おぉ...」

「高音を使いこなし、歌詞も明るさと悲しさを含んだ超良い感じなんですよ!!」

「ちょ...落ち着けって」

「すみません、自分は行きます。後で怒られても構いませんからあぁぁ」

「おい!待てって!!」


走り出した小柄のならず者を追い、残されたのはたったの二名になった。


「お主たちも聞きに行かなくてよいのか?」

「ぬぅ...........」


再びカキ氷を食べ男達の表情を窺う。


大勢で取り囲んでも無理な相手を二人で抑えられるはずもなく。


「くそ...ずらかるぞ」

「お、おう」


走り去る背を眺め最後の一口を平らげる。


「大変美味じゃったのう」


コップとスプーンを握りしめ、跡形もなく燃やし尽くす。


「さて、そろそろ動くかの」


一飛びで屋根に乗り、帝国領を眺める。


街の壁、屋根、空中にさえも映像が映り出され、綺麗な歌姫と歌声が市民を魅了していた。


更に辺りを見渡すと空一面に張り巡らされた巨大な障壁が目に飛び込む。


魔物や魔族を領内に入れない強固な障壁。


六年前から絶えず張られているこの壁のお陰で帝国領内だけは魔物からの脅威に晒されずにいる。


じゃが...まぁ...妾レベルだと意味はないがの


考え込み、帝国領内を見渡す。


活気あふれる街並み、風船、花、一面に咲く絵の数々。


「目的を果たしに行くかのう」


目まぐるしく動く街並みにマリーは溶け込むように消えた。

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