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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第一章 エルの森編
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光と闇

 ユウキが今いる場所は帝国軍領と呼ばれる大陸で唯一の都市である。人口は約1000万。

 中央に巨大な城がそびえ立ち、その周りに居住区、農村、果樹園、訓練地が含まれている。

 地図を見て分かるが広大で徒歩だと時間がかかる。

 そのため、ある程度の距離は魔法の力で繋がれており、たった数秒で拠点を移動できる転移門というものがある。


(多分こっちだと思うけど......)


 転移した先は、大きな噴水が目立つ広場。

 普段は子供の楽しそうな声が絶えず、店も活気で溢れている。

 今日はもう店も閉じられ、人は少ない。

 老人の散歩くらいしかすれ違う人がいないのが心細く、逃げるように地図へと視線を移す。

 あとほんの少し歩けば目的の場所へ着くだろう。


ドンッ


「痛ってぇな、どこ見てんだ!」

「あっすみません!」


 突然の衝撃に少しよろめくものの、すぐに頭を下げると男は怒りながら向こうへと歩いていった。


(気をつけなきゃ......)


 申し訳ない気持ちでいっぱいになったその瞬間。


チカチカ


 右目に付けた機器に反応が現れた。バッと男の方を振り返ると少し駆け足で去っている。

 一刻も早くここから離れたい、そんな心情をひしひしと感じた。

 ズームすると金貨を入れていた袋がちらりと見えた。

 ユウキは焦って自分のポケットを確認するとあるはずの袋がなくなっていた。


「待って!」


 その声に反応して男は走り出す。

 こちらを確認することもなく、全力で路地裏へと向かって逃げていった。

 男を追い、ユウキも建物の裏へと進んでいく。

 表通りとは異なり光は最小限しかない。


(くっ......)


 その上同じような壁と幾重にも分かれた道。

 バタバタと鳴る自分の足音も相まって、一瞬にして男は姿を晦ました。


チカチカ


 右から音の反応。

 ユウキの右目に付けられた機器は正確に男の痕跡を掴んでいた。

 三方向に分かれ、うねうねと曲がった道、光のない裏道をユウキは走った。

 光がなくても見えるし、男の足音が見える。

 距離はそれほど離れてはいない。


チカッ


(痕跡が......ここで終わってる......)


 必死に追い続け、気がつくとユウキは開けた場所に出ていた。

 汚らしいガラクタばかりが積まれ、辛うじて消えかけのランプが辺りを照らしている。

 匂いも酷く、鼻を摘まみたくなるほどだ。


「ここまで追ってくるなんてなぁ」

「おいおい追いつかれたのかよ。だっせぇなぁ」


 屋根上、暗闇からわらわらと人が出てきた。

 顔を布で隠していたり、スキンヘッドと入れ墨、ボロボロの鎧。

 見ただけでヤバい集団だということが分かる。


”人数12、前方8人、後方4人”


(囲まれた......)


 どうやらスリの犯人はグループだったようだ。

 人数差もあり、ならず者達は余裕の笑みを見せている。


「お前、金目の物全部渡せば半殺しで済ませてやるよ」

「やっさしぃ」


 ギャハハハとならず者達は笑っている。

 品性の欠片もない喋り方と笑い方に嫌気が差す。


「おいおいこいつ黙っちゃってるぜ」

「大丈夫かい僕ちゃん」


(はぁ......どうしよう......)


 黙っているユウキにまたもや広場は笑いに包まれる。

 何がおかしいのか分からないがこちらの気分は最悪だ。


「おいさっさと金目の物寄こせって...!」


”後方”


 ならず者の一人がユウキの肩を掴んだ瞬間、ユウキは体を沈ませ、勢いそのままに男を前方へ投げ飛ばした。


「ぐえっ......!」


 地面を打ち付けた鈍い音と情けない声を上げた仲間に、先ほどまでの笑いがピタリと止まった。

 ユウキに視線が注がれる。しばらくするとナイフを抜く音や武器を構える音が聞こえ始める。


「痛ってぇなぁ......」

「あーあ」

「こりゃあ半殺しじゃ済まないなぁ」


 指をポキポキと鳴らし、彼らはやる気満々の様子だ。

 ユウキの背丈はそれほど大きくもなく筋肉もあるように見えない。

 それが余計に彼らの余裕に繋がった。


(多い......)


 ジリジリと詰め寄ってくる人数を再確認し、腰に着けられたボウガンに手を伸ばす。

 ユウキの武器は近距離の戦闘に向いていない。

 そのため近づかれると分が悪い。


”前方9人、後方3人”


(後方の敵をどかして街へ抜ければ......)


「さっきからぶつぶつ何言ってやがる!」


”後方”


 ユウキは振り返り素早くボウガンを構える。


<幽玄:氷命の矢>


 放たれた矢はならず者の目の前で爆散し冷気をまき散らす。


「あぁ!? んだよこれっっ!!」


 一瞬で手と足が凍り付き、武器が地面に転がる。


「てめぇ何しやがった!!」


 同時に三人の輩がユウキへと突進した。


<幽玄:閃光の矢>


 ユウキは空に向けて矢を放つ。

 放たれた瞬間に爆発し広場は眩い光で満たされた。


「ぐあぁぁ!!」


 その場にいる全員が目を抑え、悲鳴を上げる。


(今だ!)


 ユウキは来た道へ全力で走り出した。

 幸い道を阻む者は一人しかいない。

 目を抑えている者を突き飛ばし路地裏を颯爽と駆けていった。


「ぐっ! おい待て!!」


 先ほどまで通って来た道に印が付けられている。

 センサーの指示通り、右へ左へ道を決めていく。


「逃がすな!!」


 夕日も落ち、暗闇の中でも追っ手はこちらへ向かってくる。


「あいつ、迷わずに進んでやがるのか?!」


 この道をよく利用するならず者達ならいざ知らず、ただの一般人が道を間違えていないことにならず者達は驚いていた。

 そんなことはつゆ知らず、ユウキはノンストップで走り抜けていく。

 入り組んで先の見えない暗闇を必死で駆け、気づけば目の前に通りの光が見えた。


「待ちやがれ!!」


 あとほんの数メートルで表通りへと出る。

 もう追い付かないほど後方に位置するならず者は、威勢よく声を上げるだけだった。


「くそが......!!!」


 最後の諦めからならず者はナイフを取りだし、狙いも定めず投げ飛ばした。


「あ......っ!」


 幸か不幸かそのナイフは綺麗に直進し、十分な速度を保ったままユウキの足に突き刺さった。


「おら、てめぇ!」


 倒れ込んだユウキを取り囲み3、4人の拳がユウキを襲う。


「がはっ...」


 両手を抑えられて顔を殴られる。

 腹を踏みつけられユウキは苦痛に満ちた声を漏らした。

 ボウガンも弾き飛ばされユウキは抵抗できずにいた。

 突然始まる路上での騒ぎを住民たちは窓からそっと覗いている。

 ただの好奇心、物珍しさ、見てはいるが助けるまではしない。

 容赦なく殴られ地面は血で染まっていた。


「へっ...…さっきまでの元気はもうねぇのかよ」

「あーあ、いじめ過ぎだよ」

「これくらいしねぇと舐められるからな」


 ぐったりと顔を伏せているユウキの胸ぐらを掴み、無理やり顔を上げた。


「女みてぇな弱々しい見た目しやがって」


 ならず者の一人が拳を振りかぶった瞬間。


「そこで何をしている!」


 はっきりとした声が響き渡った。

 カツカツと細い音が鳴り、街灯に照らされたのは一人の女性であった。

 赤く燃えるような髪を後ろで束ね、薄く赤い目が威圧的にこちらを見ている。


「なんだこの女」


 突然現れた女性に注目が向き、胸ぐらを掴んでいた手が少しだけ緩んだ。

 その機会を逃さず、ユウキはならず者に向かって頭突きを食らわせた。 

 威力としては弱いが不意を突かれたならず者は呆気なく倒れ込んだ。


「が......てめぇ!」


 そこまでは良かったが、他のならず者達の手によってユウキはすぐに地面に組み伏せられる。

 顔を地面に叩き付けられ、腕も圧迫されて痛む。

 一人でも抵抗出来ないのに、複数人に抑えられ、身動き一つ出来なかった。


「何見てんださっさと向こうに行け!」

「いやいや、そういう訳にもいかないだろう」


 女性はならず者の忠告も聞かずに近づいてくる。


「おい!これが見えねえのか」


 ならず者のナイフがユウキの顔に当てられる。

 冷たく、切られてもいないのにほのかに痛む。

 が、それでも女性は歩みを止めない。


「こ......この!!」


<栄光:獅子王>


 ほとんど無音でナイフは弾き飛ばされた。

 納刀したままの剣が目の前を横切り、次いで男も建物の壁に叩き付けられる。


「ぐはっ......!!」

「は......? 何が.起こっ.....ぶえっ!」


 次いでユウキを押さえていたもう一人も地面を転がった。

 ほんの一瞬、目で追うことも出来なかった。


「大丈夫か?」


 白の鎧に赤く燃えるマント、生粋の騎士。

 ユウキの頭にそんな言葉がよぎった。

 それほど美しく、華麗な剣技であった。

 剣を鞘に収めたまま攻撃したのに男達は動けないほどのダメージを負っている。


「に......逃げるぞ!」


 圧倒的な力を前にして残党は逃げの態勢に入っていた。


「ひひ......逃がさないよぉ」


<混沌魔法:陰影の束縛(シャドウバインド)


「なんだこれ!? 動けねぇ!」

「ぐあ!! .ああああ!!」



 突如地面に黒い物体が現れ男達は拘束される。

 濁ったようなドス黒い手が男達の足を掴み、ボキボキと骨が折れる音が聞こえ悲痛な叫びが木霊した。


「エリー、やり過ぎだ」

「えぇ~これくらいしないと反省しないって~」


 黒くなった地面から一人の少女が現れた。

 一言で言えば闇。フードを深く被り顔は黒いモヤで見えない

 。手も足もダボダボのコートで隠れている。


「まったく......」


 女騎士はやれやれといった表情をしていた。


「あの、ありがとうございました」

「ただ仕事をしただけだ、それよりも無事で良かった」

「私たちがいなかったらヤバかったよね~」


 ハキハキと通る声で答える女騎士。

 それとは対照的に不気味な雰囲気を醸し出すフードの少女。


「それにしてもこの時間帯は危険なのに、何か急用だったのか?」

「はい、八軍へ配属されるので本部へ向かっている途中でした」


 土埃を払いながらそう答えると、その言葉に二人は反応した。


「と言うことは君が噂の新人か」

「なんか魔法も武術も普通だけど射撃能力がピカイチって話題の~?」


 悪びれもなくそう言うフードの少女に、騎士は言いすぎだと目で訴えた。


(そんな噂が流れているなんて......確かに武術も魔法も出来ないけど......)


 少しだけ落ち込んだが、そんなユウキに騎士は近づき、ハキハキとした声で自己紹介をしてきた。


「自己紹介が遅れてすまない。私はカスミ。第七軍所属だ」

「私はエリー。同じく第七軍だよ~。よろしくねぇ......えーっと......?」

「ユウキです。よろしくお願いします」

「ユウキか、こちらこそよろしく頼む」

「よろしくねぇユウキ君~」


 カスミは優しく微笑み、先ほどまでの気迫はなくなっていた。

 エリーは顔は見えないが笑っているのだろう。

 口元辺りを隠し、赤い目がスッと半目になっている。

 自己紹介を終えた頃、複数の警備兵がこちらへと走って来た。


「カスミ様、エリー様、通報があったと聞きましたが」

「あぁもう対処しておいた。後は任せても良いか?」

「はっ!」


警備兵は敬礼し、倒れたならず者を運び始める。


「さて本部なら案内出来る、こっちだ」


 そう言うとカスミは歩き出し、ユウキとエリーもそれに続いた。

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