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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
33/71

女子会

今日は暑すぎず寒すぎず、ちょうど良い風が吹いている。


まだ昇りきっていない陽に照らされた街並み。そして微かに香る花の匂い。ユキは街を見渡し、リンネを待つ。


訓練場が見えるけど、二人とも頑張ってるかな...?


壁のせいでよく見えないが、最高司令がいる城と訓練場は近い、きっともう始まっているだろう。


「ロイもユウキも本当に凄いなぁ」


再会したロイの闘気は以前よりも上がっていた。たった数日で目まぐるしく成長しているのにも驚きだが、二人ともギルバ総司令を失ってから長くない。目の前で亡くなったことを考えると二人の心には相当な傷があるはずだ。


それでも頑張ろうとする二人はやっぱり強いなぁ...


もし自分が同じ立場になったら立ち直れるだろうか。姉さんがもしいなくなったら自分はどうなるだろうか。

現にククルは精神を壊しリハビリの真っ最中である。今回の帝国祭で少しでも立ち直ってくれると良いのだが。


でも...ククル君が戦うのはもう無理かな...


あんな小さな子が戦い続ける世界はやっぱりおかしい。どれだけ魔力があろうとも幼いことには変わりない。出来ればもう戦わずにゆっくりと過ごして欲しい。


そう思うけど...


テラの言葉を思い出し、ユキは俯く。どう頑張ってもこの帝国軍領は襲撃される。そうなったらククルも無事では済まない。


..........


「お待たせ〜ユキちゃん」

「.......!」


バッと顔を上げ声のする方を見る。左手にはティーポット。右手には銀皿。綺麗な白のカップ。

暗いことを考えていたユキの頭はすぐに未知のもので上書きされる。目に飛び込んできた謎の物体。


「なにこれ.......?」


「これはねマカロンって言うの」


テーブルに置かれた皿には丸っとした見た目とカラフルな色のお菓子が積まれている。


「かわいい.......!!」

「でしょっ!」


ニマッと満面の笑みのリンネはティーポットを傾ける。トクトクと静かに注がれる橙色の液体。澄んだ色と香りを目の当たりにしてユキはハッと気がつく。


「もしかして紅茶...?!」


「正解!」


普通に暮らしていればまずお目にかかれない代物である。それでも童話や噂で聞いたことのあるもの。


「これが...初めて見た...!」


「少し熱いから気をつけてね」


コトリとカップが置かれ上品な匂いが香る。白のカップが一層紅茶の色を際立たせ、濁りもなく綺麗である。


「い...いただきます」


おそるおそる手を伸ばすがカップの取っ手は指が二本入るかどうかと言ったほど小さく、持つのに戸惑う。


「こんな風に摘んで持つの」


ユキの表情を察知し、リンネは手本を見せる。取っ手には指を通さずに摘むように持つ。


「そうそう、そんな感じ」


「なんか震えちゃう」


「あはは、分かるよ~。こんな風に持つの難しいよね」


とは言いつつリンネの振る舞いは一つ一つが綺麗で優美だった。やはりメイドである。飲み方も上品で童話に出てくるお姫様のようだ。ユキも姿勢を正し、紅茶を少しだけ飲む。


「.......!」


酸っぱい、いや甘い。スーッと染み渡るような味わいと舌に残る甘さ。爽やかな匂いもそうだが、果実の味が微かにある。


「美味しい...!」


「えへへ、気に入ってもらえて良かった」


飲み終えるとマカロンに目が行き、自然と手に取る。黄色の見た目からはレモンの匂い。


サクッ


ふんわりとした食感だと思いきや意外とサクサクとしていた。クッキーよりも柔らかい生地にジワリとレモンが効いてくる。


「ん~......!!!」


「どう?美味しい?」


そわそわと落ち着かない様子で聞いてくるリンネにユキは頷く。目を見開き、言葉も出せずにモグモグと食べていく。


「そのマカロンね私が作ったんだ」


「えぇえ...?!」


口を手で覆い、驚きの声を上げる。


「あはは、そんなにびっくりする?」


「だって、こんなに美味しいの私は作れないですよ!」

「大丈夫だって、慣れれば作れるよ〜」


と言われても信じられず、疑いの眼差しを送る。



「信じてないね~?じゃあ今度一緒に作ろ?」

「え...良いんですか...?!」


お菓子なんて姉としか作ったことがなく、こんな風に誘われることが嬉しかった。それにマカロンを習う機会なんて他にはない。キラキラな笑顔に釣られて、ユキも笑みを浮かべる。


「ふふ、良かった」


「....?」


「ずっと元気なさそうな感じだったから」

紅茶を一飲みし、ニコニコと笑っている。


「そうですかね...?」


「隠したって無駄だよ。私はそういうの分かるの」


キラリと光る黄色の目。全てを見透かすように澄んでおり、その既視感にユキはハッと気づいた。Qと全く同じ不思議なオーラ。


「...?!」


しかし、スーッと元の目に戻る。


「あはは、びっくりした?」


「.......」


コクコクと頷くことしか出来ない。

何かの魔法...?でもこんなの知らないし...第七感覚...?


「これはね、第六感覚(シックスセンス)だよ」


「第六感覚...?」


紅茶を一飲みし、リンネはゆっくりと話し始める。


「そう、ユキちゃんもあると思うけど私の第六感覚は普通の人よりも強いの。って言っても戦闘向きじゃないけどね」


第六感覚は自身の外界に対して働く力。ユキの場合は感覚で敵の攻撃を避けることが出来る。が、それだけが第六感覚ではない。


「私の場合は目の前の人の感情が分かるの。それも結構強く」

「じゃあさっきの目って第六感覚の影響...?」

「うん、そうだよ」


と言うことはQさんの目も第六感覚が働いてるってことかな...?


「例えばだけど、こんなことも出来るの」


リンネの目はまた透明に変わる。ジロジロと見られて恥ずかしいが、ほんの数秒で元に戻る。


「ユキちゃんって好きな人いるの?」

「...?!けほっ...!けほっ...!」


予想だにしない問いに紅茶を吹き出しそうになる。


「な...え...えぇ...?!」


「ふふふ、まぁそれだけ小さい想いなら気づかないかな」


ニマニマと一人だけ理解しているのが何とも言えない。

「いないです。と言うか考えた事もないです!」


「ふーーーーん」

楽しそうにニッコニコである。一方でユキは慣れない話題に何故か顔が熱くなる。考えた事もないし、そんな人もいない。手をブンブンと振り必死に否定するがリンネの表情は変わらない。


ユウキには幼馴染みがいるし、ユウキとは会ってそんなに時間立ってないし...


困ったように紅茶を飲み、二人の顔を思い出す。寡黙な見た目に関わらず意外と人当たりが優しいロイはけっこう人気だ。


よく街の人に声をかけられるのを見る。しかし、彼には心に決めた人がいるようでいつも断っていた。なんと言うか、見ているだけで分かってしまう。ロイの目に写るものにはいつもその人がいて、その人のために自分が存在しているような、そんな風に見える。


ユウキとの出会いはちょっと恥ずかしかった。姉さんが酔いつぶれて運んでるときに合った目をまだ覚えてる。


機械を付けてるせいなのか他の人とは違った気がした。記憶もないみたいだし、きっと何かあったんだろう。本人には聞けないけど、彼の目には深い悲しみが宿っている。


うーん、でもだからって特別な感情はないんだよね…


始まったばかりの女子会、楽しそうに話すリンネのお陰でいつの間にか悲しみを忘れていく。そんな優雅な時間。チラリと見えた訓練場は今何が起きているのか、ユキには知る術もなかった。

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