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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
32/71

女の子

パタン


「お話は終わりましたか?」


廊下に出るとノアとリンネが待っていた。落ち着いた表情で立ち、先ほどの猛ダッシュとは別人に見えた。


「ユキちゃ...んん....ユキ様。もしお時間があれば他の花も見ていきませんか?」


友達に話すようにはしゃぐがノアの目線を感じ取り、リンネの口調は戻る。


「え、良いんですか」


「はい、今の時期は庭園も華やかで綺麗なんです。是非見に行きましょう」


ニコッと笑うリンネにユキも表情が緩む。


「ユウキも行く?」


「えぇ...うーん...?」


花を見ることは別に良いが気まずくなる気がしてならない。なんと言っても明るい二人は自分とは対象的であり、それだけで負けてしまう。しかし、とても楽しそうなユキの顔を見ると断ることも出来ず、ユウキは困り果てる。


そこへ


「ユウキ、ユキ」


「え...?ロイ...!」


ユウキとユキは振り返り、突然の再会に喜びを隠せない。一方でロイは変わらず冷静な振る舞いであった。青い髪、漆黒のマントと両刃剣。少しだけ疲れているように見えるが、変わらないようで安心した。


「ロイ様もお時間があれば庭園に行きませんか?」


「ええと...すみません。この後は訓練があるので」


ニコニコと笑うリンネの誘いをスマートに断り、ロイの目線はユウキへと向く。


「二人が暇だったら訓練に誘おうと思ってたんだけど...」


「ん~...じゃあユウキは一緒に行って来たら?私は後で合流するよ」


「あ~、じゃあそうしようかな?」


「ユキちゃ…ユキ様。訓練があるならまたの機会でもよろしいのですよ?」


「ううん、大丈夫だよ」


「そうそう、少しゆっくりしてきて」


頼りになるユキには少しでも万全の状態でいてほしい。帝国祭もあるし、休める時間は十分に活用すべきだろう。


「それではユウキ様、ロイ様。入り口までですが私がお送り致します」


四人の会話をジッと眺めていたノアが手を差し伸べる。


「じゃあユキ、また後でね」


「うん、二人とも頑張ってね」


小さく手を振ると、一瞬でユウキ達は消えた。そんな光景を見てリンネはほっと安心した表情を浮かべる。


「ふう、やっと一息つける」


「ノアさんに何回も睨まれてましたからね」


「そう!本当に怖かった~」


先程の落ち着いた声とは真逆にハツラツとした元気な声。


「じゃあ、行こっか」


「はい」


歩きだすリンネの後を追いながらユキは期待に胸を膨らませる。


「えへへ、嬉しいなぁ」


ルンルンと上機嫌な足取りと鼻歌。ユキ以上に楽しそうである。


「実はね、庭園を紹介するのってはじめてなの」


「えっ……そうなんですか?!」


「うん、手入れはしてるんだけど誰もいない時の方が多くて」


リンネはこちらを向き、後ろ歩きで話し出す。



「それは…ちょっと悲しいですね」


「ん~意外とそうでもないんだよ?」


黄色の髪も相まって、リンネの笑顔は眩しかった。

「やっぱり花を見るのは好きだし、綺麗に咲くと嬉しいからね」


えっへんと得意気な顔をするリンネを見て、本当に花が好きなのが分かる。


「分かります。私も元気に育てって願いながらお世話してます」

「あはは、同じだ~」


階段を上りながら二人は笑い合う。赤いカーペットの上を歩くのは少しだけ変な心地がした。


「えーっとね、後はね...」

「あっ......前!」

「え...?.......きゃっ...!」

「.......!」


階段を上り終え、曲がろうとした瞬間、音もなく出てきた女性にリンネはぶつかる。


「いてて...はっ...!申し訳ありません伊織様!お怪我はありませんか?」


リンネは尻餅を着くがすぐに立ち上がり、平然と立っている女性に頭を下げる。リンネよりも華奢な見た目をしているにも関わらず微動だにしていない。


「ごめんなさい......私も......ボーッとしてて前を見てなかった......」


緑色の髪を下ろし、紫色の服を身に纏い、まるで忍びのように口元を布で隠している。腰には小刀らしきものを二本携え、数枚の札も見える。伊織と呼ばれた女性は、ゆったりと気だるげな声でそう答え、ただじっとリンネを見つめた。


「................」


何...もしかしてリンネさんに凄い怒ってるとか.......?


何も言わずに立ち尽くす伊織。眠そうな細い目でリンネを見つめ続ける。


「えーっと...キーク様を探していらっしゃるのですか?」


伊織は小さく頷く。


「確か...最高司令のお部屋にいたはずです」


「分かった.........ありがとう......」


それだけ言うと伊織は通り過ぎ、階段を下りていった。不思議なことにユキの真横を通った時でさえ、少しも音が聞こえない。気配すらも感じず本当にそこに存在しているかさえも分からなくなる。


「リンネちゃん大丈夫?あれ怒ってなかった...?」


「え......?いつも通りだったよ...?」


メイド服を少し直し、リンネはきょとんとした表情でそう言った。


「伊織さんは優しいから全然怒らないの。まぁ人見知りって言うか...黙っているのは怒ってる訳じゃないんだよ」


「そう...?それなら良いんだけど」


確か序列三のジャックと対時して生き残ったのが今の伊織さんだっけ...?


再び歩き出すリンネの背を追い、ユキは少しだけ考え込む。


本当に気配がなくて驚いちゃった...

最前線で戦う関係上、ユキの五感は鋭く、第六感覚も並の者より優れている。気配を察知することに関しては自信があったのだが。


もしも背後にいたら絶対に気付けない...


ユキは先ほどの対時を思い出し、Qの顔が浮かんだ。


同じ総司令なのにテラさんやギルバさんとは違う感じがする...。伊織さんやQさんには....うーん...なんだろう...。何か別の力があるような...。


恐らくだが魔法とは関係のない能力が備わっている。それが何なのかは分からないし、ただの勘だ。しかし、ユキの心には引っ掛かった。


「ユキちゃん、ここが庭園だよ」


「ふわっ...!」


深く考え込んでいたユキは驚き、一歩後退る。


「大丈夫?すっごい考え込んでたよ」


「う...うん、大丈....夫...!」


視線を上げたユキの声は止まる。扉のガラス越しに見える庭園。その色とりどりの花達に言葉を失ったからだ。


「...?あ、そう~ここが私の自慢の場所だよ」


ユキの視線を察し、リンネは勢いよく扉を開ける。


「わ~....凄い!」

一面に咲く色彩の数々。色事に分けられ、中央には噴水のようなものまである。

「あそこで花を見ながら休むの」


リンネに連れられ、真っ白のタイルを歩んでいく。見たことのない花から、見慣れた花。花の植え方、見せ方も上手いが匂いもほどよく混ざり爽やかである。


リンネが指さす方向には、灰色の鉱石で作られた円形のテーブルとベンチが日差しを防ぐような巨大な葉で覆われていた。光沢も美しく、所々が白く輝いている。


「なにこれ...」


あまりにも馴染みのない場に言葉を失ってしまう。


「座って待ってて、お菓子と飲み物を持ってくるから」


「うん...!」


丁寧に案内され、座るように促される。口調は友達のように軽いが、動きは熟練のメイドである。


「...!」

固そうな見た目とは裏腹に座り心地は柔らかい。どれだけ座っていても苦にならなさそうである。


本当に凄い...


想像以上の美しさに胸の鼓動が鳴り止まない。まるでお姫様になったような気分である。

って...そんな柄じゃ無いけどね


自分の肌の色を見て少しだけ憂鬱になる。絵の中のお姫様は皆綺麗で可愛くて色白だった。女の子である以上憧れるが、今の自分はきっと遠い。


もっと女の子らしかったらなぁ...


小さな溜め息は風に乗ってかき消された。

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