悩みの種
「まぁ、驚くのも無理はない」
コーヒーを飲み、テラは冷静に話し始めた。
「裏切り者という文字しか見えなかったから誰なのかも分からない。だが...この帝国軍領が魔物に侵攻される。その映像だけは見えた」
「それって...」
「あぁ...非情にまずい事態だな。今からどれだけ手を打とうがこの事実は変わらない。そこは最高司令にも報告済だ」
確定した未来って...ここが魔物に攻められる...?
「それって何時くらいなのかは分かるんですか?」
「さぁな...そこまでは分からない」
「........」
「........」
何時になるか分からない、それでも確実に起こる事象。
「どうしても防ぐことは出来ないんですか?」
「無理だな」
「......」
「......」
ユウキとユキは目線を交わして押し黙った。
どうしたら...
「どうして私達にこの話を...?」
「それはな...」
テラの表情は一瞬曇る。しかし、普段の顔に戻り淡々と言葉を続ける。
「映像の中ではお前達が戦っている姿も映っていた。根拠は薄いが...死にかけても尚戦っている奴を疑うほど私も鬼じゃない」
コーヒーを飲み、テラはこちらを見つめてきた。一応信頼されているのだろうか。言葉も少なく、表情でも読めないがそう思っても良さそうだ。
「じゃあこの話は僕達以外は知らないんですか?」
「あぁ、そうだな。裏切り者の件は怪しいと思った者を私に報告してもらいたい。大変だが出来るか?」
「.......」
「.......」
再度二人は視線を交わす。出来るだろうか。そもそも検討もつかない。Q総司令...?カスミさん?エリーさん?
それともロイ...ククル...ルーミさん...
ルナの名前が出た瞬間、ユウキは思考を止めた。裏切り...そんなことをするような人には見えない。だけどもしかしたら...という嫌な感情が渦巻く。
二人は黙り込んだ。
だが...
「分かりました。出来る限り頑張ります」
「疑うのはあんまり得意じゃないけど私も頑張ります」
「お前ら、随分と顔つきが変わったな」
「....?」
帝国軍に所属したばかりは無理をしているのが見え見えだった。戦わなければいけない。でもその覚悟が足りていないように見えた。
ユキも安全な任務から一変し、命を落とす可能性に直面した。その事実を受け止め、彼女の闘気はより一層高まった。当の本人は気づいていないようだが。
やれやれ...年寄りみたいな思考になっているな...
「とにかくこのことは他言無用だ。任務中も探るのを忘れないでくれ」
「はい」
「分かりました」
「話は終わりだ。帰りはノアに送ってもらえ」
最期のクッキーを口に含み、コーヒーを飲む。カタンと椅子から立ち上がる二人を見る。
今は何も知らなくてもいい。
テラの脳裏にはあの日見た光景が蘇ってくる。意識が途絶えているユウキは血まみれのまま倒れ、ユキも満身創痍でユウキを抱える。そんな絶望的な状況のユキの視線の先には赤く煌めく魔族の目。
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。もはや戦う気力もなく、ただ見ることしか出来ないユキ。映像はそこで途切れた。
.........
疑えるはずもない。あそこまで魔族と戦う二人を私は信じるしかない。
テラが見た未来。その先は死か、あるいは。
そんな未来を二人に教えるべきか。テラは頭を悩ませた。
こんな能力なんてなければ、悩むこともなかったんだがな…
テラはコーヒーを飲み、深いため息を吐いた。




