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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第四章 帝国祭編
30/71

帰還

「ネロ最高司令、Q総司令が戻られました」


「分かった通してくれ」


「はっ!」


ネロは書いていた書類を横に置き、扉に目を向ける。



重々しい扉が開かれ、室内に数人の足音が鳴る。


「戻ったよ」


ツカツカと歩み寄り、Qは部屋の真ん中で敬礼をした。堂々と立つQの後ろにユウキとユキが緊張した面持ちで続く。


中には本棚が二つ、どちらもかなり綺麗に並べられている。ネロが座っている机も高級そうな木製の机であり、ついさきほど入れたのかコーヒーの湯気が立っていた。


「少人数にも関わらず本当によくやってくれた」


白髪になっているもののそれほど歳を取っているように見えない。黄色の目は細く、上に立つもののオーラを感じる。


「村は守れたけど被害は大きかったよ。ヴァンがいなかったら村もどうだったか分からなかったし...」


「そうか...」


そのヴァン総司令の姿がないことにネロもおおよそ何が起きたのか予想出来た。


「とにかく無事で良かった。これ以上戦力を失う訳にはいかないからね」


ネロは少し安心したような表情をした後、すぐに真面目な顔を浮かべた。


「君達は分かっていると思うが、魔物による被害は深刻だ。先日は伊織率いる”第五軍”が村人の護衛中に攻撃を受けたそうだ」


ネロはふーっと息を吐き、目を細めた。


「序列三のジャックが現れたそうだ」


「ジャックが...?」


「そうだ...六年前も現れなかったジャックのせいで伊織以外は戦死。村人の数人も犠牲になった」


そう言うとネロは視線をQからユウキとユキに移した。


「伊織の元には衛兵もいたが、君たちと同世代の子もいた」


「...!」


ネロの声色は至って冷静であり、淡々としていた。だが二人を見つめる目は冷たく、それだけで怖じ気付いてしまう。言葉の意味を理解し、二人は黙る。


「ネロ、あんまり怖がらせないであげてよ」


「ふふ、すまない。魔族と接敵して生き延びていることに驚いてしまってね。少し試しただけさ」

Qの制止によってネロの表情は柔らかいものへ戻る。


「それで話ってなんなの?」


「ああ。帰還してすぐで悪いんだけど君達に頼みたいことがあってね」


君達という言葉にユウキとユキの背筋は伸びる。Qだけではない。最高司令からの命令が自分達にも向けられているのだ。


「近々帝国軍祭を開こうと思っている。目的は犠牲になった兵の弔いと治安を向上させるため」

ネロは書類を手に取り、じっと見つめた。


「どうやら避難民と元々ここにいた人の対立が激しくなっているようなんだ。ならず者は四軍や七軍に任せているんだが小さないざこざが後を絶たない」


やれやれと言いたそうな顔をしている。


「祭りの間は交代で警備をしてもらおうと思ってね。大変だとは思うけどお願いしたい」


「それくらいなら問題ない」


「後ろの二人も任せて良いかい?」


「はい!」


ユウキとユキは跳ね上がるような声を出して敬礼をした。


「頼もしいね」


「そうだろう?」


笑い合うネロとQの反応に少しだけ恥ずかしくなってしまう。笑っている間はそれほどオーラを感じないがふとした時に合う目は畏怖せざるを得ない。


「あぁ、それとテラが君たち二人を呼んでいた。出来るだけ早くと言っていたので向かって欲しい。Qは少しだけ残ってくれ」


「なんだか面倒なことを言われそうだな」


「まぁまぁ」



ネロの合図で衛兵は扉を開ける。


「じゃあ二人とも実験材料にされないようにね」


それは...冗談に聞こえないです...


ユウキもユキも同じことを思ったが口には出さなかった。そろそろと静かに部屋から退散。屈強な身体と顔の見えない強固な鎧を着た衛兵を通り過ぎ、二人はやっと緊張から解放された。


あんなにプレッシャーを感じる最高司令を前にしてQは全く動じていなかった。本当に尊敬する...。


「ふぅ、なんか凄い緊張しちゃった」


「僕もだよ。ちょっと手震えてたし」


「あはは、私も」


コツコツと細い足音。ゆっくりと赤いカーペットを歩んでいく。長い廊下にはよく分からない絵が並び、等間隔で花が飾られている。丸い小瓶のようなものに入れられていたり、平たい皿に身を寄せ合っていたり。赤、黄、青、緑。様々な色が強調し過ぎず、控えめな彩りを与えていた。


「あっ!」


その中の一つにユキは吸い込まれるように近づいていく。平たく青い土台から昇る赤い花。カーブを描く枝に紅色の小さな花が無数に咲き誇っている。それを屋根にして黄色と白の花がチョコンと座っていた。


「これってサーシス?」


「そうだよ!」


三つの色だけを使い、空間を利用した見事な作品である。その芸術性は知識のないユウキでも目を引いた。簡素な中にある美しさ。それと共にユキにとっては好きな花を使った作品なのだ。


「綺麗...」


「凄いね」


何気なく置かれた作品に魅入り、二人は足を止めていた。


「綺麗でしょ?」


「...!?」


「ひゃ...?!」


振り返るとそこには金髪ツインテールのメイドが立っていた。綺麗な黄色の目がよく合い、とても上品な印象であった。


「あら、驚かせて申し訳ありません。私はここの清掃を担当しているリンネと言います」

メイドは古ぼけた本を片手に持ち、軽くお辞儀をしてきた。


「この花、私が生けたんですよ。気に入っていただけましたか?」


「はい!とても素敵だと思います」


キラキラと目が光っているユキ、その反応に笑みを隠せていないリンネ。好きなものを語り合う楽しさは理解出来る。声色もウキウキと上がり、会話は続いていく。


「この花がお好きなのですか?」


「はい、この小さな感じが見ていて好きなんです」


キャッキャっとはしゃぎ始める二人。完全に蚊帳の外である。と言うかリンネさんが持っている古い本、図書館では見たこともない感じだ。そんなことを思った瞬間。


「リンネ、随分と楽しそうね?」


「ひっ...!!」


ユキと話していたリンネの動きは止まり、強張った顔が徐々に後ろを向いていく。


「あ...(あね)様...!」


「...?!」



いつの間に...?


リンネはやや背が高い。背後からひょこりと出てきた別のメイドはその影にすっぽりと隠れてしまう。だが、この見渡しのよい廊下で接近するまで気づかないだろうか。


「出来るだけ早く届けるようにと言ったはずですが...?」


「すすす、すみません。すぐに行ってきます!!!」


リンネはペコリとお辞儀をし、猛ダッシュで走り去って行った。バタバタとうるさい音が廊下に響き、やはり何の音もなく接近してきたメイドに違和感を覚える。


「騒がしくて申し訳ありません。ユウキ様とユキ様ですね?」


黒い短髪の髪がさらさらと光り、青い目が鋭くこちらを見ていた。どうしてこうも帝国軍にいる小さな人たちは皆怖いのだろうか。


「私はここの案内を担当しているノアと申します。テラ様の命によってお二人を迎えに参りました」


無表情で淡々とした話し方。



「迎えですか...?」


「はい。すぐに来て欲しいとのことだったので早速行きましょうか」


そう言うとノアはこちらに手を差し出してきた。手を置けということなのだろうか。じっと見つめるノア、ユキと視線を交わして二人は首を捻る。


恐る恐る手を伸ばし、二人はノアの手を握った。


第七感覚(セブンセンス)...」


<第七感覚:神隠し>


握りしめたのを確認し、ノアはぼそりと言った。





「着きました。こちらへどうぞ」


「...!?」


一瞬だけ光ったと思うとそこには大きな扉が現れていた。いや、違う。先ほどいた廊下とは別の場所だ。窓から差す陽はなく、カーテンで閉じられた廊下に橙色のランプが光っている。絵も花もなくなり何もない。


慌てふためくユキ。もちろんユウキも焦った。周りを見渡し、再度確認する。明らかに別の場所に移動していた。


ノアは困惑する二人を素通りし、扉をノックする。


「テラ様、ユウキ様とユキ様が到着いたしました」


「あぁ、入れてくれ」


辛うじて聞こえたテラの声を聞き、ノアは扉を開けた。


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます.......???」


状況が飲み込めず困惑したまま中へと促され、ユウキとユキは室内を見渡す。中には長めのテーブルと椅子、窓はカーテンで覆われ小さなシャンデリアが吊されていた。ほとんど何もない部屋からただ話し合うための場所であることが分かる。


テラは既に椅子に座り、テーブルにはコーヒーとクッキーの入った皿があるだけ。


「待ってたよ、まぁ座れ」


よく分からないけどもういいや...


二人は諦め、ふわふわの高級そうな椅子に座り、テラの顔を伺う。こちらの動作を見つめ、なにやら真剣な面持ちだ。


「わざわざ来てもらってすまないな」


「い、いえ大丈夫です」


「早速だが...お前達はもう第七感覚については知っているか?」


コクリと頷く。


「なら話は早い。今回呼んだのは私の第七感覚に関係しているんだ」


「テラさんの...?」


「そうだ。私の第七感覚は分類上”永続型”。と言っても常に働いているわけじゃない。自分の意志と関係なく働く難儀なものなんだ」


クッキーを少しかじり室内は静寂する。


「私の第七感覚の名は”終焉の記録(エンドログ)”。確定した未来を知ることが出来る能力だ」


「未来を...!」


「...!」


いち早く反応するユウキ。やや遅れてその意味を理解し、ユキは目を丸くした。


「おい、お前達が思ってるような便利な能力じゃないぞ。第一映像じゃなくて文字だけしか見えないこともあるんだ。全く...面倒な力だ」


驚き過ぎて固まる二人をなだめ、テラはクッキーを口に運ぶ。サクサクと音が鳴る。チョコチップが表面に数個見え、ココアの生地と相性抜群だろう。美味しそうだなとは思ったが話を聞かないと怒られる。


「長くなったが本題を話そう」


「...」


クッキーを食べ終え、テラを口を拭う。鋭い目は覇気を帯び、ビリビリとプレッシャーを感じる。


「最初に見えたのは文字だけだった。その次に映像。連続で第七感覚が働いたのは久々で少し驚いたが...」


「この帝国軍に裏切り者がいる」


「え...?!」


「...!」


シンと静まり返った室内。二人はテラを見つめ固まるしかなかった。

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