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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
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夢のよう

<チイナ村・夜>


チイナ村の被害はなく、砦の崩壊のみで事態は収束した。兵は全滅。村人は全員生存。ヴァンと衛兵のおかげである。今回の救助活動は半ば諦めていたが、生き残った者は多く、成功と言っても良い。


パチパチと燃えさかる炎を囲み、広場には大勢の村人が集まっていた。


村人達は皆目を閉じて天を仰ぐ。この世界での死者を弔う祈り方だそうだ。ユウキも目を閉じ空を見上げる。名も知らぬ兵たち、そして姿も見なかったヴァン総司令。


彼らの戦いは知らないが確かに存在し、村はこうして守られた。目を閉じることで様々なことが浮かび、また自分の世界に入り込んでいることに気がついた。


見られなくても、誰も知らなくても彼らの戦いは素晴らしかっただろう。そう思い、ユウキはゆっくりと目を開けた。


辺りはすっかり夜に変わり、星と月が彼らを迎え入れているように思えた。


祈りの後は皆笑い、酒を酌み交わし、今ある命を盛大に楽しんだ。村で獲れた魚や新鮮な果物がユウキ達の前に並べられる。赤い身がキラキラ光る刺身、果実は月の光を反射するほど新鮮なものであった。


「いやぁ...さっきから働かせてばかりで悪いねぇ」

「いえいえ。元気が取り柄なので、座って待っててください」

ユキは老人の周りを忙しなく動き、料理を皿に取り寄せる。


「フィール様、かっこいい」

「ふっ、僕の美しさに気づくとは、なかなか良い感性を持っているようだね」

前髪をサッと撫でるフィールに若い女性達はキャーキャーと楽しそうだ。


「おい、ガキども離せ!」

「きゃははは!」

ヲルタナは子供達に囲まれおもちゃにされていた。肩、背中、足。遊具のようにしがみ付かれ、身動き出来ずにいる。


「ボウガン...なかなか珍しいものを使ってるよな、ちょっと見せてくれないか?」

「良いですよ、どうぞ」

ユウキが手渡したボウガンを眺め、村人はほぅと目を輝かせた。


「帝国軍の技術はやっぱりすげぇな...」


見た感じ二十歳くらいの男。物静かそうな感じだが、ボウガンの仕組みにテンションが上がっているようだった。


「ここが矢を入れるところか?」


「そうですよ」


ボウガンの下にある丸い筒のような部分を見て男はまた目を輝かせる。原理はよく分からないが入れた矢が中で回転し、連続で発射口に装填される。


この技術も驚くべきものだが注目するのはその回転力と安定さ。詰まることなく高速で発射出来る仕組みに男は首を捻った。


「こんなものを作ろうとする発想も凄いが実現させるのも凄いな」


男はむむむと唸り、ボウガンをユウキに返した。


「なかなか良いものを見せてもらったよ。ありがとう」


「いえ、喜んでもらえてなによりです」


満足そうな男は地面に置いておいたグラスを持ち、グッと飲み干した。


ワインだろうか。とにかくお酒っぽい匂いだ。男はこちらに話しかける前も飲んでいたようで頬が少し赤く、センサーに酔っていると反応が出た。


「本当は俺もそういったものを作ってみたかったんだ...」


ボウガンをジッと見つめ、男はぽつりぽつりと呟くように語り始めた。明るい雰囲気から一変し、悲しみ、諦め。どこか遠くを見ているようなぼんやりとした目。ゆらゆらと燃える火が横顔を照らし、目に涙があるように見えた。


「帝国軍領に行く前に死んじまうかと思ってた。本当...あんた達には感謝してるよ」


「そんな。僕なんか皆の手助けをしてるだけで...」


ブンブンと手を振るユウキを見て男はフッと笑い出した。


「何言ってるんだ、そういったサポートがあってこそ世の中は回るんだよ」

そう言い、男は指を指した。その先には一人の女性。


彼女は食べることも後回しにして、騒いでいる村人の料理や酒を補充している。ササッと素早く移動し、目立たないように補充しては次の場所へと向かう。


気持ちよく話している村人達は気づかず、何となく増えた料理を口に運んでまた笑う。


「感謝されなくても、目立たなくても必要な人はたくさんいるんだよ」


分かるよな。と言いたげな顔をしている男にユウキは微笑んだ。


「なるほど、よく分かりました」


コクリと頷くと不意に声をかけられる。


「お注ぎしましょうか?」


「...!」


顔を向けると先ほどの女性がいつの間にかここまで来ていた。少しだけ驚くものの男はすぐに。


「お願いします」


と言いグラスを手渡す。すらりとした手は白く、ワインが入っているであろう小さな玉を投げ入れグラスを返した。


「あ、お願いします」


こちらをジッと見つめる女性にユウキもグラスを手渡した。白く細い手は別の玉を取りだし、グラスに投げ入れる。返されたものからはリンゴの甘い香りがする。


「ありがとう」


「ありがとうございます」


女性は二人のお礼を聞くと、ふふっと小さく笑いまた別の場所へと歩いて行った。


「まぁ今みたいに気づく人もいるってことを言いたかったんだ」


ちょっと照れくさそうな男の反応にユウキまで照れてしまう。


「俺はそういった人間でも良いんだ。直接戦わなくても役に立つような人になりたい...まぁ平和な世界が一番だけどな」


少しだけワインを飲み、男はしみじみとした表情を浮かべる。お酒に弱いのか先ほどよりもぼんやりとしていた。


「良いですね。僕もそうありたいです」


飲んだリンゴジュースは冷たく、新鮮な果実を思い起こさせた。


「いつか帝国軍で物作りが出来たら呼ばせてくれ」


「楽しみにしてます」


歳の差なんて考えず、二人は良き友人になったような気がした。グビグビとワインを飲む男の表情はほっと安心したようになり、パチパチと燃える炎をじっと見つめる。


「...」


「...」


賑やかな広場は一層明るくなり、あちこちで笑いが生まれている。


「やめろ!うがぁぁぁ!」

「きゃはは!お兄ちゃんおもしろーい」


「フィール様ってエンデル家の方なんですね!」

「ああ、名家の生まれでね。期待が大きい分大変なのさ」


「ありがとうねユキちゃん。あんたは良いお嫁さんになるわ~」

「そうですかね...?」


子供に振り回されるヲルタナ。女性に囲まれ余裕の対応を見せるフィール。叔母様方に大人気のユキ。そんな明るい会話をするまでもなく、ユウキは目立たずにいた。それでも充実していた。誰かに知られず、気づかれず、ただたまに感謝されるくらいで良い。


自分の得意とする生き方を見つけたような気がした。元の世界ではどんな生き方だったのかは分からない。


それでも...


燃える炎は一層輝き、夜はまだまだ長い。




カラン...


明るく賑わう広場を少し外れ、簡素な墓標が並べられた場所でQはグラスを傾けた。冷やされたお酒を飲み干し、残った氷が音を鳴らす。


数多の犠牲が生まれ、その亡骸は丁寧に埋葬された。しかし全ての亡骸を回収出来た訳ではない。バラバラになり、判別出来ないものも多かった。


「もう少し早ければ救えたのかな...」


本当はもっと早く来るべきであった。しかし、帝国軍領の総人口は多い。その上村の周辺から来た者の管理と襲撃に備えて交代制で見張る時間が必要であった。ようやく安全と判断された頃にはこの有様である。


反対を押し切ってでも救助に来るべきだったか。だが帝国軍領に魔物が侵攻してきたらと考えると判断は難しい。ただの結果論にしかならず考えるだけ無駄である。


「これで二人目か...」


総司令は並大抵の者ではなれない。純粋な戦闘力も然る事ながら、指揮、知恵、経験。あらゆる要素においてトップクラスでないといけない。その総司令が二人も犠牲になった。


「...」


Qの目は暗く、ただ黙って墓標を見つめていた。沈黙、しかしすぐにQは口を開いた。小さく、まるで自分に言い聞かせるような声。


「私も行く前に...後継を育てないとね...」


Qは自分の手に視線を移した。黒く、のっぺりと纏わり付くような酷い色。絵をこよなく愛し、絵のために生きてきた彼女だからこそ見えた色。


それは”死”を予兆する色であった。

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