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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
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姿なき英雄

そんなヲルタナの視線の先にはロキ。こんな惨劇を生み出し、ニヤニヤとこちらを見下している魔族。


「くふふ...実験は成功したようですねぇ...まぁ、まだ改善点はありますが」


ロキは顎に手をやり考え込む。人間を魔物化させる。僅かに手にあるカーラの実験記録から生み出した魔術がこうも上手くいくとは思っていなかった。


ここまで仕上げるのに何百年とかかった。ロキはグニャリと口角を上げ、不吉な笑みを浮かべる。


「もっと...試してみたいですねぇ...」


ロキは手の中で魔力を操り、赤黒い紋章を作り上げる。


バシュッ!!


「おっと...」


その瞬間、飛んできた矢は頬をかすめ、ロキは詠唱を止めた。


「全く...先ほどから私のことばかり警戒しててやり辛いですねぇ...」


ユウキはヲルタナ達の援護と同時にロキへの牽制も怠っていなかった。何故だか分からないがロキの魔力は探知出来る量が少ない。そのため少しも目を離すことが出来ないのだ。じろりと睨みつけるユウキとは真逆にロキはニヤニヤと笑みが止まらない。


「...」


上空にいたロキは静かに降り、こちらに歩み寄ってくる。後ろで手を組み軽やかな足取りで近づくロキにユウキは身構える。


「そんなに怖がらないでくださいよ」


ザワザワと嫌なオーラを纏い、不気味な笑みを崩さない。


「私はあなたを知っているのですよ?」


「...?!」


ロキはグイッと顔を近づけてきて秘密話をするように小声でそう言った。思いもしない言葉にユウキの思考は止まり、信じられないといった表情でロキを見返した。


星夢(ほしゆめ)のコイン、そう言えば分かりますよね...?」


「星夢...?」


ロキの言葉に全く心当たりがなくユウキは固まる。そんな反応を見てロキの笑みは消えた。


「おや...忘れてしまったのですか?」


「...」


黙りこくるユウキ。しばしの沈黙jの後、ロキは全てを察した。それと同時にグニャリと笑みを浮かべ笑い始める。


「くふふふ...これは面白い。許されざる大罪を犯してそれを忘れるとは」


「さっきから何を...?」


「いえ、お気になさらず。いずれ思い出すでしょうから」


ビキ...


ロキの言葉が終わると同時に背後の空間が裂け始める。暗く、先の見えない深淵。


「待て!」


「また会いましょう。今度はもっと楽しいショーを用意しておきますよ」

放った矢も虚しく弾かれ、ロキの姿は完全に消え失せた。センサーにも引っ掛からない。やはり魔族はどこからともなく現れ、空間を裂いて消えていく。


どこへ繋がっているのか、そして何故このような術を持っているのか未だに謎のままである。ただ、この空間を裂く力のせいで最古参の撃破は不可能に近くなっていた。


センサーで位置を追えるか試してみたがダメだった。ひとまず戦わなくて良かっただけましだが、最期に言っていたことが気になる。


ロキは僕を知っている...?それにコインって...?


大罪。星夢。身に覚えのない言葉ばかりで何も分からない。


ズキズキ...


頭を使おうとしても酷い頭痛で不快になるだけだ。


「......」


「ユウキ!」


一人、思い悩んでいる間ユキ達は穴から這い上がりこちらに近づいて来ていた。激しい戦闘の後、センサーで感知していたが土と血の汚れを見るとその実感が湧く。


「ロキは?」


「もういなくなったよ」


「何もされなかった?」


「うん、大丈夫」


ほっとした表情、しかしユキの腕は血で染まっている。


「腕大丈夫?」


「え?あ、うん!平気」


ニコニコと笑っているが関節が少しずれている気がする。無理して笑っているが相当痛いはずだ。


「無理しないで、見せて」


「......!」


小さな手、とても破壊的な威力を生み出すとは思えない華奢な腕。優しく触り、その傷を見つめる。やはり関節がおかしい。


肘の部分は外れているようで骨の角張った様子が見える。手首は折れているようでプラプラと安定していない。


「少しだけ我慢してね」


ユウキは青と緑の粒子を纏った矢を取りだし、ユキの腕に狙いを定めた。


刺した瞬間、高い音と共に粒子がユキを包み込む。折れた腕を中心に暖かい光が生まれ、元通りになる力が働く。メキメキと強引に動く音がするが痛みはない。


「ありがとう」


「どういたしまして」


手を握りしめ、治った腕の状態に驚いている。


「驚いた、そんなことが出来るなんて」


見るも無惨だった怪我を治す強力な治癒能力にフィールは興味津々であった。普段は傷ついたら薬と包帯で治し、前線に復帰するまで数日かかる。


帝国軍に所属しているとはいえ、全ての兵を回復させる魔法使いは存在しない。普通、ユウキ達のような新兵には縁がないものである。それ故フィールの感心を奪った。


「そんなことよりさっさと村に行くぞ」


遠くをぼんやりと見つめるヲルタナ。村の方は障壁が消え、静かになっていた。治った腕をフィールに見せていたユキもその言葉にハッと我に返る。


「そうだね、早くQさんと合流しなきゃ」



ーーー

ーーーーーーー



<チイナ村>

ビキ...


「あーあ...」


気絶までリュウビを追い詰めたQ。しかし、その体は裂けた空間の中に吸い込まれ、跡形もなく消えた。


「やっぱり捕まえるのも倒すのも無理か」


Qは立ち上がり、土を払う。魔物も全て掃討し、魔族も撤退した。ここら辺の安全はひとまず確保出来ただろう。


「ヴァン総司令...」


Qは障壁にゆっくりと近づき手を当てる。触れてみて分かることは、これほどまでに強い魔力はそうそう生まれないということだ。数百の魔物、最古参の魔族の攻撃を耐えたのにも納得出来る。



Qの手が触れることで障壁が解除され、パラパラと崩れていった。


「か...壁が?!」


「ひいいい!!」


障壁が消えたことで村人の声が聞こえ始める。中は至って普通。数日魔物の攻撃を受けていたとは思えないほどのどかな風景が広がっていた。


果樹園に実る数々の果物も新鮮で美味しそうだ。村の広場らしき所では数人の男がそれぞれ武器を

持ち、身構えていた。と言っても包丁とか小刀とか、武器としての性能は期待できない。


「こんにちは、私は帝国軍総司令”第二軍”のQ。助けに来ましたよ」


村の周辺は静まりかえり魔物の姿はない。


「総司令...」


「助かった...のか...」


動揺していた村人もQを見て落ち着きを取り戻していく。老人や子供、女性達は家の中からこちらを見ていた。


いくら障壁が張られていたとしてもいつ壊れるのか分からない。決して安心出来ない状況で数日過ごし、精神をすり減らしていた。


そんな村人達はへなへなと地面に座り込み、安堵の表情でQを見つめた。


「この中でヴァン総司令の居場所を知っている人は?」


「あ、あちらにいますよ」


村人の一人が手を上げ小さな小屋を指さした。村の端、古びた小屋には頑丈な紋章が描かれていた。


「......」


座り込んでいる村人を通り抜け、Qは小屋の目の前まで歩み寄った。筆を抜き、白の絵の具が紋章に触れるとパリンと音を立てて紋章は崩れた。


小屋の扉、木製のはずだが魔力が込められているせいで堅く、頑丈になっていた。


「ヴァン総司令...?」


ギギギと扉を開けると中は暗く、明かりはない。隙間もなく真っ暗な部屋に日差しが入り込んでいく。目一杯扉を開けると部屋の全体が見えた。


「やっぱり...」


ヴァン総司令。いや、そうだったもの。大量の血が飛び散り、鎧が床に転がっている。その中身は...ただの肉塊と化していた。


「ヴァン総司令...貴方のお陰で村は救われたよ。だから...ゆっくり休んで」


Qは手を合わせ軽く祈る。



人がそれぞれ持つ魔力。それを超え、己の生命力さえも力に変え、全てを投げ打って戦った末路。

本来、魔法は自信の持つ魔力量を超えて使うことは出来ない。


第七感覚も同様で魔力を使用するものは必ずしも限界がある。しかし、自身の命を犠牲にすれば話は別である。


ヴァン・デオウルド。九軍の総司令にして鉄壁の英雄。長きに渡る戦乱の中で彼ほど防御に全振りした者はいなかった。誰よりも戦いを嫌い、傷つくことを嫌ったヴァンは全てを守るために帝国軍へと加わった。


始めは認められず、ただの足手まといと言われていた。だが、彼の諦めない精神、絶対に守り切るという誓いが総司令への道を繋いだ。


そして、彼はここチイナ村をこよなく愛し、また愛されていた。その身を捧げ、全てを力に変え守り切る。彼は成し遂げた。


終わりこそ醜い肉塊になったが、村は何も変わらず綺麗なままであった。


「大丈夫、後は私達に任せて」


Qの言葉に反応し、肉塊は地面に崩れ去った。

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