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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
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意思

「てめぇ...他人事みたいに言いやがって!」


ヲルタナはユウキの胸ぐらを掴み、憤怒の表情で迫り来る。


「く...!」


喉元が締め付けられ呼吸が出来なくなる。フィールが抑えられなかったものをユウキが抑えられるはずもない。


「ちょっと止めてよ!」


「仲間割れは美しくないよ!」


フィールがヲルタナを羽交い締めにし、ユキの力で腕から振りほどく。


「げほっ...!けほっ...!」


「ユウキ大丈夫?」


「離せ!そいつを一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇ!」

「そんなことをしている場合じゃないだろう!」


「ギイッ!」


唐突に太陽が遮られ、四人がいる場所は暗くなる。


「なっ...?!」

魔物は右手だけで地面を押し、空高く跳び上がっていた。巨大な腕によって太陽の光は途絶え、狙いすました攻撃は止まらない。


「ユウキ、下がって!」


<闘魂:拳鬼>


ユキは全力で地面を蹴り上げ真っ向から立ち向かった。自分の何倍、何十倍もある拳に細身の腕で対抗する。


青い魔力を纏った魔物の攻撃、ユキの拳に宿る赤いオーラ。両者の攻撃が合わさった時、神秘的な光景が広がった。まるでオーロラ、一面に広がる星空。キラキラと光り、色鮮やかな粒子が尾を引いて広がっていた。


「ギギ...イイ!」

「く...う...!」


バチバチと閃光が走り、空中で二人の動きは止まっている。



「はああああ!」


ミシッ!

「...!」

ユキが腕を振り切った瞬間、左手から鈍い音が聞こえた。


「イギ...!」

しかし、攻撃を逸らすことに成功し、魔物は遙か後方に吹き飛んでいった。


「っ...!」

「ユキ!」


左腕を押さえているユキの表情は少し苦しそうだ。血が滲み、地面に滴り落ちている。

「平気...大丈夫だよ」


「イ...ギイ...」


飛ばされた魔物にもダメージが通っている。腕をワナワナと震わせ、自分が飛ばされたことに驚いているようだった。


「ヲルタナ、これで分かったでしょ。彼女を殺さなきゃ被害は増えるばかりだって」


「黙れ...」


「それとも妹さんにはそういう存在でいてほしいってこと?」


「黙りやがれ!」


またもヲルタナは胸ぐらに掴みかかってくる。しかし、二度も同じ手は食わない。掴まれた腕に全力で抗い、持ち上げられることを阻止した。


「魔物化した人は元に戻せないんだよ。だからもう...僕たちが止めるしかないの!」


「...」


ヲルタナの腕にはほとんど力が入っていなかった。こちらを見る目も明らかに変化している。本当は分かっているものを認めたくない、そんな無意識の防衛本能。しかし、ユウキの声で目覚めかけている。魔物化したものを戻す方法なんて分からない。


本当はもう、分かっている


「ギギ...ギイイ!」


小さな頃からヲルタナには母はいなかった。父も酒に溺れ、スリや恐喝、自分の力で全てを奪わなくちゃ生きられない。ならず者達の住処は日々そんな過酷な状態であった。


”兄様、また今日も喧嘩したのですか?”


帰ればいつも彼女の笑顔がヲルタナを向かえてくれた。


”兄様、本当にこんなものを私に?”


貧相な暮らしの中でもヲルタナは妹のために生きていた。誕生日には溜めたお金で城下町に赴き、スイーツや服、髪飾りなどを買ってきた。


”ありがとう兄様、私一生大事にしますね”


満面の笑みを見せる彼女がヲルタナの生きる支えだった。


「ギイ...ギ」

ヲルタナは魔物に目を向ける。白いワンピース。少し汚れているが自分がプレゼントしたものだ。青い髪飾り。飾りのないシンプルな作りだがセレナは大事に使ってくれていた。


「あいつは大切な妹だ...殺すなんて...」


妹が行方不明になって六年。情報を掴むために帝国軍に所属し、やっとの思いで再会した。それなのにこんな終わり方だなんて認められなかった。


「ヲルタナ、妹さんを放っておけばきっと誰かを殺すことになるよ。そうしたら殺された人の親は、兄弟は、どう思うの?」

「...!」

「皆君と同じように悲しむ。そんな人を増やすのを彼女が望んでいると思っているの...?」


「ギ...ギイイ...」

ヲルタナはもう一度魔物に目を向けた。変わり果てた姿、原型のない顔。もう人の言葉を話せない。


「セレナ...」

今どんな気持ちでいるのだろうか。優しく、血の気のあることは苦手としていた彼女があんな姿になり果て、一体何を思っているのか。

あんな姿でも生きたいと思っていたら。元に戻りたいと願っていたら。


くそくそくそくそ...どうしたら...


”私は兄様の選んだことなら信じます。兄様は私のヒーローですから”


そうだ…あいつは…



ヲルタナは手を離し、ユウキに向き直った。

「ユウキ...あいつを止めるのを手伝ってくれ」

「もちろん」

ヲルタナは武器を抜いて振り返る。まだ完全に覚悟が決まった訳じゃない。あんな姿になってもセレナの意志を感じる。


「ギイイイ!!」

魔物は咆哮しこちらへと這いずり始めた。ただ目の前にいる人間を殺す非情な生き物。


ヲルタナの後ろにユキ、ユウキ、フィールが立つ。相手は元人間。そして仲間の家族。

「セレナ、今…お前を救ってやる」

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