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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
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そよ風

<グルー砦>


帝国軍領から最も遠くに位置している砦。付近には村が一つと巨大な森がある。この砦の目的は村の護衛と森の監視。魔物がどれだけ潜んでいるかも分からず、過去には魔族の姿も確認された森は人々の恐怖であった。


そのためそこそこの人員が配置され、常に警戒体制をとっている。しかし、今回はタイミング悪く警備兵の交代時に魔物が襲撃してきたのだ。


帝国軍領に多くの兵が向かい手薄な瞬間を狙ってきた。それほどの計画性を持ってたのか、それとも偶然か。


いや、どっちだって良い。今はそんなことはどうでもいいのだ。被害が広がり、砦の壁も破壊されている。


「ぐ...」


腕と足が折れ、血も止まらない。自分はもう終わりだろう。見上げるほど巨大な一つ目の魔物、通称「サイクロプス」。獅子と山羊、蛇のキメラ。その他にも下級クラスの魔物が武器を振り回し、兵の鎧を貫いていた。


仲間も大勢殺され、地面に横たわっている。救援もなく、ここまでよく持った方である。罠を使い、魔法を使い、数多の兵が全力で戦った。


もう限界だ。この砦は落とされるが帝国軍領に侵攻する時間を遅らせただけましだろう。


ズン、ズン


サイクロプスの赤い目がこちらを見下している。いつも見下ろしてきて嫌な生物だ。薄気味悪い笑みを浮かべ腕をこちらに伸ばしてくる。


「ぐ...く...」


ミシミシ


掴まれただけで嫌な音が鳴る。


メキメキ


「が...あ...」


乱暴に持ち上げ、サイクロプスは楽しそうに笑っている。人間は小さな玩具、すぐに壊れる玩具。でも壊すのが楽しい。そんな笑み。


「…!」


だんだんと力が強まり身が締め付けられる。呼吸も出来ず、首から上以外の感覚がなくなっていく。


「ぐ…く…」


<壊滅:熱雷>

<矜恃:東風>


「グガアァァァ!」


握り潰されそうになった瞬間、空から落ちてきた二人にサイクロプスは叩きのめされる。頭部をハンマーで殴り潰され、腕は細切りにされて落ちた。


「おい、大丈夫かてめぇ」


ヲルタナに抱えられた兵の鎧はひび割れ、血が混じっていた。何度声をかけても目は虚ろで呼吸も浅い。


救援…か…


数日の戦いの中、何度も救援を願った。そして、結局誰も来ずこの砦は崩壊した。魔物を止められず、このまま皆死ぬのだと、そう思っていた。だが、神は見捨てなかった。兵の防衛によって村を集中攻撃されていない。ここからが反撃の時なのだ。


「村を...頼...む...」


かき消えるほど小さな声でそう言い、兵は力尽きた。民のため、その未来を託し兵は眠った。


「くそ!」


ズン、ズン


嘆き悲しむ暇などない。別のサイクロプスが数匹、壁の向こうからこちらに近づいて来ている。


「ちっ...少しは大人しくしやがれ」


兵を地面に横たえ、ヲルタナは立ち上がった。


「グガァァ!」

「ギシシシ」

「ピィィィイ」


多種多様な叫び声に耳が痛くなる。


「フィール、さっさと片付けるぞ」


「僕に命令するなと言っているだろ」


武器を構えた二人は魔物を正面から捉え、余裕の笑みを見せた。


<幽玄:閃光の矢>


「ぐあ、目があぁあぁ」


「全く、美しすぎて目が痛くなるよ」


天から振り注いだ矢が爆散、光が辺りを照らした。突然のことにヲルタナとフィールは目を塞ぐことも出来ず、視界が奪われた。


「グガアァ...!」


「ギシャ...!?」


「ピ...?」


魔物達も同様で目を抑えて苦しんでいる。


メキッ


「グガ...!!」


<闘魂:鬼百合峠>


そこへ容赦ない拳を叩き込み、サイクロプスは一瞬で消滅した。


<幽玄:四連氷命の矢>


空中に放たれた矢が空気を凍らせ、広範囲に氷柱を降らせた。鋭利な先端は重力に伴って加速し、悶え苦しむゴブリンやハーピーの体を貫く。


「ギシャ...」


「ピィイ...」


「ユウキ、ナイス」


ピッと親指を立てるユキに手を振った。一瞬で消滅させたサイクロプスだが、中級クラスでありそこそこの強敵である。それにも関わらず、一撃で沈めるユキは流石としか言えなかった。


「目がアア」


「美しさに目をやられたね」


まだ視力の戻らないヲルタナとフィールがうるさい。そんな様子を見て二人は笑った。


「あぁ...見えてきた...」


「美しさに慣れてきたな...」


ズン...ズン...


「ガルルル」


まだサイクロプスの地響きも続き、キメラのうなり声まで聞こえてくる。


「まだいるみてぇだな」


「醜い生き物達だ」


「後方から支援します」


「よーし、やるよ」


真剣な表情であるが余裕はあった。埋め尽くすほどの魔物を前に臆することなく突っ込んでいく。


「うらぁああああ!」


ガキン!


ヲルタナのハンマーでキメラの攻撃を弾き、フィールのレイピアが正確に足を斬り裂いた。


「ガウ!」


<幽玄:氷命の矢>


バキン!


斬り刻まれても再生し、暴れ出そうとした瞬間、前足はびっしりと氷で貼り付けられる。当然動けない。

「やああああ!」



防ぐ術を失ったキメラはモロに拳を喰らい、はるか遠くへと転がっていった。




ーー

ーーーー


<同時刻、チイナ村>


グルー砦の南東に位置している村。土地の質もよく潮の流れも良いため、ここでは漁と果樹園で生計を立てている者が多い。人口は千はいるだろう。そこそこ大きな村のため、警備にも人数を割く。


「ギシャァァ!」


「グガアァァ!!」


村の周辺には多数の魔物が群がっていた。しかし、村は巨大な障壁(バリア)に覆われており、魔物の攻撃を弾いている。どれだけ多くの魔物が攻撃しようともビクともしていない。


「ふむ...この障壁、総司令のものか...」


魔物達が蠢くなか、一人の男が考え込んでいた。見た目は好青年、中華風の模様が刻まれた鎧に身を包み、腰には剣を装備している。そして、赤く光る目が障壁を睨んでいた。


「一体いつまで粘るのか…」


男は剣を抜き、勢いよく踏み込んだ。


ガキィイィィン!


しかし、甲高い音が鳴るだけで剣は弾かれてしまう。


「ここ数日ずっと攻撃しても破れないとは...恐ろしい。だがもうじき魔力も底を尽きるだろう」


その時を狙えばいい。粘られたのは誤算だが、時間の問題なのは変わりなかった。


「ギ...」


「うるさいです...よ」


振り返ると先ほどまでいた魔物が一匹残らず消滅していた。何かに攻撃された音もせず、忽然と姿を消していた。


下級から上級までそこそこの数がいたはずなのだが。


「どういうことだ!」


「ねぇ魔族さん」


耳元で聞こえた声に反射的に剣を振るった。しかし、空を斬るだけで手応えはない。


「こんにちは、私の名はQ。序列八のリュウビ…で合ってるよね?」


目の前に立つ少女は小さく、その目は透き通っていた。吸い込まれるような不思議な感覚。明るい声なのにどこか恐怖をはらんでいる。


「貴様がこれをやったのか...?」


「うん、そうだよ」


Qは余裕そうな笑みを浮かべてそう答えた。


まさか…音もなくそんなことが…


「出来れば穏便に済ませたいの、今日のところは帰ってもらえない?」


何を言い出すのかと思えば...


「断ったらどうする」


「戦うよ」


Qの表情は変わらずニコニコと笑っている。しかし、こちらから目を離すことはなく、しっかりと警戒している。


「でも無駄な戦いはしない方が良いと思うの。私は貴方を倒せないし、貴方も私を倒せない。だから穏便に済ませるのが一番だと思うけど...?」


二人の間にそよ風が吹いた。両者共に何も言わず、相手の目を見て動かない。


この女…総司令であることは変わらない。


リュウビの手は少し震えていた。数々の戦場を経験し、総司令を葬ってきた魔族でさえ、底しれぬ不安を覚えたのだ。


ガキン!!


一瞬で背後に回ったリュウビの剣をQの障壁が防ぐ。


「人間風情が...舐められたものだな」


「君もその人間だったんでしょ」


人間如きに恐怖した。その敗北感、そして強者への挑戦心。リュウビは魔族でありながら己が持つ剣の重さを覚えていた。


<神絵:火の槍(ヒートランス)


Qは筆を抜き、赤色の絵の具を空に描いた。塗られた部分は槍に変形しリュウビを追尾する。

「ふっ!」


体をよじり、一つ一つを切り落としていく。


この女は危険だ…だが…逃げるのは以ての外だ!


<神絵:水の槍(アクアランス)


今度は水色が一面に塗られ、槍が降りそそいだ。


「まさか...複数の属性を持つ者なんて何百年と生きたが初めて会うぞ」


<神絵:雷の槍(ボルトランス)土の槍(ガイアランス)


「これは魔法じゃないよ、ただの絵」


二振りで別々の色が空を覆った。隙間もないほどの槍が降り、リュウビに迫る。


「はあああ!」


剣に力が乗る。次にどの槍を落とせば良いのか考えるよりも先に体が動く。


全方位から放たれる槍は次々と斬られ、絵の具となって宙を舞う。


「ぐはっ...」


しかし、あまりにも多い槍はリュウビの足を貫いた。深々と刺さった瞬間に槍は絵の具に変わっていく。傷口から血が噴き出し、一瞬の隙が生まれた。Qは滑り込むようにリュウビに接近し、筆で軽く小突いた。


「ぐ...ああああ!!!」


その瞬間鎧は紫色に変色し、皮膚も同じ色に染まっていく。それと同時に血管が浮き出て、リュウビは痙攣した。


<神絵:混沌の鉤爪(ダークバインド)


続けざまに足下を黒一色で埋め尽くす。地面から浮き出てくる手がリュウビを掴み、そのまま地面に引きずり倒した。


「き...さま...」


「お休み」


人差し指で額を小突くと空気が振動し、リュウビは白目を剥いて動かなくなった。


「これで捕獲出来たかな」


ぐったりと寝そべっているリュウビを見下し、Qはそう呟いた。

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