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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
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白馬の上

魔物の襲撃から三日目、帝国軍領付近の村や砦の避難は完了し居住区の割り当ても終わった。しかし、まだ問題は山積みであった。


大陸のはるか南側、帝国軍領から数日かかる位置にも村や砦は存在する。伝令などはまだ届いていないが魔物の襲撃があったと考えた方が良いだろう。既に複数の兵が動いているがそれでは遅い、

そのため高速で移動出来る”第三軍”に声がかかった。


「Qさん」


「なに~?」


二頭の白馬が上空を駆けていた。バサバサと羽毛を降らし、馬車よりも速い速度で目的地へと向かっている。


「これってどのくらいの時間で着くんですか?」


「二、三時間かな~」


前方に見える大きな山を見てQはそう告げた。普通なら迂回する必要があるほど大きな山、通称<オルクスの山>。今は白馬が低空で飛んでいるがその気になれば一瞬で超えることも可能だそうだ。


「ん?」


不意にQが地面を覗いた。まばらにある木の中、小さくて見えづらいけど人がいるような気がする。


「伝令かな~降りてみよう」


ガクンと急降下し山の(ふもと)へと舞い降り始めた。


「...?!」


やはり頭から降下するやり方には慣れない。ぐんぐんと加速し激突しそうな勢いだ。しかし、地面に着く瞬間にふわっと衝撃を和らげ、無事に着地する。もっと怖くない降り方ないものだろうか。


「あぁ、なんだ!」


「突然なんだい!」


着地の風圧で男二人はよろめいた。


「キュオオオン」


「こんにちは~君達は伝令かな?」


白馬は前足を大きく上げ、甲高い声で鳴いた。突然の事態に男達は驚き戸惑っているようだ。


「その赤い目、てめぇも魔族か!」


しかし、一人の男は武器を抜き、白馬とじゃれ合っているQ目掛けて突進した。女と間違えるような華奢な見た目とは裏腹に野太い声とバカでかいハンマーがQに迫る。


<壊滅:熱雷>


赤く燃えたぎるようなオーラを纏い、重さを無視した攻撃。


「な...!」


攻撃は空中で止まり、弾かれる。Qは白馬とじゃれ合ったまま男に視線すら送っていない。無防備な背中を向けたまま頭を撫で続けている。白馬もデレデレとした表情でさして気にしていない。


「フィール!」


「僕に指図しないでくれ!」


もう一人の男も武器を抜き突進した。レイピアと呼ばれる細身の剣を構え、男が担いだハンマーを足場に飛翔する。レイピアはしなり、一挙一動に意識が行き届いて美しかった。


「うらぁぁぁ!」


「はあぁぁぁ!」


<壊滅:界雷>


矜恃(きょうじ)東風(こち)


回転を加えたハンマーが下段を狙い撃ち、上空から見えない連撃がQに叩き込まれた。


「はっ...!」

「な...!」


しかし、全ての攻撃が空中で弾かれQには全く当たらない。空気を切り裂いたハンマーも唐突に止まり。レイピアを弾かれた男は静かに着地した。


そんな一連の攻撃を気にも止めていなかったQはようやく振り向き、二人はその気迫に臆し距離をとった。


「Qさん大丈夫ですか?」


「誰だ!」


「こらこら、仲間同士なんだからそんなに殺気立たないの」


「仲間...?」


ユキとユウキの装備を見て帝国軍所属であることが分かったのか二人の動きは止まった。


「私は三軍総司令のQ。あなた達の所属は?」


「Q...てめぇが」


男は驚いた表情で数秒固まった。少しの間沈黙し二人は顔を見合わせた。そして。


「ちっ...悪かった」


「僕も非礼を詫びよう」


武器を収めぶっきらぼうにそう言った。


「うんうん、休まずに伝令に走ってくれたんだから見間違えくらい仕方ないよ」


Qは二人を見上げ労いの言葉をかけた。


「俺様は九軍所属、ヲルタナだ」


「同じく九軍のフィール。Q総司令あまり長話は出来ない。ヴァン総司令が一人で戦っているんです」


「一人で?」


「はい、魔物達が隊列を組んで奇襲を仕掛けてきました。そのせいで砦も崩壊寸前、村にも魔物が侵攻している状態なんです...」


「それが三日前の状態だね?」


Qの問いに二人は無言で頷いた。三日前の時点でそんなにボロボロだったら今は...。ヲルタナもフィールも半分諦め、半分絶望の表情が見て取れた。


「すぐに向かわないとダメそうだね」


Qが筆を掲げると白馬がもう一頭現れた。一体どれだけの魔力を持っているのか疑問に思う。通常これだけ大きな生物を召喚するにはそれ相応の魔力とそれを維持する技術が必要になってくる。


単に馬のように走るだけなら良いが飛ぶ生物をポンポンと召喚するのは簡単なことではない。


「これで帝国軍まですぐに着くから、後は私達に任せて」


召喚された白馬も乗れといった表情で二人を見ている。この白馬の顔芸は見ていて笑えてしまう。驚きや悲しみや喜び、様々な表情でこちらに意思表示をしてくれる。


今の表情はきっとすぐに安全な場所に連れて行ってやるぜ、といった所だろうか。しかし。


「いや、俺様も向かう」


「僕も連れて行ってくれ」


ヲルタナもフィールも見ただけで疲れているのが分かる。きっと最小限の交代でここまで走って来たのだろう。だが目には闘志が宿っていた。


「疲れてるみたいだけど本当に行くの?」


二人は無言で頷いた。そんな覚悟に同調したのか白馬も真剣な表情でQに訴えかけている。


「まぁ、良いよ~」


Qは変わらず笑顔でそう答えた。


「よし、じゃあさっさと行こうぜ」


Qが答えるのと同時にヲルタナは白馬に跨がった。


「ふっ...そんな乗り方、美しくないな」


「あ、良いから乗れよ」


「僕に指図するなと言っているだろ!」


ぎゃーぎゃーとうるさくなって疲れているのか元気なのか分からない。


「仲が良いねぇ」


そうかな...?


「じゃあユウキ、私達も行こう?」


「あ、うん」


全員が白馬に乗り、ユウキとユキは身構えた。また勢いよく飛翔する...。しっかりと手綱を握り、遠慮がちにでもユウキにしがみつく。そして。


「おぉすげぇ!」


「これは...素晴らしいね!」


空高く舞い上がった瞬間、ヲルタナとフィールは笑顔でそう言った。


なんで楽しそうなの...!


ぐんぐんと上昇する白馬にしがみつき、ふわりと安定すると顔を上げた。山の頂上付近、地面の木が小さくなった地点で白馬は水平に移動し始めた。


「ところでまだ名前聞いてなかったよな」


ヲルタナの白馬がこちらに近づいて来た。そういえばゴタゴタしていて名乗っていなかった。


「三軍所属のユウキです。よろしくお願いします」


「同じく三軍のユキです」


「ユウキにユキ、紛らわしいな」


それはそう思う。早口で言われるとどっちが呼ばれているのか分からない。


「しかし、三軍はQ単独だと聞いていたが...?」


「えーっと...」


「私が二人を見込んで引き入れたの」


なんて言おうか悩んでいるとQがそう答えた。


「三軍に認められるなんて君たちはどうやら僕に匹敵するほどの強者らしいな」


前髪をさっと撫で、フィールは自信満々にそう言った。


「けっお前なんか普通だろ」


「荒々しい君は黙っていたまえ」


仲が良いのか悪いのか...不思議な関係の二人だ。すぐに喧嘩口調になるのに先ほどの戦闘では完璧なコンビネーションを見せてくれた。


「ねぇユウキ、あれ...」


ぎゃーぎゃー騒ぐヲルタナとフィールも何かに気づいたようだ。


遠方に見える砦と村。砦の方は煙が立ち、時々炎が上がっている。村の方は巨大な障壁(バリア)に覆われていた。


あの障壁...まだ望みはある...?!


「スピード速めるよ」


ギュン!


Qの号令で全体の速度が加速し、あっと言う間に山を越えた。一刻も早く向かわないとまずい。ユウキは手綱を力強く握り、村の方向に目をやった。

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