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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第三章 グルー砦編
20/71

一文字違い

バタン


ユウキは木製の扉を閉め、城下町へと降り立った。まだお店にも人だかりがあり、広場も賑やかだ。


えーっと...


通信機を操作し地図を表示する。現在地と三軍の本部はそれほど遠くはない。ゆっくり歩いても夕方までかからないだろう。早速向かおうか...。


歩きだそうと顔を上げた時、見覚えのある白いケープマントと黒髪が見えた。


ユキだ


おそらく三軍の本部へ向かっている途中なのだろう。ユウキは駆け寄り声をかけようとした。


「モグモグ...」


ユキは大きな綿あめを口にしながら花屋を眺めている。黄色、赤、青。色とりどりの花がユキを出迎えていた。


「ユキ」


「ひゃい!!」


「あ、驚かせてごめん」


ユキは振り返り、パチクリと目を見開いている。


「ユ...ユウキ」


ユキは慌てて立ち上がった。戦闘時はあんなに荒っぽい攻撃をするのに、今は小さな口で綿あめを頬張っている。


「えへへ、本部に向かおうと思ったら小腹が空いちゃって」


カァっと頬を赤らめ、ユキは綿あめを頬張り続ける。


「良いんじゃない、まだ時間もあるしゆっくりしてこう」


ユウキのその言葉にユキは小さく頷いた。


「花を眺めてたけど、好きなの?」


「うん、眺めてると落ち着くし綺麗だから」


そう言ってユキは花飾りを手に取った。ピンク色の小さな花が連なっている。ユウキもしゃがみ込み花飾りをよく見た。


「これはねサーシスって花をモチーフにしたものなんだって」


「サーシス...?」


「そう、なんか珍しい花らしくて。実際に見たことはないの」


ユキの目には少しだけ悲しみがあった。ユキも同じで何かに思いを寄せていないと気が気じゃないのだろうか。そんなことを考えながらじっと見つめていると不意に目が合った。きょとんと首を傾げ、ユキは笑った。


「いつか見れると良いね」


「そうだね~」


ユキはモグモグと綿あめを口にしている。


ぐううぅ


「あぅ...」


「ふふふ、ユウキも何か食べよ?」


「そうする...」


クスクスと笑うユキに今度はユウキが頬を赤らめる。よくよく考えれば図書館に籠もりっぱなしで何も食べていなかった。恥ずかしさから逃げるようにユウキは立ち上がる。


「甘いものは平気?」


「うん、よく食べる」


「へぇー意外、じゃああれ食べよ」


「いちご大福?」


「そう!最近できたらしいの」


キラキラと輝くユキに連れられ二人は店へと足を運んだ。戦闘時や姉を抑えている時とは違った雰囲気にユウキはたじたじであった。


「普通の大福でも美味しいのにいちごって」


「見た目はそれほど変わりないけど...?」


店に並ぶ大福を眺めて二人の期待は高まっていく。ユウキもユキも甘いものに目がない。一つずつ買い、顔を見合わせる。


白くて丸々とした見た目は普通の大福と変わらない。粉がパラパラと舞っており、触感はもちもちと柔らかい。


一体どんな味なのだろうか。


パクッ


「...!!」


「...?!」


いつものあんこの味、そして甘いいちごが強調される。


まさか...これ...!


衝撃を受けた二人は恐る恐る視線を落とす。半分だけ食べた大福の中にイチゴが丸々一つ入っていたのだ。かじられたイチゴは薄い赤色でこちらを見上げていた。


嘘...こんな...!


イチゴ味じゃなくて、イチゴ丸々なんて。期待を上回る衝撃、しかし驚いている暇などない。もう一口、もう一口。そうしてあんことイチゴの甘さに誘惑され、一瞬で完食してしまった。


「旨い...」


「なにこれ...」


食べ終えてようやく言葉が出た。それほどまでに衝撃的であった。


「ユウキ、口に粉ついてる」


「そっちこそ」


少しの沈黙の後、二人は笑い合った。自然と笑みがこぼれたのは二日ぶりだったと思う。悲しさを紛らわせようとしていた期間では考えられないことであった。


「見て、あれも美味しそう」


ユキが次に目をつけたのはチョコバナナだった。外の熱気で溶けかかったチョコとまばらに振られた甘い装飾が魅力的だ。


ただのバナナでさえ幸福を感じるのにオプションが付いたらどうなってしまうのだろう。

気がつけばユキは両手にチョコバナナを持ち、ユウキの前に立っていた。


「はい」


「ありがとう」


ニコッと笑うユキからチョコバナナを受け取った。すると。


「ママーあれ見て~」


「あれは、Q総司令だ」


「おぉおぉ!」


急に歓声が沸き、広場の面々は空を見上げていた。ユキとユウキも視線を上に向ける。モグモグ...。


空には大きな白馬に乗るQの姿。白い羽根と角が輝き、聖獣と呼ぶにふさわしい白馬はゆったりと広場に舞い降りた。


「やっほ~皆元気だった?」


開口一番、Qは空に向けて筆をなぞる。赤、青、緑...無数の色がはじけ飛び形をなしていく。羽根が生えたネコが泳ぎ、子供達の側に寝転んだ。


「ネコちゃんだ!」


「かわいい~」


キャッキャとネコに群がり、幸せそうな顔で眺めている。モフモフとした尻尾、羽根、毛並み。撫でられたネコはゴロゴロと寝転んでいる。


「おぉお」


「芸術的だ...」


一方、大人達は空に描かれるオーロラ、森の中に潜む泉、精霊が遊ぶ光景に魅入っている。青空と太陽はいつの間にか消え、Qの創造する絵の世界に飲み込まれていた。


「凄い」


「綺麗~」


ユウキとユキも描かれる壮大な世界に魅了されていた。


キラキラと光る絵も相まって、人々は一種の催眠状態に陥っていた。Qを崇め称えるとまではいかないが希望の眼差しで見つめている。


いつ日常が終わるのか分からない不安。明日には死んでしまうかもしれないという恐怖。そんな人々の中に積もっていた感情が洗い流されているような気がした。


「おぉお!」


「Q総司令~!」


「絵のお姉ちゃん~!」


一際大きく描かれた花火に広場は拍手と歓声で満ちた。どよどよと買い物をしていた人も生き生きとしだし、店の人の声も大きくなっていく。


ただ集まり、重苦しい空気をしていた広場は瞬く間に活気を取り戻した。


「カッコイイ...」


同じ事を呟くユウキとユキにQは気づく。白馬を降りこちらへと歩み寄ってくる。小さな足をちょこちょこと動かすが姿勢は堂々としていた。


「ユキとユウキだね?」


「そうです」


「はい」


二人の返事にQは微笑んだ。ユキもユウキも視線を落とすほどQは小さい。それなのに住民を鼓舞する姿は大きかった。


「長話は本部でしようか」


Qは筆を取りだし、さっと空を撫でた。キラキラと光を放ち、白馬が構築されていく。透き通るような白い羽毛が舞い散る。


「さあ、乗って」


「キュオオン」


乗って、という眼差しがQと白馬から注がれる。なんだこの馬、言葉が分かるのか。困惑する二人を他所にQは別の白馬に乗った。


「えぇ...」


たどたどしい手付きで白馬に掴まり乗る。


「ユキ」


「え、あ、うん」


白馬をまじまじと見つめていたユキは不意に顔を上げる。しっかりと手を握り軽々と引っ張りあげ後ろに座らせる。意外と小さな手で少し驚いた。


「ありがとう」


「しっかり掴まってて、どう動くか分からないし...」


どのくらいの衝撃で飛ぶのか分からない、手綱みたいなのはあるが心許ない。ユウキが不安で一杯の中、白馬はバサバサと羽ばたき始める。


ギュッ


遠慮がちにユキはしがみつく。


「キュウオオ!」


直後、数回羽ばたき地面を離れる。ほんの少し低空を維持した後今度は颯爽と空へ舞い上がった。


「しゅっぱーつ」


楽しそうなQに続いて白馬は空を蹴った。


バサバサッ!


あっという間に上空にたどり着き、先程の広場も小さくなっている。


「ユキちゃん、ユウキ君と呼ぶことにしよう」


一文字違いでややこしいからね、とQは頷いている。手綱こそ付いているものの白馬の上は安定しており、握りしめている必要はない。Qものんびりとした姿勢で揺られている。風も思ったより強くなく心地良い。


「二人ともなんで三軍に呼ばれたか分かっていないっぽいね」


くるりと向き直ったQの目は赤と緑。魔族と変わらない赤色の目のはずなのに優しい。そして、引き寄せられる透明感があった。


「気まぐれなのもあるけど、後継を育てなきゃいけないと思ってね。期待してるんだよ」


薄く笑ったQに対し、ユウキ達の顔は引きつる。自分たちに期待されるようなものはないのに、二人共そう思った。



そんなやり取りをしている最中、 白馬は急下降し始めた。


「え、これ頭から降りてくの!」


「嘘...」


振り落とされることはないと分かっていても怖いものは怖い。小さな屋根が大きくなる。



ユキの抱きしめる力も強まってくる。

ミシミシ


折れる折れる折れる折れる折れる折れる。


「きゃぁぁあ!」


あぁぁぁぁ!


ぐんぐんと加速する白馬は頭から地面に突っ込んでいく。


「とうちゃーく」


「キュウオオ」


地面すれすれで翼を大きく広げ、ふわりと着地した。白い羽根が舞い散り、白馬は首を振る


「よしよしお疲れ様」


頭を撫でると白馬は満足そうな顔をして消えた。


「ユキちゃんもユウキ君も大丈夫かい?」


「えぇ...まぁ」


「大丈夫です...」


最初から最後まで衝撃もなく、優しい飛行だったが最後の景色だけは何とも言えない。高速で頭から突っ込んでいくとは。しかし、速さは確かであり、普通なら一時間ほどで着く場所に数分で到着した。


「こっちだよ」


促された本部に目をやるとQらしい飾り付けがされていた。鳥?蝶?。断言できない不思議な形をした模様が様々な色で描かれている。


芸術はよく分からないけど、ついつい見てしまう。何色も混ぜ合わされた扉を静かに開け、Qは手招きをしている。導かれるまま中に入ると白い明かりが二人を迎え入れた。


「ここが今日から君たちの過ごす場所だよ」


あっちがお風呂で~部屋はこっちで~キッチンは~。他の本部と変わらない広さが綺麗に整頓されている。一人のはずなのに...綺麗好きなのだろうか。Qは楽しそうに二人を案内してくれる。


<ユウキの部屋>


<ユキの部屋>


一文字違いなのを配慮してか青っぽい扉と赤っぽい扉で区別されていた。


「前使っていた部屋の物は丸々移しておいたから、不安だったら確認しておいて~」


Qは手を振りキッチンの方へと歩いていった。丸々移しておいた、いつの間に?疑問を浮かべたまま扉を開けた。


「えぇ...」


どうやったのか分からないが以前使っていた部屋がそっくりそのまま移されていた。ベッドの横にあるランプの位置、本棚の並び方、全く同じ状態で移されていたのだ。ユウキもユキも部屋から出ると顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。


「ご飯作るから集まって~」


Qの言葉で共にキッチンへと向かった。

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