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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第二章 エーヲ村編
16/71

ギルバの想い

「はぁぁぁ!」


<絶夢:五月雨>


「ギュアァ.......」


 静かに佇むギルバとユウキの元にロイが勢い良く現れた。

 炎の壁を突っ切りキメラの死体がばら撒かれながら消滅していった。


「なかなか強かったな.......」


 中級クラスの魔物をたった一人で倒したロイは、こちらに気がついた。


「ギルバ総司令、避難は大方終わったそうだ」

「あぁ分かった、なら俺らもそろそろ脱出しないとな」


 ロイが近づいて来るのを見て、ユウキは急いで涙を拭った。

 少しだけ目元が熱かったが平静を装い、それがロイにバレているのかは分からなかったが、フラフラと立ち上がった。


「歩けるか?」

「ありがとうございます......」


 ふらりと一瞬だけ体が揺れたのを察知し、ギルバとロイは肩を貸してくれた。

 小さく頷くのもやっとな程しか力が残っていない。

 ぐるりと辺りを見渡す、村の炎は未だに燃え、心なしか勢いも増しているような気がする。


「ロイ、ユウキを頼む」

「了解」

「テラ、まだ掛かりそうか?」


”ーーーーー”


 ギルバは通信機に声をかけるが炎のせいで上手く会話が出来ないようだ。

 何度も声を出し、困り果てた顔で歩き回っている。

 ガチャガチャと鳴る鎧を見てロイとユウキは佇んでいた。

 不意にユウキは魔物が消えた場所に何かが落ちているのを見つけた。


「何かある......」


 ロイに支えられながらも一歩ずつ進み、近づくにつれて落ちている何かが鮮明になってくる。


「リボン......?」


 ピンク色の小さなリボンが土と混ざっていた。

 汚れているが魔物化した少女のものであることが分かる。


「助けられなくてごめん......」


 リボンを拾い上げ、優しく包み込むように握りしめて呟いた。

 ロイはただ黙って見つめている。

 ここで何があったのか想像するのは容易だったからだ。


「ユウキ......」


しばらく沈黙が続く。怒りや悲しみ、己の無力を嘆き悲しむ。かつてロイも陥った負の時期である。今、ユウキの感情が過去の自分に重なっている。


”ロイ!ロイィィ!!”


求められた助けに答えられない悔しさ。ただ呆然と幼馴染みを連れ去られた過去。ロイには痛いほど理解出来た。過去の自分が求めていたことはなんだろうか...。落ち込み、絶望するユウキを止めるには...。


「なぁ...」


ズン!!


ロイが声を発した瞬間、激しく地面が揺れ、ロイの言葉は打ち切られた。ギルバもユウキもその衝撃が生まれた方向を凝視した。砂煙のせいで何も見えないがピリピリと嫌な感じが刺さる。



一、二秒の沈黙の後、砂煙は突然燃え消し飛んだ。村を囲む炎よりも赤く熱い炎は広がり続け、ユウキとロイに迫った。


「下がれ!」


<仁王:霊斧>


「ぐ...ぐ...」


ギルバの斧は炎とせめぎ合う。一歩も引かず一歩も進まず、そんなギルバを二人は見つめていた。巨体に守られているはずなのに熱が肌を焼いていく。


「ぬあぁぁぁ!」


気合いと共にギルバは斧を振りきった。風圧は炎を巻き込んで四散し、跡形もなく消えていく。炎が消えたことで嫌な雰囲気の元凶がその姿を現した。


「ん?この雰囲気、総司令か?」


短めの金髪、黒い軽鎧に赤いマント。黒い槍は禍々しい炎を纏っている。そして特徴的なあの赤い目が冷徹にこちらを見つめていた。


「ジャンヌ...」


ギルバの呟きにユウキは目を見開いた。目の前に立っている女騎士からはマリーと違った恐怖が感じられた。



序列六.ジャンヌ



テラが話していた最古参の一人である。


「お前は...!」


驚く二人の中、ロイだけは違った反応を示した。怒り、いやもっと深い憎悪。普段は冷静なロイが突如走りだした。


「ミルを返せ!」


「ロイ待て!」


ギルバの制する声も届かずロイは大きく前に跳躍した。


「威勢のいいことだ」


ジャンヌはロイの胴体を目掛けて勢い良く槍を突き上げた。高速で突かれる槍に寸分違わないタイミングでロイは刃を当てる。そのまま更に跳躍しジャンヌの頭上から連撃を加えた。


<絶夢:菜種梅雨>


ロイの攻撃がジャンヌの頭に当たった瞬間、甲高い音を鳴らして刃は折れてしまった。バラバラと細かい破片を散らせ、ロイの思考は止まる。スローモーションのように世界は変わり、赤い目がゆっくりと動き始めた。パチリと大きな目が少しずつ少しずつロイへと動く。


「面白い武器を使うな」


ニヤリと笑い、同時に視線が合う。


ゾワッ...


ロイの背筋に寒気が走った。目も眩むほど光る赤い目に吸い込まれていく。六年。幼馴染みを連れ去られてからずっと訓練に励んでいた。全てはこの魔族を倒すため、幼馴染みを救うため。


しかし、動けない。思うように体を動かせない。ただ重力に任せて落ちていくだけであった。ジャンヌは攻撃態勢に入り、こちらへ体を向け始める。


ミル...


”ロイ!!”


一瞬だけ諦めかけたロイに呼応して頭に声が響いた。忘れるはずもない彼女の声。咄嗟に体を翻し、空中で回転する。


胸を目掛けて突かれた槍は微妙に進路を外し、ロイの肩を貫いた。


「ぐあぁ!」


深々と刺さり血がジャンヌにかかる。貫かれたままロイは掲げられた。ジタバタと動くも足も手も届かず、折れた刃では何も出来ない。


「ふん!」


<仁王:閻斧>


ギルバは一瞬でジャンヌの背後をとり重い斧を振るった。胴体を横に、斧は何の障害もなく通過した。


「お前が総司令だな?」


ジャンヌは全く動じずロイを投げ捨て、ギルバへ向き直った。血も出ておらず鎧も損傷していない。斬り落とされもせず平然としている。


「まさか...斬った瞬間から再生したのか」


ジャンヌは不適な笑みで返した。


「ユウキ、ロイと逃げろ!」


<仁王:剛斧>


叫ばれたユウキは体をビクッと震わせた。ギルバは斧を振るい、強烈な攻撃を叩き込んでいる。一方のジャンヌはのらりくらりと避ける。


「早くしろ!」


ギルバの催促の声を聞き、ユウキはできる限りの速度で走り出した。ギリギリと腹に痛みが走る中、走り続けた。よたよたと遅いが必死でロイに駆け寄る。


「ロイ、大丈夫?」


「ぐ...う...」


ロイの装備は焼き壊され、刺された肩は赤黒く変色している。周りの皮膚も焦げて黒くなっていた。


「ロイ!」


「ユウ...キ...?」


痛みに耐えようと呼吸が荒くなっていた。上半身をゆっくりと起こし二人はギルバを見た。


「...!」


「あっ...!!」


ポタポタ...


ギルバの左肩をジャンヌの槍は捉えていた。ゆっくりと血が滴り鎧を染める。


「その歳で総司令なんて帝国軍も落ちたものだな」


「誰のせいで戦ってると思ってんだよ!」


<仁王:剛斧>


片手でも難なく斧を振るうとジャンヌは後ろへ飛び退いた。斧は重苦しい音を奏でて地面をえぐり取る。怪我をした左腕を回しギルバは深呼吸をした。


「ロイ、ユウキ。逃げるのは止めだ、しっかり見てろ」


炎の勢いが増しどこも出られそうな感じはしない。熱さも限界に近づいていく中、ギルバは斧を構え直した。


「どうした?部下に良いところでも見せたいのか?」


「そんなカッコイイことは出来ねえな」


<仁王:星斧(せいふ)


振り上げた斧に閃光が走る。キラキラと星のようなものが浮かび上がり、斧を肩に担いだままギルバは突進した。


突風が吹き荒れ、ギルバの姿も消える。勢いを殺すことなく斧を振り下ろすギルバ、ジャンヌはそれをじっくりと見つめていた。右肩から斧は入り、胸、左腰を通過して斬り伏せる。


が、斬った瞬間から鎧ごと再生していき先ほどと同様無傷であった。


「無駄だと分かってるだろ」


「ふん!」


<仁王:剛斧>


地面に刺さった斧を土ごと薙ぎ払いジャンヌの首を狙う。回転した遠心力のまま横に一閃した。ズン!ギルバの足の音が大地を揺らした。それほどまでに強く踏み込んだ重い一撃。


ジャンヌの首は宙を舞い、燃えさかる炎の中に埋もれた。


「...!」


ロイもユウキもその光景に目を見開いた。一瞬で再生していたジャンヌが再生しない。ただ呆然と体がそこに立っている。しかし、次の瞬間二人のお驚きは恐怖へと変わった。


「気が済んだか?」


首元から細かく肌が現れていく。口、目、頭と徐々に再生し元の顔がニヤリと笑った。


「今度はこっちからだな」


サラサラと綺麗な髪が揺れる。ふわりと柔らかな印象から一変してその攻撃は脅威そのものであった。捻るように突き出した槍はギルバの左腕を狙った。


「...!!」


グチャ...


鎧の壊れる音を通り超し、肉が千切れる音が響き渡る。ギルバの左腕は関節からブチブチと捻り取られ、大量の血を辺りにまき散らした。


「ふふ...」


絶句したのも束の間、ジャンヌの槍はギルバの右足を狙った。金属音を鳴らし装甲を無理矢理貫いて深くまで刺さる。間髪入れずジャンヌは回転し内部から足を引き千切った。


「ぐああぁぁああ」


「ああ、痛そうだな」


バランスを崩したギルバは絶叫を上げ膝から崩れ落ちた。斧を地面に刺し体のバランスを保つ。手も足も大量の血が流れて痛々しい。


常人なら間違いなく気絶しているダメージを負って尚ギルバはジャンヌを威嚇していた。


「この程度なんて興が削がれるな」


「...」


槍がギルバの目の前で煌めく。どす黒い炎が一層激しさを増した。ゆっくりと槍を振り上げ、ギルバを見下す。


<幽玄:閃光の矢>


二人の間に矢が走る。矢は破裂し激しい光を放った。ジャンヌは突然の事態に少し驚いた様子であった。


<絶夢:栗花落>


ロイは残った片方の刃を向けて突進した。青く澄んだ目はジャンヌの頭をロックオンしている。ぐんぐんと加速し固まったままのジャンヌの左頭を貫いた。


「お前ら...」


「ギルバさん、俺らも戦います」


<絶夢:五月雨>


<幽玄:二連焔の矢>


ロイとユウキの連携がジャンヌを襲った。矢に貫かれて燃え、四肢を斬り刻まれる。しかし、その瞬間から再生を始めていく。


「目障りだな」


ジャンヌの槍がロイへと狙いを定めた。


「ぬあああ!」


ギルバはその瞬間斧を使って飛び込み、ロイの前に覆い被さった。


ズ...


槍はギルバの腹を貫きロイの目の前で止まった。勢いよく槍を抜かれ、おびただしい血が溢れた。


「が...は...」


「部下思いですね」


何の感情も感じられない冷徹な目と声。人の心なんて微塵も感じられない。ギルバはふらふらとしながらロイの顔をじっと見た。そして、弱い力で押し退ける。


「見てろ...」


覚悟を決めたような目だった。ギルバは斧に支えられながらなんとかジャンヌに向き直る。


「ロイ、ユウキ...託すぞ...」


「人間の感情論に付き合うほど暇じゃないんだ」


うんざりした顔のジャンヌは槍を構えた。


「...!」


しかしジャンヌの動きはすぐに固まる。そして不気味な笑みを浮かべ目が光った。


「少しは楽しめそうだな」


「...」


ジャンヌは武器を下げギルバの様子をじっと見つめた。


「詳しい話は...他の奴らに聞け...お前らなら出来るはずだ...」


ギルバは俯きながらそう言った。ロイもユウキも何のことか分からなかったがその意味はすぐに理解することになる。


第七感覚(セブンセンス)...」


小さく呟いたギルバの周りに光が溢れていく。黄金の光が力強いオーラに変わった。やがてオーラは何かに形を模し、武器、体を作り上げていく。取れた腕、足も置き換わりギルバの背後に巨大な化身のようなものが見えた。


<第七感覚:力滅金剛力士>


筋肉質な化身は金色(こんじき)に輝き、ギルバと連動して棍棒を構えた。


「素晴らしい、どのくらい保つのか見物だな」


「...」


ギルバは黙ってジャンヌを睨んだ。

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