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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
第二章 エーヲ村編
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一人の矢

 一方、ロイの戦場とは真逆の方向にて、ユウキは幼い悲鳴を聞きつけて走っていた。


「ママぁぁ!」


 ようやく見つけた声の主は、横たわる死体を揺すり、泣き叫んでいた。

 そんな幼い子を取り巻いている魔物の目は血に飢え、不気味な笑みを浮かべている。

 オオカミとゴブリン、下級クラスで小型だが少女にとっては大きな脅威である。


「ママ......パパ......」


 ボロボロと落ちる涙に声も震えている。

 泣き疲れもう声を上げることも出来ない。


「ギシャアァ!」

「......!」


 近づいてきたゴブリンがにたりと笑い、手斧が振り上げられた瞬間少女は目を瞑った。


「ギッ......!」


 短い声の後に倒れ込むような音が聞こえた。

 カラカラと金属が落ちるような音、恐る恐る目を開けると先ほどの魔物の姿は消えていた。


「ウゥ......?」


「ギシャ......?!」


 少女を囲んでいた魔物の目はどこかに集まっていた。

 少女も視線の先を見てみる。

 そこには武器を構えた男がいた。


<幽玄:風輪の矢>


 ユウキは矢を装填し放った。

 空気を切り裂き、ゴブリンの頭を射抜いていく。

 呆気にとられていた魔物も正気を取り戻し攻撃に転じた。


「ギシャァァ!!」

「ピィィィ!」


<幽玄:四連焔の矢>


 燃えるように赤い矢は、上空を旋回するハーピーに二本、ゴブリンに二本命中し一気に燃え広がった。

 羽が燃えたことでハーピーは墜落し、ゴブリンも火を消そうと地面を転がっている。

 その隙にユウキは矢を装填し、追撃を開始した。


<幽玄:三連雷雨の矢>


 バチバチと音が鳴りゴブリンの間に電気が走る。

 雷撃は一瞬で魔物を燃やし尽くし焦げ臭いゴブリンが次々と倒れていった。


<幽玄:閃光の矢>


 燃え広がる業火と電撃に加え、激しい光で視界が塞がれた魔物たちは、完全にパニックに陥っていた。

 ユウキは素早く装填し、今度は別の矢を放った。


<幽玄:四連氷羽の矢>


「ギャウ!」 

「ピィ!」


 氷が弾け、舞い散る羽のように辺りに降り注いだ。

 パニックになっている魔物たちに、氷を避ける暇などなく、脳天を貫かれたものから次々と消滅していった。


「ふぅ」

 

 ひとしきり悲鳴が木霊した後、気がつけば群がっていた魔物の数も減り、センサーにも反応はなくなっていた。


 ユウキは立ち上がり少女へ駆け寄った。

 泣き疲れた少女は虚ろな目でユウキを見ていた。


「大丈夫?」

「ひっ......!」


 少女の目はユウキの武器に張り付いていた。

 怯えた表情に変わり、ゆっくりと後退っていく。


「あ、怖がらせてごめん。大丈夫、僕は君の味方だよ」


 武器を収め、少女の目線までしゃがみ込み、努めて優しい笑顔で言った。

 怯えた目線がユウキの顔や手、足、装備を忙しなく動いていく。

 パチリと目が合うと少女の視線は止まった。

 黒い目は色を失っていた。


「あう......うぅ......」


 ボロボロと泣き始める少女をユウキは抱き寄せた。


「あぁぁ......ママ......パパあぁぁ」


 震える少女の体は小さかった。

 泣き叫ぶ姿を見て、ユウキはただ何も言わずに抱きしめた。


“お兄ちゃん”


 ズキリと頭に痛みが走った。

 明るい声で何度も呼ばれた言葉。


(誰だろう......思い出せない......)


 とても馴染みのある声であることは分かるのに、その人物の顔も名前も出てこなかった。


「うぅ......ひぐ......」


 嗚咽混じりの少女の声にユウキは現実に戻された。

 今は記憶のことは置いておかないといけない。

 すぐ目の前まで火の手が迫り、ここも安全ではない。


「歩ける?ここは危ないから皆の所まで行こう」


 少女は目を擦り、顔を上げた。

 赤く腫れた目と煙で薄黒くなった頬を向け、小さく頷いた。


「よし、じゃあはい」


 ユウキは背を向け乗るように促した。

 小さな手が肩に回され、少女の体が預けられる。


「あうっ......!」

 

 しかし、掴んだ手は離され少女の体は横に大きく倒れ込んだ。


「どうしたの、大丈夫?!」

「あ......あぁ......」


 苦しそうに悶え地面を転がっている。

 ユウキは急いで少女に駆け寄り、抱きかかえる。


”魔力探知”


 その瞬間、少女の体から次々と魔力が溢れ出しセンサーがうるさく反応した。


「......どうして?!」

「あ......が......イギ......」


 焦るユウキとは裏腹に少女の苦しそうな声が続く。


「これは......?!」


 ユウキはそこで首元に刺さっている何かに気がついた。

 針が付いた瓶のような、小さく赤い見た目をしているものが、ドクドクと音を立て、少女の中に謎の液体を注入しているように見えた。


「あ......あぁぁぁぁ!!」


 メキメキと骨が軋む音が響き、少女の顔が溶け始めた。

 腕と足は歪な形になって伸び、穴だらけのゴツゴツとした見た目に変わっていった。


「そんな......」


 顔の造形は崩れ、大きく開く口と禍々しく光る赤い目、少女の可愛さは微塵も残っていなかった。


「ギィアアアァァァ!」


「ああぁ......!」


 至近距離から雄叫びを食らい、ユウキは後方に吹き飛ばされた。


「魔物化......どうして」


 よろよろと立ち上がり、かつて少女だったものを見る。

 体はみるみると肥大化し、ゆうに二メートルを超える化け物と化している。


「ギギ......?」


 赤い目がユウキを見下ろした。

 ぞくりと背筋を撫でる、魔物と同じ目をしていた。

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