理由
「ロイ、ユウキ。無理に戦闘する必要はない。避難するための時間を稼げ」
「了解」
「分かりました」
村は、入り口の炎は消えても今だ業火に晒されている。
三人が進む先は家も焼け落ち、悲鳴と魔物で埋め尽くされていた。
「あぁぁあ!!」
あちこちから悲鳴が聞こえる。
ゴブリン、オオカミ、人の顔と鳥が合わさったハーピー。
ライオンとヤギの頭に尻尾が蛇のキメラ。
三メートルを超える一つ目の巨人、サイクロプス。
下級から中級クラスの魔物が蔓延っていた。
「いやぁぁぁ!」
悲鳴の先では、サイクロプスの手に掴まれた女性は必死にもがいていた。
足をばたつかせ、手を必死に叩く。
しかし抵抗も虚しく、口に運ばれている。
「やだぁぁぁ!」
<仁王:剛斧>
ギルバが抜いた斧はサイクロプスの足を一振りで両断した。
更に空高く飛び上がり腕を切り落とす。
「グォォォ!」
空中で女性を抱え、片手でサイクロプスを両断した。
一瞬のうちに巨大な体はバラバラとなって崩れた。
ガシャ
着地すると重々しい音が鳴った。
「あ......あぁ......」
肩から下ろされた女性は、ショックで放心状態に陥っていた。
「安心してくれ、もう大丈夫だ」
そう言い、ギルバはニカッと笑ってみせた。
その笑顔のお陰か、女性の虚ろな目に少しだけ光が戻る。
「あ......ああ......ありがとうございます......」
震えた声でそう言うと女性はペコリとお辞儀をした。
「入り口まで行けば保護してもらえる。歩けるか?」
ギルバの問いに無言で頷き、女性は足を引きずって入り口へと向かった。
「うわあぁぁ!!」
まだ悲鳴は続いている。
ロイとユウキは悲鳴の方向へそれぞれ走り出した。
群がったゴブリンに殴り殺されている者。
ハーピーの歌声に苦しみもがいている者。
村の中心は、入り口よりも悲惨な状況であった。
(殺しを楽しんでるのか......)
ロイの目に映る魔物の顔は生き生きとしていた。
どうやって殺そう、悲鳴を聞くのが楽しくて仕方ない。
そんな感情が読み取れた。
「元は人間だったのに......ここまで変わるのか......」
両刃剣の剣先を地面に突き立てロイは跳躍した。
「ギギ!」
「ニンゲン......!」
「ひぃぃいいぃ!」
<絶夢:五月雨>
男に群がるゴブリンに刃を突き立てて更に跳躍し、首を斬り落としていく。
続けざまの五連撃で、辺りにいるゴブリンは全て斬り伏せられた。
「た......助かりました......」
「村の入り口に護衛が待機してる。早く逃げろ」
刃についた血を払い、ロイは冷静に言った。
一人を助けて安心は出来ない。
まだまだ魔物だらけだ。
ふと、今しがた倒した魔物に目がいく。
バラバラと光になって消滅し、残骸として武器や鎧が残っている。
「ミル......」
魔物は人間が変異したもの、だからこそロイには躊躇してしまう時があった。
もしも魔物になっていたのがかつての友人、恋人、家族だったら、そう思うと剣が鈍ることがあった。
ロイは胸にしまったお守りに手をやった。
帝国軍に入る理由は人それぞれだ。
魔物の殲滅、守りたいもののため、自分の過去を知るため。
命をかけるほどの覚悟で皆ここにいる。
(俺は......)
ロイの目的はただ一つ、行方不明になった幼馴染みを探すためだ。
燃えさかる村の中心でロイは自分の過去と重ねていた。
幼馴染みを失った日もこんな燃えさかる光景が広がっていた。
「ギシャ!」
「ピイイイイ」
「グォオォオオ!!」
地獄なのは変わらない、だけど一つだけ違うことがある。
ロイは武器を構え直した。
群れる魔物の鳴き声と地響きがロイに迫ってくる。
(あの日から俺は強くなった......)
ズシズシと重い足音を響かせ、サイクロプスが一頭、こちらに近づいてきた。
鋭い刃を突き刺し、ロイはまた上空へ飛び上がった。
サイクロプスの豪腕が真横をかする。
体をひねって躱し、器用に腕を斬り刻んで進んでいく。
<絶夢:栗花落>
「グォォォ!」
勢いよく目に突進し、サイクロプスは頭を大きく仰け反らせた。
目を抑えようとする両手の間を跳び退き、今度は足に狙いを定めた。
「はぁっっ!!」
<絶夢:菜種梅雨>
地面に着地した瞬間、四連撃がサイクロプスの両足を斬りつけた。
そのまま両足の間を抜けて背後に回り込み、背中に向かって一撃を叩き込んだ。
<絶夢:栗花落>
「倒れろ」
「ガァ?!」
強烈な衝撃により、サイクロプスは膝をつき、大きな隙を見せた。
ロイはすかさず跳躍し首元に狙いを定めた。
「全力でいく、はぁぁぁ!!」
<絶夢:寒九ノ氷雨>
両方の刃は加速し両側から何度も攻撃を加える。
あまりの速さで怒濤の九連撃を叩き込み、また上空へ飛び上がる。
「まだ切断出来ないか......なら、もっと......もっと速く!」
回転を加え急降下を開始する。
サイクロプスは手を闇雲に振るも、剣に触れた瞬間に切り刻まれ、大量の血が噴き出した。
<絶夢:山茶花時雨>
脳天に一撃を加え、そこから十二連撃が始まる。
ズタズタに裂かれた首から滴る血、外皮は破れ赤い内部が見えていた。
「ガアァァァァ!!」
叩き込まれた斬撃によって顔はボロボロに裂け、首は呆気なく落ち、バラバラと音を立てて消滅していった。
「ギ......?!」
「ピイイイ?」
強力な魔物が打ち倒され、ゴブリンもハーピーも後退る。
ロイを包囲している魔物の数は多いが個々の戦闘力は低い。
明らかに怯えているのが見てとれた。
「どうした......怖いのか......?」
ロイは再び血を払い、冷静にそう言った。




