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完璧で超人で最強の元カノ  作者: Leica/ライカ
序章
1/71

失われた過去

2025年8月8日より順次改稿作業をしていきます。話を変えず、読みやすい文章構成にしていこうと思っているので、ブクマなどしてお待ちいただけると嬉しいです。最新話も作成中です。

”ごめんなさい...私たち...別れましょう?”


 別れ、その言葉に強い衝撃を受けた。

 夏の暑い夕方、記憶の中にある彼女は悲しげな顔をしていた。

 長い髪が風に揺れ、学生とは思えないほど綺麗な顔立ちに涙が流れていた。


(そこまでは覚えている......)


 ユウキは暗い闇の中、ゆっくりと上半身を起こし、木々の間からわずかに見える月の光に目を細めた。


「どこだろう...ここ...」


 目覚めた場所は見知らぬ森の中。辺りはすっかり夜に包まれ先が見えない。


「なんで......うっ.....!」


”ごめんなさい......実は…...”


 一瞬だけ聞こえた元カノの言葉。でもそれ以上は思い出せない。

 激しい頭痛でこれ以上頭を使うのが苦しい。

 辛うじて出てくる記憶は自分がフラれた時のことだけである。


(どうして......なんでこんな嫌なことしか覚えてないんだろう)


 ユウキは溜め息を吐いて立ち上がった。

 ザッと鳴る地面にここが現実であることを再認識させられる。

 風が冷たい。暗くて何も見えない。頭だけじゃなくて体全体がだるい。


(あそこだけ明るい......)


 よく目を懲らすと木が生えていない広場のような場所が見えてきた。


「はぁ......はぁ......」


 針で刺されたような痛みとむず痒さに悶え、近くにあった木に体を預ける。

 おぼつかない足取りで進もうとするも木から木へ伝わないと倒れてしまいそうだった。

 手を伸ばしやっとの思いで広場に到達すると支えをなくしたユウキは地面に仰向けで倒れた。

 暗くてじめじめとした森の中でも空が見えれば解放的な気分になってくる。

 地面は冷たく、昨晩は雨が降っていたのか草には少しだけ雨粒が残っていた。

 目を閉じれば自然を肌に感じられる。落ち着いた雰囲気に先ほどまでの痛みはいつの間にか忘れていた。


「あれ......?」


 ゆっくりと目を開け、そこでユウキは違和感を覚えた。

 左目が見えない。

 先ほどまでは暗闇のせいで視力に気づかなかったが明らかにおかしい。

 試しに自分の手を広げてみる、右方向にある時には見えるのに、左に通過した時点で姿を消す。

 何度試しても結果は同じであった。左目の視力を失っている。


「見え......ない......」


 突然見知らぬ場所で目覚め、左目も見えないという事実にユウキは一瞬息が止まった。

 目元まで手を近づけたり、触ってみても見えない。煌々と光る月も首を傾げると見えなくなる。

 体を起こしぐるぐると周りの景色に目をやっても左目に映るものはない。

 風で飛ぶ木の葉、道にばらまかれた小石。そのどれもが映らなかった。


(なんで......)


「グルル......」


「......!」


 風も弱く静かな森の中に木霊した獣の声に、ユウキは振り返った。

 木々の隙間から僅かに光る目が細く、鋭くこちらを見つめている。

 だんだんと姿を現した獣の正体は、一匹のオオカミだった。

 全身が黒い毛で覆われ、赤い目はこちらを獲物と認識している。

 オオカミは低い位置からこちらを見上げ、すでに戦闘態勢に入っていた。


「オオカミ......!」


 薄明かりの中、ユウキは目を逸らさず徐々に後退し始める。ゆっくりと、しかし、かすかに足は震えていた。


「ガゥッ!」


 オオカミの短い威嚇にユウキの体は止まる。

 逃がさない、動くな、そう言っているような気がした。

 刺激してはまずい、恐怖の中で嫌に冷静な自分がいた。

 何か手はないのか、打開策を求めて視線は動いてく。

 四方は薄暗い木が広がっているだけで特別目立ったものは見当たらない。


ガシャ......ガシャ......


 その直後、オオカミの背後からのっそりと近づいてくる二足歩行の化け物に気がついた。


「ギシシシ」


 全身緑色の皮膚、人間では小学生くらいの小柄な体格。壊れかけの鎧、血濡れた剣はボロボロに折れ、目と耳が異様に細長く不気味であった。ギョロギョロと赤い目が動き、楽しそうに笑っている。


「な......なに?」


 明らかに異形、人間とは似ても似つかない存在。


「エモの、獲物ダ」


 化け物がニタリと笑った瞬間ユウキは背を向けて走り出した。明らかにやばい。

 赤い目、あの目はヤバい。獲物を殺すことに、楽しみを見出している目だ。

 ユウキは走った。左目の視力を失い、それでも尚、真夜中の森を駆けていく。

 後ろから迫り来る音が聞こえないほどユウキは神経を張り巡らせていた。


「はっ!はぁ!」


 僅かな距離しか見えない暗がり、気を抜けばすぐにぶつかってしまう。

 それでも月の光を頼りに迫り来る木々を避けていく。


「ガウッ!!」

「あっ!!!」


 が、それほど走らずオオカミはユウキの肩へ到達していた。飛びつかれた衝撃でユウキは地面に倒れ、耐えがたい激痛に襲われる。


「あぁぁぁ!!!」


 耳元でブチブチと千切れるような音が聞こえた。

 オオカミは容赦なく噛みつき、ユウキを乱暴に転がす。

 どれだけ暴れても背後にいるオオカミに触れることは出来ず、暴れるほど噛みつく力は強まっていく。


「こ......のっ!」


 ユウキはオオカミと一体になり地面を暴れていく。

 動き回るうちに木に体当たりし一瞬噛む力が弱まった。

 ユウキはその隙を逃さず無我夢中で手足を動かした。

 その時、偶然にも蹴りが入り、オオカミを引き剥がすことに成功する。


「キャウッ」

「う......く......」


 痛い。動かない。ユウキは肩を押さえ木にもたれ掛かった。

 目線を上げる頃にはオオカミは体勢を整えこちらを警戒していた。

 手負いと言えど真正面から無闇に攻撃はしない。

 されど相手の隙を待つ姿はやはり狩りのスペシャリストと言える。


「獲物、ツカマエタか?」


 にらみ合っている内に先ほどの奇妙な化け物が追いつき、不気味な笑みをこちらに向けてきた。


(逃げるのは無理なのかな......どうしたら......)


 緑の化け物は、折れているが剣を持っている。

 あれをなんとか奪えればここを打破出来るかもしれない。

 幸いにも体格差はこちらが勝っている、頑張ればもしかすると。

 そう思った矢先であった。

 最初は一つ、ポッと小さな光が遠方に見えた。

 そして一つ、また一つと徐々に夜の森を埋め尽くしていく。


「そん......な......」


 十、二十と増えていく光は、全て松明の炎であった。

 持ち手が照らされ、緑の皮膚が見える。全てあの化け物だ。

 手斧、槍、鉄球、折れている物もあれば形を保っている物もある。


「エモの」

「ニンゲンだ」

「ギシシシ」


 個々は小さく非力な生き物。 しかし、これだけ群れていれば関係ない。

 ガチャガチャと装備を揺らし、血塗れ、錆びた武器を振り回している。 


「く......」


 肩から流れる血のせいで意識がボーッとしてくる。

 傷口を抑えると手にべったりと血が付着した。

 だんだんと近づいてくる化け物の目を見て、ユウキは震えた。


「ギシャッ!!」


 前列の三匹が一斉に飛び掛かってきた。

 赤い目がこちらを捉え、振り上げた手斧が月の光を反射している。


「......!!」


動け......ない


”私に任せて”


「ギュッ......」

「ギャッ......!」


 立ち上がろうとしたユウキの前に何者かが立ち塞がった。

 そして瞬く間に空中の三匹は弾き飛ばされ地面を転がっていく。


「大丈夫ですか......って、ユウキ?!」

「る......ルナ......?」


 見上げたユウキの目にはかつての元カノの姿が映っていた。

 長い黒髪、丸い目、誰でも安心感を覚える優しい顔。

 ルナは手に小型のナイフを持っていた。

 思いがけない再会にルナも驚いているようだ。

 目を思い切り見開き、黒い瞳がじっとユウキを見つめていた。


「ニンゲン...マタ...人間だ!!」


 ルナの登場に化け物達は嬉しそうな顔をしていた。

 容姿端麗、華奢な体、温厚な雰囲気を見て舐めているのだろう。

 ギシャギシャと笑う声がうるさい。


「待っててユウキ、すぐに終わらせるから」


 それだけ言うとルナは化け物の大群に向き直りナイフを構えた。


「ルナ......」

「私に任せて」


 後ろ姿しか見えなかったがルナは笑っているようだった。


「ギィシャ!」

「ギィアア!」


 化け物は血で汚れきっている剣を振り下ろす。

 その勢いにユウキは焦ったが、心配は無用であった。

 ルナは滑らかな足取りで動き、頬すれすれで剣を避け、そのままの遠心力で化け物の側頭部を貫いた。


「ギエ......」


 まるでバレエのような軽やかな回転に戦闘とは思えない美しさがあった。


「ギャア!!」


 仲間を殺された怒りから一匹の化け物がルナへと突進してきた。

 血だらけの手斧が当たる瞬間、ルナは後方回転しながら化け物の顎を蹴り上げた。

 脳を揺さぶられよろける相手にルナはすかさずナイフを突き刺し、心臓を貫かれた化け物は力なくその場に倒れ込み絶命した。


「ギュ...…」

「ギイッ!」

「もう......多いな」


 仲間が死んでも怯むことなく、今度は同時にルナへと迫り来る。

 槍、斧、剣、多種多様な武器を用いていたが、ルナにはなんの脅威でもなかった。

 槍を避けた瞬間投げ技に派生し、いとも簡単に小さな体が投げ飛ばされる。

 斧をナイフで受け流し、肘打ちを顔面に叩き付ける。

 剣を手からはたき落とし化け物の胸に手を添える。


「はっ!」


 直後、ほとんど手を動かさずに相手を派手に吹き飛ばした。


「ギュウ......」

「......」


 誰もが沈黙せざるを得なかった。

 同時に多方向から攻めたはずなのにこの惨状。

 足運び、威力、華麗さ。その全てにおいて完璧だった。


「ねぇ、まだやる?」


 ゆったりと静かな、それでいて相手を威圧する声。

 ビリビリと空気が揺れ、全員が無意識に後退した。


「ギ......ニゲロ!」


 一匹がそう叫んだ途端、全体は松明の火を揺らしバラバラと森の奥へと消えていった。


「ふう......」


 ルナはナイフを払い血を落とした。

 くるりと振り返った彼女は少し笑っていた。

 あれだけ武器が迫り、あれだけ死を直面にしてどうして笑っていられるのか。

 ユウキには理解出来なかった。


「ユウキ、大丈夫?」


 近づいて来たルナは肩の傷を見て少し驚いた様子だった。


「あぁ...うん」


 少しぼーっとする。もう痛みは気にならない、強いて言えば寒いくらいだ。


「ちょっと待ってて」


 そう言うとルナは自分のスカートを切り、止血を始めた。

 テキパキとユウキの肩、胴に布を回しきつく縛る。


「っ......!」


「あ! ごめん、痛かった?」


「いや......大丈夫、ありがとう」


 焦った表情をしたが、お礼を言うと少し微笑んだ。

 ルナは笑うと目が細くなる。それを見るとドキリと胸が高鳴った気がした。

 それに傷の処置も早く、本当に何でも出来るんだと感心した。


「ユウキ」

「何......?」

「ここに来た時のこととか何か覚えてない?」

「うーん......」


 上手く思い出せることがフラれたことだけとは言えない。

 どうでも良いことは覚えているのに大切な部分だけがすっぽりと抜けていた。

 どう答えようか迷うユウキをルナは真っ直ぐに見つめている。


「何も覚えてない......」

「そう......」


 ルナはその答えを見越したような顔をしていた。


「私も覚えていないの......」


 そこで二人は沈黙した。

 どこまで覚えているのかなんとなく聞きづらい。

 本当に自分達は別れたのかと疑問に思えるほど自然に話せている。

 男女の違いなのか、ルナはちっとも嫌な表情を見せない。

 それとも別れたことさえ覚えていないのか。

 どう話したら良いのか、どう接したら良いのかユウキには分からなかった。


「ユウキ、とりあえずここから出よう?」


「あ......うん」


 ルナの言葉に思考から意識を戻す。


「ふふっ、考え込んじゃう癖まだ直ってないんだね」


 ルナはクスクスと笑っている。

 確かに自分は考え込むと固まってしまう。

 周りの声も聞こえないほど集中してしまうのだ。

 指摘されてなんとなく顔が熱くなった。


「ほら、立てる?」


 白く、あまりにも細い手がユウキに差し伸べられた。

 元恋人だからとか、そんなことを考えているのは自分だけなのか。

 もうただの友達なのか。分からない。

 ルナは何も感じてなさそうに見える。

 ユウキは少し間を置き手を伸ばす。


「ねぇルナ......」


 ルナの手を握り立ち上がろうとした途端、ユウキの頭に耐えがたい痛みが走った。


「うっ......あぁ......!!」

「ユウキ?!」


 そのままルナへもたれ掛かるがだんだんと視界が暗くなっていく。

 ルナが何か言っているが言葉として認識出来ない。


「......!?」


 体は自由に動かないのに不思議と意識がある。

 暗い。何も見えない。


”よぉ、ユウキ”


 男の声、親しみのある、どこか聞いたことのあるような。


”あら、ユウキ君”


 女性の声。少し低い。上品な話し方。


”お兄ちゃん”


 幼げな少女の声。明るく、元気な。


(何だろう。聞いたことがあるはずなのに。名前も顔も思い出せない)


 学校。カフェ。映画館。公園。風景も映っては消え。でも見たことがあると確信出来ない。


”ユウキ......”


 目まぐるしく変わる風景が消え、暗闇の中でルナの声が聞こえた。

 悲しそう、ユウキにはそう感じた。


”もうすぐ......死んじゃうから”


(え......?)


 そこまで聞こえユウキの意識は途切れた。

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