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その4

俺は足跡を追って駆け出す。

目を凝らし、10mほど離れた足跡を視認する。

『縮地っ!』

俺の体は一瞬でさっき視認した10mほど先の足跡の元へ。

これがこの世界で俺だけが使える[時空魔法]の1つ、[縮地]。

視認できる距離なら一瞬で移動可能な[短距離ワープ魔法]だ。


俺は[縮地]を繰り返し、足跡を追う。

「きゃっ!」

「うわっ?」

「な、なんだっ?!消えっ?」

裏路地とは言え所々で人とすれ違う。ワープ魔法の無い世界なので、すれ違う人々の反応は皆一様だ。

『あまり目立ちたく無いが、仕方無いな!』

自分に言い訳をするが、注目を浴び、驚愕されるのは気持ちがいい。

前世は目立たない人生だったからなぁ。


そんな事を考えながら足跡を追っていたが、

「なっ?!」

路地を曲がった所で俺は立ち尽くす。

さすが大都会、街路の除雪が始まっており、足跡は消されていた。

「これじゃユウリちゃんを追えないじゃないかっ!」

慌てて俺は近くにいる人たちに、ユウリちゃんのこと、怪しい人間を見なかったかを聞き込んだが、結果は芳しくない。俺は焦燥感に駆られたが、

「…これ以上ココで出来ることはないか…。ユウリちゃん…くそっ!女将さんになんて言やぁイイんだ…。」


ーギリッー

俺は拐われて恐怖に怯えるユウリちゃんを想像して、強く奥歯を噛みしめる。

俺は姿を隠すように、人気のない路地の奥へ進む。

「ユウリちゃんにケガでもさせてたら…その時は…。」

ーッゴンッ!!!!ー


「うわぁっ!」

「な、なんだ!?地震かっ?!」

突如、付近を巨大な揺れが襲う。

大きな揺れに驚いた付近の住民が、外に出て辺りを確認すると、地面は揺れていなかった。

「地震じゃない…うわっ?!」

「なんだこりゃっ?!」

一軒の家の壁、堅牢そうな石造りの壁一面にヒビが入っている。

そしてその中心、一際激しいヒビが入った拳大の穴の中心が、赤く濡れている。

「これ…血か?」

「人が殴った跡…か?」

一体、どんな屈強な男が…。

人々は化け物のような大男を想像し、その凶暴性に血の気が引くのを感じたー。



「戻ったぞ、フィン!」

「あ、ソーヤ!おかえり!ユウリはっ?!」

「すまん、見失った…。縛った男はどこだ?アイツから話をー!」


ーカシャンッ!ー

部屋の奥で何かが割れる音がした。

「ユウリを…見失ったって?」

「お…女将さんっ!」

部屋の奥から女将さんが、俺の方へよろめきながら向かってくる。

おぼつかない足元とは反対に、その表情には鬼気迫るものがある。


「っこのっ…!」

女将さんの怒りは当然だ。

女将さんが拳を振りかぶるのを見て、俺は殴られるのを覚悟した。

ードンッー

「女将さん…?」

ードンッ…ドンッ…ドンッ…ー

顔面パンチを覚悟していたが、意外にも女将さんは俺の胸を何度も何度も叩き始めた。

その力は、がっしりした女将さんの体躯からは考えられないほど弱々しい。


何発か叩いた後、女将さんは俺に縋り付き、

「ユウリを…ユウリを助けておくれよっ!

でないと、でないとあたしゃ!

…あの子に会わす顔がないよ…。」

そう言うと、女将さんはそのまま床に泣き崩れた。

[あの子]とはユウリちゃんだろうか…?


俺は女将さんを抱えて近くの椅子に座らせる。

「大丈夫か?」

奥から女将さんを呼びに行くよう頼んだ爺さんが顔を出す。

「あぁ、爺さん、ありがとう。すまなかったな。」

「テウルスじゃ。」

「あ、テウルス爺さん、俺はソーヤ、ソーヤ・トゥエイン。運送屋だ。

さっきはありがとうな。」

俺とテウルス爺さんは握手する。


「で、テウルス爺さん、ここに転がしてた男はどこに?

ユウリちゃんを連れ去ったのは、アイツの仲間と思ってるんだが…。」

吐瀉物と血の跡は残っているが、肝心の男の姿がない。

俺の問いにテウルス爺さんは言いにくそうに、

「それが…実はな、誰かが憲兵を呼んだみたいで…男を連れてっちまった。」

「なんだってぇっ!!」

治安が良いんだか、悪いんだかっ!

「ソーヤごめんなさい…見とけって言われたのに…。」

「いや、お前は悪くないよ。」

俯いて小さくなっているフィンの頭を撫でて慰める。

実際、憲兵とフィンが揉めてたらと思うとゾッとする。


「じゃあアンヌ!アンヌはっ?!あの女、何か知ってるハズっ!」

俺は辺りを見渡すが、アンヌの姿はない。

「え?もしかして…。」

「あの女、いつの間にか消えよった。どこに行ったのやら…。」

えぇぇ…手がかりゼロじゃん…。

俺は椅子に座り憔悴している女将さんを見て、途方に暮れたー。


つづく


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