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その1

「寒い…。」

防寒具でモコモコのフィンが、ガタガタ震えながら俺にすり寄ってくる。

その頬を触ってみると、

「つめたっ!なんだオマエ、メチャクチャ冷たいなっ!」

俺は慌てて、防寒具から覗くフィンの頬を温めてやる。やはり竜は変温動物に違いない。

「しょうがないよぉ~。フィンは寒いトコも暑いトコも苦手なんだからぁ~。」

そう言うと、フィンは俺のコートの中に潜り込み、前ボタンを開けて顔だけ出す。

歩くたびにアゴにフィンの頭が当たって痛い。


ここは世界の北に位置する[カーマソール帝国]の帝都[ホルク]。世界一北にある大都市として有名だ。

今回の依頼主は、この街に住む[アンヌ・ルクネール]という女性。

荷物を預かって、それを世界をほぼ一周したレンブルト共和国へ届ける予定だ。

「ねー、ソーヤ。依頼主の家ってまだ~?」

「多分地図ではこの辺りのハズなんだけど…。」

俺は街の入り口でもらった地図とにらめっこしていると、

「あ!あそこに宿があるよ!とりあえず温まろうよ!」

「もうちょっと我慢して、多分この辺りー。」

「ヤダヤダ!凍えちゃう!凍っちゃう!」

フィンがジャンプして駄々をコネ始めた。

ジャンプの度にアゴに頭突きされて痛すぎるっ!

こうなるとフィンをなだめるのは不可能だ。

俺はため息をつくと、依頼主の家探しは諦め、足を宿屋に向けた。


「あったかぁ~いっ!」

「あ、おい!」

宿に入ると同時に俺のコートの中から飛び出すと、俺が止めるのも聞かずに宿屋の中を掛けていく。

「ったく…。しょうがねぇなぁ。」

「アンタの娘さんかい?可愛いねぇ。」

やれやれといった俺に、宿屋の女主人が声を掛ける。

年の頃は30前半、黒く艶のある長い髪を頭頂部で束ねている。

肉感的…というやつか?少しふっくらとした、肉付きのいい身体が服の上からでもわかる。

「…そんな風に見える?」

「違うのかい?」

「俺まだ18だぜ?」

「…落ち着いきがあって…か、貫禄があるってのかね…?」

女主人が目を逸らす。微妙なフォローが逆に胸に突き刺さる

前世でも故郷でも、老け顔とは言われていたが…。


「とりあえず、2晩ほど厄介になりたい。いくらだ?」

「あ、あいよ。部屋によるけど…部屋は一緒でベッドは1つでイイかい?」

「ああ。問題ない。」

「じゃあ、朝、夜2食付きで一泊2千ルースだね。」

「…少し負けてくれない?」

俺は防寒具も買って、さらに心許なくなった財布とにらめっこしながら女主人にお願いする。


「はあ…。ま、こんな真冬にホルクに来る客なんて珍しいしね、1500ルースでいいよ。」

「ありがとう、お姉さん!」

お姉さんと呼ぶには少しお年を召した女主人におべっかを言うと、女主人の気が変わらないうちに急いで1500ルースをカウンターに置く。

「部屋は2階の奥、階段はその廊下をまっすぐ行って突き当りだよ。夕食は出来たら声をかけるから、1階の食堂まで来とくれ。」

「ありがとう!」

俺のおべっかに満更でもなさそうな女主人に礼を言うと、俺はフィンを探しに宿屋の奥へ。


「さて…フィンはどこにーあ、いたいた。おーい、フィーン。」

フィンは廊下を曲がった所にある食堂の大きな暖炉にあたっていた。

「あ、ハヤト!ココすごくあったかいよ!」

「いいトコ見つけたな。よし、俺もちょっと温まろうかな。」

俺がフィンの隣で暖炉にあたろうとしていると、

「あれ?お客さんがもう一人?」

食堂の奥、厨房だろうか?そこから湯気が上がるコップを持った女の子が現れた。

年の頃は13、4、女主人にどこか似ているが娘さんだろうか?


「あ!ユウリ!これがハヤトだよ!」

「おーホントだ、イケメンだっ!」

「でしょ、でしょ。」

フィンはふふん、と自慢げだ。

「あ、フィンちゃん、これ。」

「わぁ、ありがとう!」

ユウリと呼ばれた女の子は、持っていたコップをフィンに渡す。


「サービスのホットミルク、お客さんもいかがですか?」

「ああ、ありがとう、いただくよ。」

「それとも、ホットワインの方がいいですか?」

「お、そりゃいいね!じゃあソッチで!」

「はーい、少々お待ちくださいねー。」

ユウリは少し短めのスカートの裾を翻し、厨房へと戻っていく。

俺がヒラヒラ揺れるスカートを眺めていると、

「んんっ!」

背後から咳払い。

振返ると女主人が俺を仁王立ちで睨んでいた。


「あ、あはは、可愛いコですね、娘さんですか?」

「そうだよ、可愛いだろう?アタシの若い頃にそっくりさね。」

「あー、わかりますー。」

「変な事すんじゃぁ、ないよ?」

女主人は俺に顔を近づけ、釘を刺してくる。そして、

「変な事がしたくなったら、アタシの部屋に来な。カギは開けとくよ。」

「ははは、考えときます…。」

耳元で囁かれるた俺は、女主人の熟女の魅力にたじろぐ。


「あ、そうだ。お姉さん、

この辺にアンヌって女の人住んでない?」

せっかくなので、女主人に依頼主を知らないか聞いてみる。

「アンヌ?アンヌ・ルクネールかい?」

「そうそう!そのアンヌさん。ご存知?」

「…どういう関係だい?」

俺をご近所さんに近づく不審者とでも思ったのか、じろりと睨んで疑いの眼差しを向ける。


「いやいや、俺の依頼人なんだよ!俺は運送屋で、アンヌさんの荷物を受け取りに来たんだ。」

「運送屋…。」

女主人は俺の職業に少し興味を引かれたようだがすぐに、

「アンヌさんの家ならここからスグだけど、ちょっと道が入り組んでて、わかりにくいかもね…。

明日でよければ、ユウリに案内させるけど、どうだい?」

「ホントにっ!?ぜひお願いするよ!いやぁ助かった。」

俺は女主人の申し出に感謝する。


「その代わり…アタシのお願いも聞いてもらえるかい?」

「お願い?まさか…夜部屋に忍び込んで来い…とか?」

「ばっ!?ばかっ!違うよっ!」

不意を突いたのか、女主人が顔を真っ赤にして否定する。

「それじゃあ、何を?」

「…運送屋なんだろ?運んでもらいたい物があるんだよ。」

神妙な面持ちの女主人に気圧され、俺は頷くしかなかったー。


つづく


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