死んだら神様がいた。
あー死んだ。
これは死んだ、死んだわぁ。
地下鉄のホームで靴紐を直そうとしゃがんだ瞬間、
連日の激務が祟ったのかめまいがして、
線路にポロっと落ちながら、
俺は冷静にそう思った。
『ま、そんないい人生でもなかったしな、別にいっか。』
そして、目の前に地下鉄のライトがー
はい、死にました。
と、思ったのだが、俺は目を覚ました。
「ココは…病院?」
「違います。」
「うわっ?!」
頭上の声に驚いて飛び起きると、そこには美人のお姉さんが浮いている。
「あ、失礼しました、アナタはどちら様ですか?それと、病院じゃないならココはどこでしょう?
私は地下鉄に轢かれたと思うんですが…。」
「私は神で、ここは転生の間です。ちなみに貴方は死にました。」
神と名乗る美人のお姉さんは、俺の疑問に簡潔に答える。
「転生の間…って事はもしかして…。」
女神様は俺の疑問に無言で頷くと、
「[廿日市宗弥]、貴方は人生を全うされました。」
「全う?事故死ですよね?」
「はい、貴方は貴方の人生を精一杯、しっかり生きられました。それが、全うした、という事です。」
「しっかり生きた…。」
俺は自分の人生を思い出す。
うまくいかない人生だった。
友達も恋人もいない、趣味もお金も時間もない、そんな人生だった。
頑張っても報われない事でいっぱいだった。
受験日に体調不良や書類の不備で志望校に行けなかったり、そんな不運もあった。
不景気や就職氷河期の中でも、サビ残と薄給と無休の超絶ブラック企業だったけど、何とか就職もできた。
イヤミな上司のパワハラや、同僚の嫌がらせにも挫けなかった。
そう、挫けなかったんだ。
そう思うと、自然と俺の目からポロっと涙が。
「しっかり生きたのですね。お疲れ様でした。」
「そうか、俺はしっかり生きたのか…。」
あの無為に過ごした毎日が、家と会社を往復するだけ(時には往復じゃなくて行きっぱなしだったけど)、食べて寝てウンコするだけの、ネットでもバカにされるような人生だった。
それでも、俺は、しっかり生きていたのか…。
涙が止め度なく溢れる。
「…初めて褒められましたよ、この人生を。」
ひとしきり泣いた俺は、涙を拭う。
「落ち着かれましたか?
さて、しっかり生きた宗弥さんには、ご褒美を差し上げます!」
「ご褒美…チートスキルですかっ?!」
「チートスキルになるかはわかりませんが…。転生先について宗弥さんのご希望をお伺いします。」
「おお、希望を聞いてもらえるとは…。」
「はい、全部を叶えることは出来ませんけどね。」
「いやいや、十分ですよ!そうだなぁ…。」
俺は今まで読んだラノベや見たアニメを思い返す。
「まず、世界観はファンタジーでお願いします。剣と魔法の世界、ってやつです。」
「はいはい、大丈夫ですよ。」
女神様は何かチェックシートに記入していく。
「せっかくなんで、魔法めっちゃ使いたいです!」
「はいはい。」
チェックをピン!
「それと、いじめられっ子だったんで、ケンカが強くなりたいです!」
「なるほどなるほど。」
チェックをピン!
「あと、ハンサムで高身長で高学歴で高収入でコミュ力も!」
「大丈夫ですよ~…って、後半は自分で頑張ってください!」
「ちっ、バレたか。」
だが一応、チェックはピン!してもらえた。
その後も髪の量やら健康面やら、色々リクエストし続け…。
「そろそろ、いい加減に、こんなもんで、もう十分だと思うんですが?」
なんか女神様の言葉の端々にトゲが生え始めた…。
「…怒ってます?」
「私はまだ怒ってません。
が、多くの神々は寛大だと言いながら狭量で、煽り耐性が低くてキレやすく、
一度キレると手に負えず、簡単に世界を焼き払ったり洗い流したりしてしまいます。
ですので、気をつけるようにしてください。」
女神様がニッコリ、口の端を引きつかせながら笑う。
さすがにここらが潮時か?そう思ったその時、
いや、まだあった!これは絶対だ!
俺はある魔法を思い出した!
「あ、あの!」
「何です?」
女神様がスゴく嫌そうに睨んでいる。
「ワープ魔法ってありますか?」
「ワープ魔法…瞬間移動の魔法ですか?」
「はい!時空魔法とか、僕の世界の物語ではポピュラーな魔法なんですが…。」
「あー、宗弥さんの転生予定の世界には無いようですが…。欲しいでー。」
「絶対くださいっ!!」
俺は食い気味に答える。
「わ、わかりました。宗弥さんだけのオリジナル魔法として付与しましょう!
ただ、本来魔法を作るのは私の領分ではないので、どうなるかはわかりませんが…。」
「ありがとうございます!」
俺の気迫に押された女神様が、チェックシートの下の方に何か書き込んでくれる。
「さ、もうこれで最後ですねっ?!」
「はい!すいませんでした!」
「では、廿日市宗弥、貴方は[ソーヤ・トゥエイン]として転生し、[ルデアソウト]で第二の人生を全うするのです!」
「はい!」
俺の体が光に包まれる。
「宗弥さん、いえ、ソーヤ・トゥエイン。貴方の人生が輝かしいものであるように!」
「ありがとうございます!」
光に包まれ、だんだん眠くなってきた。
あーこれが転生かー。
薄れゆく意識の中、そんな事を考えていると、
「二度と来るな!モンスター転生者っ!」
女神様の怒声が聞こえた。
やっぱり、怒ってたようだ。
つづく