表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/21

その14

「少し…困ったな。」

俺は痛くなった背中を庇うように、粗末なベッドで寝返りを打つ。

部屋は総石造り。コンクリ打ちっぱなしとは違い表面は切り出したゴツゴツのまま。素朴と言えば聞こえがいい。

壁の小さな明かり取りの窓という名の穴から、明かりと一緒に雪と寒気が取り込まれ、メチャクチ寒い。

窓枠に積もる雪に照り返される光を見て、何とは無しに蛍の光を口ずさむ。

だが、あまりの寒さに上手く歌えない。

歯の根が合わないどころか、ガチガチ鳴らしすぎて歯がすり減りそうなのだ。

ちなみに、歯をガチガチ鳴らすことをシバリングというそうだ。


見知らぬ天井を眺めながら、俺はそんな、どうでもいい事を考えていた。

ココは憲兵隊詰所地下の牢屋。

そう、俺はまだ脱獄出来ていない。

『#脱獄王に俺はなる__自分で出る__#!』なんて大見得切っといて情けない。

まあ、原因は大見得切ったせいなんだか。


クリスタシアが、俺を[脱獄の恐れあり]と上に報告したせいで、看守が常に4人、俺を凝視している。

そう、監視ではなく凝視だ。

ホント、御苦労なことだ。

しかし、結構な時間だと思うが、窓から差し込む明かりは一向に消えない。やはり、緯度が高い北都だからだろうか?

元社畜としては残業させられ放題で恐ろしい。


衆人環視ならぬ看守凝視の中、#長距離跳躍__ワープ__#で脱獄する事は可能だが、この世界で俺だけが使えるワープを人目にさらすのは得策じゃないだろう。

しかも相手は公僕だ。

一度見られたせいでワープを帝国に知られると、これ以降帝国内で仕事がしにくくなる。

そのため、今は牢獄の主になっている。

だが、看守たちとて人間。

必ずスキが出来るはず!

俺はその間隙を縫って脱獄を…。

『…さん!』

『……市…弥さんっ!』

『廿日市宗弥さんっ!!』


誰だ、俺の名前、転生前にの名を呼ぶのは?

って、いつの間にか眠っていたようだ。

目の前に美人なお姉さんが…。

『僕の名前をご存知とは、どこかでお会いしましたか?

いや、貴女ほどお美しい方を忘れるハズは…。』

「それは、初対面の女性を口説く用用のセリフじゃないですかっ!

私達逢ってますよねっ?!

これ以上ないぼどドラマティックにっ!!」

目の前の女性が思い切り突っ込んでくる。


「はは、もちろん冗談ですよ。」

俺は片膝を付いて敬意を表す。

「お久しぶりです、女神様。

ご機嫌いかがですか?」

「最高ですけど?」

眉間のシワとこめかみの青筋は、そうは言っていない。


「最高ですよ?

黙示録の七つのラッパとギャラルホルンをまとめて吹きたい位最高な気分ですけど?」

女神はメッチャ早口だ。

「…それは…なかなかにご機嫌ですね?」

「ええ、終末のダンスパーティのお相手は予約済みですか?

まだなら私が立候補です。」

「嫌ですよ、8つもラッパ吹いてる女性のエスコートなんて。

チンドン屋も真っ青ですよ。」

「そんな軽口叩けるのも今のうちですよ?」

そういうと、女神は袂から板状のモノを出す。

「何ですか、ソレは?」

「これは神々の通信機器です。神同士はこれでお互い連絡を取るんですよ。」

女神が得意げに教えてくれると、板状のモノを『パカッ』と開く。

え?ガラケー??

「えーっと、ヘイムダルさんの住所は…。」

「ちょ、ちょっと!どこに連絡取ろうとしてんですかっ?!」

俺は慌てて次元魔法[空間掌握(スチール)]でガラケーを奪い取ると、

俺の次元魔法[アイテムボックス]に収納する。


「ああっ!神々の連絡機器をっ?!

ホント、なんなんですか、その次元魔法って!?」

女神が俺に食って掛かり、胸倉を掴んでくる。

ちなみに、空間掌握(スチール)は、視認できる任意の範囲のモノを、

自分の手元に飛ばすことが出来る。

ただ、人間などの生物には使えない。


「な、何って!作ってくれたのは貴女じゃないですかっ!」

「私、魔法の創作は門外漢って言いましたよねっ?!

私がわからないからって、なんて魔法をっ!」

女神は次元魔法の事を怒っているようだ。

「確かに、この世界には無いからと作ってもらいましたけど、作ったのは貴女自身じゃないですかっ。

専門外だったからって、むしろ専門外なのに作る軽率な自分に非があるんじゃないですかっ!?」

と、詰問しようかと思ったがやめておいた。

神の逆恨み力は侮れない。


「ってゆーか、何の御用ですか?」

「人間が神の所有物を詐取出来る魔法なんてー!」

ヤダこの女神、人間の言う事聞いてくんない。

「ガラケー返せばいいんでしょっ返せばっ!?返しますよっ!」

俺はアイテムボックスからガラケーを出そうとー。


「ソレですよっ、そのアイテムボックスもっ!

何普通に使ってんですかっ!」

女神が胸ぐらを掴んだまま、俺の頭を細腕からは想像できない怪力で、もぎそうな勢いでガンガン揺さぶる。

「あっ、アイテムボックスがっ、ど、どうかしたんですかっ?」

「どうって!ソレもっ、次元をねじ曲げてますよねっ?!

ってゆーか、次元を越えてますよねっ?!」


ーアイテムボックスー

しれっと出てきたが、コレも俺専用のオリジナル次元魔法の一つで、

色々なモノをほぼ無限に収納可能だ。

ボックス内は時間が止まっているのか、食料の腐敗が進むことはない。

代わりに、生物は収納出来ない。


「ホント、チート能力にも程がありますよっ!

魔王と戦ってる勇者たちに与えたチート能力を超えてますよっ!」

ナント、この世界にはチート持ちの勇者がいるのか?しかも複数人も。

では、俺と同じような転生者が勇者として戦っているのだろうか?

しかし、何よりこの女神は何しに来たんだ??


つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ