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その13

「ワタシと組んでくれないか?」

クリスタシアは俺にそう持ち掛けた。

「組む?憲兵隊副隊長と殺人の容疑者が?」

「そうだ。」


「俺に何をして欲しいんだ?」

「え?」

「俺と手を組むことの、アンタのメリットが思いつかない。

なのにアンタは手を組みたいという。

ってコトは、アンタじゃ出来ないが俺には出来る[何か]があるんだろ?」

「ふふ、何だと思う?」

クリスタシアが微笑む。


「誤魔化すなよ。囚人の俺だからできる、アンタのして欲しい事ってのはなんなんだ?」

「ふぅー。」

クリスタシアは大きく息を吐くと立ち上がり、くるりとこちらに背を向けると、

「君は…この国をどう思う?」

随分おおざっぱな質問だ。


「どうもこうも…この街には来たばかりだし、この国のことはよくわからないが…。

そうだな、この街には初めて来たが、いい宿屋があるいい街だ。

子共をさらう悪いヤツらもいるが、一緒に助けようとしてくれる人もいる。

決して悪い街じゃないんだろうな、ってのが俺の感想だよ。」

俺はこのホルクに来て数日間の率直な感想を述べた。


「そうか…。

色々な国や街を見ている君にそう言ってもらえると、

この街を、国を守る人間としては嬉しいね。」

俺の感想を聞いたクリスタシアの背中は、嬉しそうに少し揺れる。


「だが、この国の為政者達は腐りきっている。」

クリスタシアの顔が険しくなる。

「たしかに帝都は美しく整備され、快適な住環境が提供されている。

だが、ココに来るまでに君も見ただろう、田舎の村々を。」

俺はさっきまで居た、雪に埋もれたテウム村を思い出す。


「帝都やいくつかの大都市には税金が大量に投入され、こんなに整備されているが、

田舎の村々は今日も雪に埋もれていることだろう!

税金は大都市にまわされ、村々は税金を取られるだけで貧しいままだ。」

クリスタシアの肩が震え始めた。

怒りからなのか、悲しみによるものか…。


「田舎の村々では生活が苦しくなり、帝都に出稼ぎに来る者も多いが、

中には税が払えずに、帝都で身売りする娘もいる状態だ。

君も知ってるだろう?」

ああ、知っている。アンヌの事だ。やはり、他にも同じような娘がいるのか…。

「しかも、この帝都には出稼ぎに来た者を借金漬けにし、身売りするように仕向ける輩までいる始末っ!」

それも知ってるよ、俺は今、そいつ等を追ってるんだ。


「さらにー。」

「もういいよ。」

「なに?」

俺はクリスタシアの演説を遮る。

彼女にはそれが不満だったようで、鋭い目つきで俺を睨む。

「アンタが今御高説を垂れてた話を俺は知っているし、

なにより、俺はその金貸し屋に用があるんだ。

知り合いの女の子がそいつ等に連れ去られた。俺は早くその娘を助けたいんだ!」

俺は現状をクリスタシアに説明する。


「…その金貸しが、我ら憲兵隊と繋がっている様なんだ。」

「えぇ?」

「君にさっき、[剣で刺したか?]と聞いただろう?」

「ああ。」

「あの男、ゴゥスは、胸を刺されて死んでいたんだ。」

「なっ?!じゃあ俺は関係ないじゃないかっ!」

「そうだな、君の[刺していない]という証言が正しければ、これは濡れ衣で君は無罪だ。

そして、モチロン私は君を信じている。」

「信じるって、なんで…俺たちはさっき会ったばかりなんだぞ?

もちろん、信じてくれるのは嬉しいが…。」


「悪いヤツかいいヤツか、目を見ればわかるさ。」

自信ありそうに話すクリスタシアが、得意げに話す。

「そんなの、勘じゃないか…。」

俺の不満そうな口調が気に障ったのか、

「勘とは、経験則の事だよ。

憲兵隊になって、私がどれだけの悪いヤツの目を見てきたと思うんだ?」


「う~ん…。」

もっともな意見に、俺は唸るしかできない。

確かに、勘とは経験から来る瞬間的な判断だ。

勘は経験値が上がるほど鋭く、正確になっていくものだ。


「この憲兵隊の中に、ゴゥスの死因を偽装して、君を牢に入れておきたい人間がいる。

恐らく…。」

「攫ったユウリを、どこかに売り払うまでの時間稼ぎのため…か。」

「そうだろうね…。」

「ますます早く助けに行かないとっー。」

「だが、君はココから出られない。

金貸しと繋がる憲兵隊は、君を中々出さないだろう。

なんなら、このまま殺人の罪でー。」

クリスタシアは自分の首を切り落とすジェスチャーをする。


「おいおい、無実の罪で死刑なんて、冗談じゃないっ!」

「それだけじゃない。牢屋の中で事故死として殺されてしまうかも…。」

クリスタシアが俺の不安をどんどん煽ってくる。

勘弁してくれ、そんな物騒な所にいつまでもいられるかっ!

クリスタシアが俺から離れたすきに、長距離転移でどこかへ逃げてしまおうっ!


「安心してくれ、ここに居る限りは、ワタシが君の身の安全を保障しよう!

だから、君には協力者として、裏切り者の憲兵を捕まえるのを手伝って欲しいんだっ!」

「いや、自分で脱獄するんで結構です。」

「…………ええぇぇっっ??!!」


俺はクリスタシアの申し出を断った。


つづく


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