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その12

「ここに入ってろっ」

ーガシャンー

憲兵隊の詰所に連れてこられた俺は、

明氷亭で俺を後ろから殴りつけたチョビ髭の憲兵に、

地下にある牢屋に蹴り込まれた。


「痛てて…あのチョビ髭、覚えてろよ…。」

俺はヤフベ村を逃げ出した時、山狩りを指揮していた領主のチョビ髭を思い出し、

「俺がチョビ髭と合わないのか、チョビ髭は嫌な奴に生えるのか…。」

「君は何を言ってるんだ?」

「え?」


俺が声のした方を振り向くと、そこには先ほど俺を捕縛した憲兵隊の女隊長が立っていた。

俺の独り言に相槌を打ったのは、彼女のようだ。


「ま、あのチョビ髭が嫌な奴なのは確かだがね。」

女隊長は俺の牢に近づくと、

「この男と少し話をしたい。ここは私が見ているから、君たちは今日はもう上がっていいぞ。」

「はっ!」

牢の番兵達は口々に、立ち寄る飲み屋の名前を言い合いながら階段を登っていく。

番兵達の声が小さくなり、やがて聞こえなくなると、

「さてと…。」

女隊長は近くにあった椅子に腰を下ろす。


「まずは君の名前を…いや、自分から名乗るのが礼儀だな。

ワタシの名前はクリスタシア・ブリッツェル、この管区を管轄する帝都憲兵隊第3方面隊の副隊長だ。」

隊長だと思っていた女性は副隊長で、物腰も柔らかく自己紹介をしてくれた。

「…俺はソーヤ、ソーヤ・トゥエイン。ソーヤ運送屋って運送屋だ。」

「ぷっ!あはは、ちょっ、ちょっとソーヤが多くないかい?」

俺の鉄板自己紹介に、クリスタシアが思わず吹き出す。


「いや失礼、自己紹介で笑うとは、申し訳ない。」

生真面目にもクリスタシアが頭を下げる。

「いやいや、頭を上げてくれ!これは相手を笑わせて緊張を解く営業トークみたいなもんだ。」

「なるほど、営業トークか。うまいものだ。

ん?では、ワタシはまんまと引っかかったワケだな。」

クリスタシアは俺の説明に感心しきりだ。


俺は牢の前でふむふむと頷いているクリスタシアを見つめる。

彼女は感情表現が豊かなのだろう、表情がコロコロとよく変わる。

見ていて飽きないし、どの表情もとても素敵で魅力的だ。

明氷亭に訪れた際は(いかめ)しい鎧を装備していたが、

詰所内だからだろう、今は軽装の革鎧姿になっている。

そのため、随分柔和な印象になった。

鎧姿の時にはわからなかったが、ツヤツヤと綺麗な長い赤毛を、大きめのリボンで一つに束ねている。

その毛先は少しうねり、彼女の動きに合わせてフワフワと揺れる。


フワフワ揺れる毛先を目で追っていると、彼女と目が合った。

長い睫毛に、深いブルーの瞳。俺の意識がそのまま吸い込まれていると、

「…あまり見つめてくれるなよ///」

俺の視線があまりに情熱的だったのか、クリスタシアは頬を赤らめ、フイと顔を逸らす。


「いや、あまりに魅力的だったんでつい…。不躾ですまなかった。」

今度は俺が頭を下げる。

「いやいや、謝らないでくれっ!決して嫌だったワケではっ…!?」

そこまで言ってクリスタシアは、自分が恥ずかしい事を口走っている事に気付いたのか、

下を向いたまま黙ってしまった。


これは俺から話を振るべきか…。

「クリスタシアさん、俺に何か用かい?殺人容疑の取り調べには思えないんだが?」

俺の問いかけにクリスタシアの顔つきが変わり、切れ長の瞳がさらに鋭くなる。

「君…いや、ソーヤ。ソーヤはあの男、ゴゥスを殺したのかい?」

「アイツ、そんな名前だったのか…。いや、殺してないよ。蹴飛ばしたが、死ぬような蹴りじゃなかった。」

俺はゴゥスと争った時のこと、ドロップキックで蹴飛ばし、転がるゴゥスの腹を蹴り上げた事を伝えた。


俺の話を黙って聞いていたクリスタシアは怪訝そうな顔をしている。

「そうだな、そりゃスグには信じられないか…。」

「いや、そうじゃない…。ソーヤ。私の目を見てくれ。」

「?」

言葉の真偽を見極めようと、クリスタシアが俺を深い青色の瞳で見つめる。

その瞳を、俺も黙って見つめ返す。

「…剣で、刺してはいないのかい?」

「?ああ、蹴飛ばしただけだよ。」

俺たちは鉄格子越しに無言で見つめ合う。


どれ位の時間、見つめ合っただろう。

俺はクリスタシアの可愛い唇へそっと自分の唇を近づけてみる。

クリスタシアに嫌がるそぶりは見えない。

そのまま、お互い首を傾けながら、少しづつ顔を近づけていく。

あと10cm…あと5cm…あと3cm…という所で、

「うわぁっ!何をするんだ君はっ?!」

我に返ったクリスタシアが仰け反りながら、俺の顔面にストレートを入れる。


ーごんっ!ー

「痛っ!」

仰け反ったせいで狙いが逸れたのか、ストレートは俺の額に当たる。

そのためクリスタシアは拳を痛めたようだ。

「だ、大丈夫か、クリスタシアっ!」

俺は鉄格子に顔を押し付け、彼女に近づく。

「わわっ!?だ、大丈夫だから!こっちに来ないでっ!」

「とりあえず…。」


クリスタシアの拳が青白く光る。

「あ…痛みが?…君は回復魔法が使えるのか?」

「ああ、他にも色々使えるぜ?」

俺は掌に炎の玉とつむじ風を出す。

「な、なんと…。これは…。」


クリスタシアは少し考え込んだ後、再び俺を見つめながる。

なので、俺も見つめ返すが、

「き、君はいいんだ、見つめなくてもっ!」

クリスタシアは慌てて顔を逸らす。

「…君は危険だ///」

クリスタシアは小さく呟く。


「え?」

俺はわざと聞こえてない風を装う。

「何でもないっ///ソーヤ!君に頼みがある!」

「何だ?」

ふー、クリスタシアは深呼吸すると、意を決したように俺を見据え、

「ワタシと組んでくれないか?」


つづく


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