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その11

「ただいまっ!奴らのアジトがわかったぞ!」

俺は臨時休業の札が掛かった明氷亭の扉を開け、勢いよく中へ入る。

「えぇっ?もう戻って来たのかいっ?!」

「お前さん、こんな時にそんな…ウソはいかんぞ?」

入り口のカウンター近くの長椅子に座っていた女将さんとテウルス爺さんが、怪訝そうな目で俺を見ている。

俺は肩に付いた雪を払いながら、

「ソーヤ運送店をナメないでくれよ?あの位の距離なら朝飯前のひとっ走りさ。」

「ホ、本当に、ウソじゃないのかい?」

「ああ、奴らのアジトも聞いてきたよ。

ユウリちゃんはソコで無事でいるだろうってさ。」

「あぁ、ユウリ…良かった…。」

「とても信じられん…なんて脚力じゃ…。」

女将さんは天に祈り、テウルス爺さんは化け物でも見るような目で俺を見ている。


女将さん達の反応は無理もない。

ここホルクからテウム村までは、大きな乗り合いのソリ[ロール]に乗って丸1日以上かかる。

そんな田舎の村までの雪深い道を、ほぼ1日で往復してきたと言われたって、信じられないだろう。


だが、俺にはこの世界で俺だけが使える[時空魔法 #長距離跳躍__ワープ__#]がある。

転生時のボーナスとして、女神様に作ってもらった時空魔法の一つだ。

これを使えば、一度行った場所へは一瞬で移動可能になる。

ここホルクに来る前にテウム村に立ち寄っていたのが幸いした。


「ソーヤ、おかえりぃ~。」

宿の奥からフィンが出迎えに出てくる。

「ただいま"っ!?」

感動の再会、抱き合おうと両手を広げていると、

フィンの拳が脇腹にめり込んだ。

「ぐおぁ…フィ、フィン…どうして…?」

「ソーヤから女の人の匂いがする。」

ーギクリー

「ユウリ危ないのに、ソーヤはエッチな事してた。だから、殴った。」


「お前さん…。こんな時に何やっとんじゃ。」

テウルス爺さんが呆れ顔だ。

何ってナニしてたんだよ、うるさいなぁ!

「ヤレる時にヤる!いつも一生懸命っ!コレが俺のポリシーなんだよ!」

「…格好つけられてものぉ。」

テウルス爺さんはゴミを見るような目で俺を見てるし、

あぁ、女将さんが頭を抱えてしまった、ごめんなさい!


「ところで、憲兵に連れていかれた男はどうなった?」

俺の質問に、皆がハッとする。

「ソーヤ!逃げようっ!」

「そうじゃそうじゃ!早ぅ逃げぇ!」

「ユウリも心配だけど、アンタが捕まったら元も子もないよっ!」

フィンが俺を、裏口の方へと手を引く。

「お、おいっ、何だよっ?!」

「憲兵に連れて行かれた男な、死んだようなんじゃ!」

「えぇっ?!死んだっ?!」

テウルス爺さんが俺の背を押しながら教えてくれる。


「憲兵が言うには、一旦牢に入れて、少ししてから話を聞きに行ったら、死んどったらしい!」

「そんな…。」

奴らのアジトはわかったが、人数や合言葉なんかの情報を聞き出そうと思ってたのに…。

情報ナシでアジトに突入か…嫌だなぁ。


「でも、何でそれで俺が逃げるんだよっ?」

「奴らは自分たちが連行する前に、お前さんから暴行を受けて、そのせいで死んだと思っとる!」

「そ、そんなっ!いや、確かに蹴っ飛ばしたけどっ!」

「それは、自白と思っていいのかな?」

「そうじゃなくっ…?!」


声の方に振り返ると、そこには憲兵隊が隊長と思わしき赤髪の女性を先頭に剣を構えていた。

裏口付近で騒いでいて気づかなかったが、店の入口から憲兵隊が踏み込んでいたようだ。

「君には殺人の容疑がかかっている。」

「そ、そんなっ?!」

憲兵が駆け寄り、両脇から腕を抱えられる。

「抵抗するようなら、この場で切り捨てるが…どうする?」


そう言うと、隊長は剣を突き出す。そして、その剣の切っ先が俺の首に少し刺さり、一筋の血が流れる。

「ソーヤっ!」

俺を傷つけられた事で、フィンの目の色が変わる。

比喩ではなく、普段深紅の瞳が、怒りによって真っ黒になるのだ。

「フィン!よせっ!」

俺は隊長に襲いかかろうとするフィンを制すると、

「抵抗はしないよ。何か誤解があるようだけど、俺はアイツを殺しちゃいないよ。」

「殺した奴は皆、そう言うさ。

まあ、言い訳は我々の詰所で聞こうか。」

隊長は俺を抱えている両脇の憲兵に目で合図する。


「さっさと歩けっ!」

憲兵は乱暴に俺を連行する。

「ソーヤっ!」

「ダメじゃ嬢ちゃんっ!」

俺を助けようとするフィンをテウルス爺さんが抑える。

「爺さんっ!フィンを頼んだっ!」

「ソーヤぁっ!」

「フィン!俺なら大丈夫だから!おとなしく待ってるんだぞっ!

いい子にしてたら、ご褒美だっ!」


「うるさいっ!」

ーゴッ!ー

ちょび髭の憲兵が俺の頭を後ろから殴りつけた。

「…テメェ…顔は覚えたからな…。」

「ひっ?!こ、このっ!」

俺が睨むと怯んだようだが、自分の優位を思い出したのか、殴りかかってきた。


「無駄口を叩くなっ!」

隊長が一喝し、俺を小突く。

「元気がいいな。元気がいい奴は大好きだ。」

隊長がニヤリと笑う。

よく見れば切れ長の瞳がキレイな美人さんだ。

「俺も、美人は大好きだよ。」

「ふんっ。」


ーぴしっー

俺の鼻の頭を指で弾くと、

「行くぞっ!」

哀れソーヤ・トゥエインは憲兵隊詰所へと無実の罪で連行されたのだった。


つづく

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