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その9

「…ただいま。」

アンヌが家の扉を開ける。

「あ!姉ちゃんだっ!」

「姉ちゃん、お帰りっ!」

「母さん、父さんっ!姉ちゃん帰って来たよっ!」

家の中に子供の嬉しそうな声が響く。子供は3人、アンヌの弟妹のようだ。


アンヌの家はお世辞にも豊かには見えない。

子供たちの服も肘や膝には継ぎ接ぎだらけ、

家具なども必要最小限の物しかなく、壁に絵の1枚もない。

この寒村にもかかわらず、窓にかかるカーテンは薄く、とても冷気を防げるとは思えない。

何より、赤々と燃える炎で部屋を暖めてくれるはずの暖炉には薪の代わりに灰しかなく、部屋は外とほとんど変わらない寒さだ。

風がないだけマシではあるが、それも家のあちこちから隙間風が吹き込み、部屋の隅には少し雪が積もり始めている。


「ア、アンタ…一体どうやって帰って来れたんだいっ?!」

奥の部屋から母親と思しき老夫人が。

足が悪いのか、膝を摩りながら現れた。

母親は俺をジロリと一瞥する。それに俺は笑顔で応えるが、母親は鼻を鳴らし、すぐに視線を外す。

俺は母親の態度に違和感を覚える。

『俺が歓迎されてないのはいいとして…。

娘の帰郷に驚いてはいるが、あまり喜んではいない…?』


「アンタがここにいるって事はっ、か、金、お金はっ?!」

「…大丈夫だよ、母さん…。ソーヤさん、あれを。」

アンヌは寂しそうに笑うと、振り返って俺に目配せする。

アンヌの後ろに立っていた俺は、事前に言われていた通り、アンヌに渡されていた袋を母親に差し出す。

母親は俺から無言でソレをひったくると、大事そうに胸に抱く。まるで我が子を慈しむように。


そして、俺を再び一瞥すると、

「なるほど、この優男が盗らないように見張りに付いて来たってことかいっ!」

「母さん、やめてっ!ソーヤさんはギルドとも取引がある、立派な運送屋さんよっ。」

「ふんっ、どうだかねっ!」

俺への悪態を娘に咎められたのが気に障ったのか、俺たちにそっぽを向けると、大事そうに袋の中身を机に広げる。


ーザラザラッー

中からは中金貨が数十枚。

中金貨1枚が日本円で5万円ほど。この家には過分な大金だ。

「わあっ、キレー!」

「こらっ!」

ーパシっ!ー

興味本位で金貨に手を伸ばした子供の手を、母親がひっぱたく。

「うぇ~ん。」

「まったく、おもちゃじゃないんだよっ!」

泣き出した子供に目もくれず、金貨を数え始める。

母親のその姿を、アンヌは悲しそうに見つめている。


「…58、59、60枚っ。よし、ちゃんとあるね。」

金貨を数え終わった母親は、満足そうに金貨を袋に戻す。

「ソーヤさん、こっちへ。」

アンヌは奥の部屋へ俺を手招きする。

母親は俺を軽く睨むと、すぐに視線を胸に抱いた金貨の袋に戻した。

奥の部屋に進む途中の部屋に粗末なベッドあり、薄い布団を数枚重ね、老人が寝ている。

頬は痩け、目は窪み、顔色も悪い。恐らく、病に侵され、寝たきりなのだろう。


「アンヌ…。」

落ち込んだその目に涙を浮かべる老人に、アンヌは無言で頷くとその頬にキスをした。

老人は俺を無言で睨みつける。見た目からは想像できない、力強さだ。

「父さん、この人はそうじゃないから。」

アンヌはそう言うと、俺を奥の部屋へと招き入れた。


部屋の中には父親以外の家族で寝るのだろうか、粗末だが大きなベッドが1つ。

「父さん、アナタを女衒か何かと勘違いしたみたい。ふふ、男前だもんね…。」

アンヌがベッドに腰掛け、あの寂しそうな笑顔で笑う。無理に作る笑顔が痛々しい。

「あの母親…。」

「昔はあんなじゃなかったんだけどね…。」

他人の母親をどうこう言う趣味はないが、あれはひどいんじゃないか、そう言おうとした俺の言葉を遮り、アンヌは擁護する。


ーぽんぽんー

「座って。」

自分の隣に座るよう促されるが、

「アンタの自分語りに付き合うヒマはないんだ。

そろそろユウリちゃんを拐ったヤツのー。」

「あの娘なら大丈夫よ、私が保証するわ。」

アンヌが俺のセリフを遮る。


つづく


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