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その8

「あ…アナタ、ホルクの…っ!え、でも!何でココにっ!?」

「何だよ、そんなに不思議か?」

俺は鼻で笑いながら、雪の中に尻餅をついているアンヌを見下ろす。


「あ、有り得ないっ!だって、ホルクからココまで、ロール以外に交通手段はないわっ!

次のロールだってまだ着かないっ!なのに、何でアナタが先にっ?!この大雪の中をどうやー。」

「ユウリちゃんを身代わりに、自分は逃げ切ったと思ったか?」

「ぐっ…。」

俺の一言にアンヌは言葉を飲み込み、視線を落とす。

寒さのためか、罪悪感か、血の気は引き、肌はさらに青白く、死人のようになる。


「#どうやって__・__#ココは来たかなんて、アンタにゃわからないだろうし、関係ないから教えない。

それより、俺が#どうして__・__#ココへ来たかは、わかるだろ?」

俺の追求にアンヌは黙って下を向いたまま、立ち上がろうともしない。

やれやれ、埒が明かない。


ーぶるるっー

雪の中、長い間アンヌを待っていたため、防寒着を着込んではいるが、あまりの寒さに身震いする。

アンヌを見ると、ひどい格好だ。とてもこの雪の中実家に帰る服装じゃない。

それに、顔もコートから見える素肌もアザや擦り傷が痛々しい…。

「アンタ、実家に帰るつもりだろ?そんなナリで帰るのか?」

俺はため息をつき、尻餅をついたままの彼女に手を差し出す。

しかし、彼女は手を取らない。先ほど急に放された事で警戒しているようだ。

「もう放したりしないから。俺ももう寒いんだよ。」

俺の言葉に警戒を解いたのか、おずおずと手を伸ばし、俺はその手を握る。

「冷てっ!」

氷のように冷たい彼女の手に、思わず声が出る。


アンヌを引き起こし、彼女の肩や頭の雪を払ってやりながら、

「アンタの家で、事情を聞かせてもらおうか。すっかり冷えちまった。」

「…わかったわ。」

「素直な女は大好きだ。ならー。」

俺はアンヌの頭上に手をかざすと、

「服はどうにもしてやれないが…。」

「あ…。」

アンヌの手足の傷がみるみる消えてゆく。

「これで、少しは帰りやくなっただろ?」

「あ…ありがと…。」

「報酬を先払いしたんだ、しっかり話してもらうからな。」

アンヌは黙って頷くと、

ーザコッ、ザコッー

俯いたまま無言で歩き出した。

俺も無言で、彼女の後を歩き出す。


寒さに身を縮こまらせ歩く姿は痛ましい。

『彼女にも、事情があるんだろうな…。』

決して彼女への追求を弱める気はないが、少し胸が痛む。


ーフワッー

「え?」

俺はアンヌに自分の防寒具を被せる。

「ちょっとはマシだろ?」

「ありがと…。」

自分ながら、なんてキザな事を!

前世の自分ならとても出来っこない事を平然とっ!


風が強くなってきた。

ーぶるるっー

「う~寒いっ!早く行こうぜ!」

俺はアンヌを急かす。

「わかったから…急かさないでよ…。」

そう言う彼女の頬は、先ほどまでの死人のような肌とは違い、気のせいかほんのりと赤い。


「お、あったかくなったか?」

「べ、別に…。」

彼女は口を尖らせ、真っ白な雪の中を歩いていく。

『待ってろよ、ユウリちゃん…。』

アンヌの歩く先に、赤い屋根の家が近づいてきた。


つづく


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