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12/21

その7

「ブルルゥッ!」

「どうどうっ!よぉし、いい子だぁ。」

鼻息の荒いオウラを、御者がなだめる。


『着いた…。テウム村…。』

乗合ソリ[ロール]から降りた女性が辺りを見渡す。

村の周りに植えられた木々のおかげで、吹雪は幾分ましになった。

だが、村の中も真っ白な雪が積もり、一面銀世界だ。

帝都[ホルク]へ出稼ぎに出て3年、貧しかった寒村は何も変わらず、むしろ更に荒んだような…。

『ホルクとは全然違う…。まるで切り捨てられ、忘れ去られたよう…。』


女性はロールの駅舎を足早に離れる。

駅舎から伸びる、村一番の大通り。

だが、そんな大通りも雪かきはされず、積もった雪で地面は見えない。

「きゃっ!」

女性はつまずいて転ぶ。

「痛っ…。」

地面に付いた手の平から血が滲んでいる。

地面は帝都の街路とは違い舗装されておらず、雪の下の地面はゴツゴツしている。

降り始めのぬかるんだ状態で付けられた足跡が、そのまま凍ったためだ。

その凍った足跡のフチに足を取られ、そのギザギザのフチがノコギリのように彼女の手を切ったのだ。

『舗装もされてない道…。帝国は、皇帝陛下は田舎をなんだと思ってるのかしら!』

彼女は血が滲む手の平を見つめながら、故郷を見捨てたかのような帝国に憤る。

『見捨てるなら、完全に忘れてくれればいいのに…。』


ーザコッ…ザコッ…ー

彼女の膝程まで積もった雪に足を取られながら、ゆっくりと家路を進む。

『やっぱり、室内履きでは、無理が、あるわねっ!』

一瞬で水を吸ってびしょびしょになった靴は、彼女の足先の感覚を奪ってゆく。

『早く家に帰って、暖炉の火で暖まらないと…。』

実家の暖炉、明々と部屋を照らす、温かな暖炉を思い出す。

『温かいスープが欲しいわ…。』

暖炉にかけた鍋、スープのおいしそうな匂い、それをかき混ぜる、母の姿を思い出す。

『お酒も少し…。』

胃の中から暖まる感覚、ノドを焼くようなアルコール度数の高い酒、それを呑んでご機嫌の父親の赤ら顔を思い出す。


ーザコッ…ザコッ…ー

しばらく雪と格闘していると、吹雪の隙間に自分の家の赤い屋根が見えた。

ーザコッ!ザコッ!ー

足取りは軽くはならないが、スピードを上げる。

『早く、早く帰りたいっ!』

雪の上にポタポタと手の平から血が滴る。

『母さんに、包帯を…あるかしら?』

じんじんと痛む手の平のキズを見つめ、

『暖炉の薪も、スープの具も、お酒も…あるのかしら?』


そんな事を不安に思っていると、

「えっ?!」

見つめていた手の平のキズが青白く光ったかと思うと、見る見るうちにキズが消えていく。

「えっ?これは、回復魔法っ?!誰がっ?!」

彼女が慌てて顔を上げると、目の前の男と目が合う。

「ソレはサービスだ。」


「きゃっ!」

驚いた女性はよろめき、後ろへ転びそうになるが、

「おっと。」

咄嗟に男が手を取り、おかげで体勢を持ち直せた。

「あ、ありがー。」

女性が礼を言いかけると、

ーパッー

「きゃっ!」

なんと男は急に手を離し、彼女は雪の中に尻もちを着く。


「ちょっ!アナタ何をっ?!」

言いかけて彼女は言葉を飲み込む。

見上げた視線の先に立っている男の顔を、彼女は覚えている。 

「あ…アナタは…。」

連れ去られるユウリを追った男、自分を傷つけた男を叩きのめした男…。


「待ってたぜ、アンヌ。」

ソーヤが立っていた。


つづく


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